抄録
本研究は各種哺乳類67種の小脳核に就き前額断連続切片のパールカルミン染色標本を用いての比較解剖学的研究であるが, 著者は小脳核の小脳全体に対する発達度合を知る為に外側核, 中位核及び内側核の最大面積を求め, 一方小脳室頂に於ける小脳半側の面積を計測して両者の比を求め, また外, 中, 内3小脳核の体積推定値を求めて比較した. その成績は次の様に要約される.
哺乳動物が高級になるに従って小脳核対小脳全体の比は小さくなる. 之は半球が大きくなる為によるものである. そして下級動物では半球の発達の弱さを核が代償していると思われる.
3小脳核は人及び猿類の大部分では外側核, 中位核, 内側核の発達順位を示し, それ以下では中位核, 内側核, 外側核の順位になる. 人と猩々では特に外側核の発達が良い. 之は機能的及び系統発生学的事実に一致する.
中位核は前中位核と後中位核に分けられ, 前中位核は外側核と, 後中位核は内側核と形態的にも機能的にも複合体を作る. 前者の中, 前中位核は四肢の一般的基本運動に, 外側核は四肢の基本運動の外に手の運動にも関与する. 後者の中, 内側核は平衡運動に, 後中位核は躯幹及び頭部の運動の外, 一部平衡運動にも関与するものと考えられる.
外側核に於ける鋸歯形成は, 人, 狭鼻猿類並びに広鼻猿類の一部に限り認められ, その発達は外側核の発達に比例する.
3小脳核は高級哺乳類では完全に分離独立し, 又中位核も前中位核と後中位核とに分離するが, 動物が下級になるに従って互に融合の傾向が強くなり, 最下級の単孔類では1つの核塊として表わさされる.