The Japanese Journal of Antibiotics
Online ISSN : 2186-5477
Print ISSN : 0368-2781
ISSN-L : 0368-2781
臨床分離株を中心としたホスホマイシンの耐性機構
小原 康治橋本 一
著者情報
ジャーナル フリー

1996 年 49 巻 6 号 p. 533-543

詳細
抄録

放線菌の二次代謝産物として発見されたホスホマイシン (FOM) は, 細胞壁のペプチドグリカン合成初期段階のエノールピルビル転移酵素を阻害し抗菌作用を発揮する。 FOMはグルコース6-リン酸 (G6P) 取り込み系およびL-α-グリセロリン酸 (αGP) 輸送系を利用して透過する。
FOMの最小発育阻止濃度は嫌気条件下で低ドし, このために腸管内でのFOM効果増強を生じ耐性菌が出現しにくいとされている。突然変異FOM耐性菌は10-6~10-8の頻度で低・中等度耐性菌が出現してくるが, FOMとの接触が続くと耐性が段々高度になる。 このようなFOM耐性化はヘキソースリン酸取り込み系の欠失, αGP輸送系の欠失や標的酵素遺伝子の一塩基突然変異により生じる。 臨床分離のFOM高度耐性セラチアでは伝達性プラスミド上のFOM耐性遺伝子fosAが腸内細菌に伝播し, その遺伝子産物であるFOM: グルタチオン付加酵素 (FOM: GST) の性状が知られている。 表皮ブドウ球菌のプラスミド性FOM耐性遺伝子fosBは非伝達性で, FosA蛋白と同一起源とされている。緑膿菌のFOM高度耐性に関しては非伝達性で, 内膜に緩く結合している FOM: GSTにより耐性化していると考えられている。 肺炎桿菌のFOM耐性に関しては, FOM: GSTおよび不透過性機構が知られている。これらの臨床分離細菌のFOM耐性遺伝子fOsAの起源はFOM生産放線菌自己耐性遺伝子にあるとされるが, FOM生産放線菌の自己耐性遺伝子 (fomAとfomB) による耐性機構との関連は未だ不明である。 他に, FOM生産菌である Pseudomonas syriingaeの自己耐性は膜不透過性およびFOMリン酸化機構 (fosC遺伝子) によることが知られている。 以上のように臨床分離FOM耐性菌の耐性機構および遺伝子解析や, FOM生産菌の自己耐性機構の詳細な解析が行われつつあり, これらの知見が今後の新しいFOM系抗生物質の開発を方向づけると期待される。

著者関連情報
© 公益財団法人 日本感染症医薬品協会
次の記事
feedback
Top