1995 年 48 巻 8 号 p. 965-998
我々は1981年以来全国各地の病院・研究施設と共同で呼吸器感染症分離菌を収集し, 分離菌の各種抗菌薬に対する感受性, 患者背景と分離菌などを経年的に調査してきた1~8)。今回は, 1991年度の調査結果を報告する。
1991年10月~1992年9月の間に全国20施設において, 呼吸器感染症患者529例から採取された検体を対象とした。それらの検体 (主として喀痰) から分離され, 起炎菌と推定された細菌は631株であった。このうち, MICの測定できた菌株数は612株であった。その内訳はStaphylococcus aureus 96株, Streptococcus pneumoniae 112株, Haemophilus influenzae 111株, Pseudomonas aeruginosa (Non-mucoid) 114株, Pseudomonas aeruginosa (Mucoid) 39株, Moraxella subgenus Branhamella catarrhalis 41株, Klebsiella pneumoniae 20株, Escherichia coli 12株などであった。
主要菌株の抗菌薬に対する感受性は, 各薬剤とも前年とほぼ同様の成績を示した。S. aureusではMPIPCのMICが4μg/ml以上の株 (Methicillin-resistant S. aureus) が56株, 58.3%を占め, 前年に比べ耐性菌の発現頻度に上昇傾向が認められた。
又, 患者背景と感染症と起炎菌の推移等についても検討した。
患者背景については, 年齢別の分布では高年齢層の感染症が多く, 60歳以上が64.9%を占め, 高齢者の割合は前年とほぼ同程度であった。疾患別の頻度では, 細菌性肺炎, 慢性気管支炎がそれぞれ32.1%, 37.296と多く, 以下気管支拡張症, 気管支喘息 (感染併発, 以下同様) の順であった。疾患別の起炎菌の頻度についてみると, 細菌性肺炎ではS. aureus 19.9%, P. aeraginosa 21.8%, S. pneumoniae 12.6%, 慢性気管支炎ではS. pneumoniae 23.5%, H. influenzae 20.5%, 気管支拡張症ではH. influenzae 29.2%, P. aeruginosa 47.7%, 気管支喘息ではH. influenzae 27.3%, S. pneumoniae 30.3%, M.(B.) catarrhalis 15.2%が上位を占めた。
抗菌薬の投与の有無, 日数ごとにみた分離菌についてみると, 投与前に分離頻度が多い菌はS. pneumoniae (26.2%), H. influenzae (23.4%) である。一方, S. aureus (20.5%), P. aeruginosa (36.2%) では逆に投与後に頻度が多い傾向を示したのは前年と同様の結果であった。又, 投与期間が8~14日の例では, 前年同様P. aeraginosa (39.1%) の頻度が多かったが, 4~7日ではS. aureus (35.3%) 及びP. aeruginosa (35.3%) の分離頻度が高かった。
MRSAの分離頻度についてみると, 因子・手術の有無によるMRSAの分離頻度は「有り」で61.8% (47/76), 「無し」で45.0% (9/20) となり, 因子・手術の有りの例でMRSAの分離頻度が高い傾向を示した。抗菌薬の投与前・後におけるMRSAの分離頻度は「投与前」で38.6% (17/44), 「投与後」で75.0% (39/52) となり, 抗菌薬投与後で明らかに高値を示した。