アジア経済
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紹介:礒﨑敦仁編著『北朝鮮を解剖する――政治・経済から芸術・文化まで――』
慶應義塾大学出版会 2024年 vii+226ページ
廉 文成
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2026 年 67 巻 2 号 p. 146

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本書は,朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を多角的に紹介する入門書である。第Ⅰ部「政治・経済・科学技術」と第Ⅱ部「芸術・文化」からなり,朝鮮を多面的に理解するための案内書として位置づけられる。執筆陣は,朝鮮問題に関心を寄せる新旧両世代の日本人研究者8名で構成されている。本書を通じて,日本にとって「近くて遠い国」であり続ける朝鮮に対する研究のすそ野が,着実に広がりつつあることを垣間見ることができる。本書の概要は,以下のとおりである。

第1章から第4章までが,第Ⅰ部を構成する。第1章「政治 金正恩の「お子さま」をめぐる『労働新聞』論調分析」(礒﨑敦仁)は,朝鮮メディアに登場した金正恩総書記の「お子さま」(子女を示す)の描かれ方を整理している。政治権力の継承に関連する可能性のあるこのテーマについて,政治分析の方法に重点をおき,入手可能な公式報道とその他の情報源を区別しながら整理している。第2章「外交・安全保障 サイバー安全保障からみた北朝鮮の「非対称戦略」」(松浦正伸)は,朝鮮外交の変遷を概観したのち,費用対効果に優れた現代兵器であるサイバー領域における安全保障戦略について整理している。第3章「経済・法律 社会を見つめるツールとして」(三村光弘)は,朝鮮経済と法制度を通じて同国を読み解く手法を提示する。朝鮮経済の特異性や法に対する考え方の違いを他の社会主義国と比較しながら説明し,それらを支える制度的仕組みが社会変化にどのように対応してきたかを検証している。第4章「科学技術 保険医療へのIT活用――COVID-19対応を中心に」(上野遼)は,金正恩時代の科学技術重視政策を概説したのち,新型コロナウイルス感染症への対応において,情報技術を保健医療分野にいかに活用したかを分析している。

第Ⅱ部は,第5章から第8章までである。第5章「文学 なぜ北朝鮮文学を読むのか」(鈴木琢磨)は,朝鮮特有の「首領形象文学」に焦点を当てる。1945年の解放後から今日まで,最高指導者たちの思想をさまざまなエピソードを交えつつ,リアルに伝達する媒体としての文学に着目する意義を説いている。第6章「音楽 「朝鮮音楽」の創造――歴史的形成と特徴」(森類臣)は,朝鮮の文献に基づき朝鮮音楽史を概観し,音楽が担う「宣伝扇動」の役割について論じている。金正恩時代に登場したいくつかの音楽団の系譜とその特徴が整理されており,著者が朝鮮音楽愛好家としての一面をもつこともうかがえる。第7章「映画 芸術映画からみる北朝鮮の政治と社会」(横溝未歩)は,朝鮮映画のプロパガンダ性だけでなく,そこから読み取れる人々の暮らしや社会のリアルに着目する視点を提示する。さらに,外部の人間が見出す文化的コンテンツとしての朝鮮映画の新鮮さと面白さについても述べている。第8章「言語 北朝鮮の朝鮮語教科書に現れた言語的特徴」(髙木丈也)は,朝鮮語というフィルターをとおして朝鮮を理解するという観点から,非母語話者用に作成された英語版の朝鮮語教材を取り上げ,そこに現れる言語的特徴を分析している。表記,語彙,文法,日常会話表現,地理,文化,社会,政治にかかわる表現の特徴だけでなく,韓国の標準語におけるそれらとの違いについても整理している。

このように各章には担当執筆者の個性が反映されており,本書全体を通じて,朝鮮の全体像を把握するためのいくつかの手がかりや方法論に対する知見を得ることができる。また,執筆陣が朝鮮研究との出会いを綴ったコラムや参考文献リストも収録されており,朝鮮研究初心者に対する配慮もうかがえる。

本書は,そのタイトルが示すとおり「施術者」の立場から朝鮮を「解剖」する視点を提供している。本書が開いた視座をさらに広げるために,現地に暮らす人々が現実と情勢をどのように認識し,政治・経済・科学技術・芸術・文化などをどのように受容しているのかについて,彼ら/彼女らの立場からみる世界の構築に迫る試みも今後期待したい。

 
© 2026日本貿易振興機構アジア経済研究所

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