主催: (一社)日本調理科学会
【目的】酒やパンなどの発酵食品に新しい特徴を付加するため、自然界からSaccharomyces cerevisiaeの分離が試みられている。我々はこれまでに選択増殖培地及び分子生物学的手法を用いて愛知県内の花から約20株のS. cerevisiaeを取得することに成功し、これらの株の生理学的性質と遺伝的多様性を明らかにした。本研究では、S. cerevisiae分離株を用いたパン類の製造を目指して、これらの株のパン製造への適性を評価した。
【方法】花からのS.cerevisiae分離株の炭酸ガス発生量測定、低糖・無糖・高糖濃度での生地膨張力試験、冷凍生地膨張力試験、製パン試験及び官能評価をUSイースト(オリエンタル酵母工業(株))を対照株として行った。これらの試験はパン用酵母試験法(日本イースト工業会編)に準じて行った。
【結果】19株のS.cerevisiae分離株のうち14株が対照株の90%以上の炭酸ガス発生量を示し、これら14株を一次選抜株とした。一次選抜株について低糖・無糖・高糖生地における膨張力を測定したところ、低糖生地では一次選抜株のすべてが対照株の90~100%の生地膨張力を示し、無糖生地では対照株の約50%の生地膨張力を示した。高糖生地では12株が対照株の約80%、2株が約50%の生地膨張力を示した。冷凍生地膨張力試験による冷凍耐性は、試験を行った9株のうち4株が高い冷凍耐性を示し、うち2株は対照株より高い冷凍耐性を示した。一次選抜株を用いて低糖生地配合によって試作した食パンは対照株の85~110%の比容積を示し、外観・味・香りは対照株と同等であった。 本研究は公益財団法人エリザベス・アーノルド富士財団平成24年度学術研究助成により行った。