2020 年 14 巻 5 号 p. 52-60
現在でも多くの薬剤師は、日々の業務に追われる中で自分の仕事を処方箋に基づく調剤を軸に考えていることが多いかもしれない。しかし、地域包括ケアの世界では、かかりつけの医師などと連携して「退院後の生活をどのように支援していくか」という視点を持たなければならない。つまり処方設計や処方箋に基づく薬局の調剤から、薬剤交付後の患者が帰宅してからの薬学管理へ重点が移っていくと考える必要がある。入院は治療のための生活であるが、地域包括ケアでは日々の生活を支えるための医療・介護であるというパラダイムシフトが、特に地域の薬局薬剤師には必要である。こうした観点で薬剤師の仕事を見直した時、薬剤師がこれまで薬を通して医療や患者、地域社会と関わっていたとするならば、その枠から出て、そのもっと外側にある地域社会や患者の生活、あるいは医療・介護の視点から薬物治療や薬剤師の仕事を再考しなければならないことがわかる。10年後にプライマリ・ケアの分野で活躍する薬剤師は、今以上に公衆衛生や予防、QOL向上につながる活動に関わり、「生活と街づくり」の当事者としての役割を果たすことが求められてくる。その時、薬剤師が地域で調剤作業者としてではなく、専門職として一定の役割を果たせるかどうかは、処方箋調剤のように医師などの他職種から仕事を受け取るという受動的な多職種連携だけではなく、自らがインフルエンサーとして能動的な活動がどこまでできるかにかかっている。