2000 年 20 巻 1 号 p. 11-19
症例は単純ヘルペス脳炎後に重度の呼称障害を呈した56歳の流暢性失語の1例。この呼称障害は,発症3ヵ月後から行った一般的な言語訓練によってはほとんど改善されなかったが,発症7ヵ月後から,単語の主に語頭音文字の50音表における位置を記憶し,これを手がかりとして喚語する方法を本例みずからが考案した。
われわれは,この訓練法の有効性を単一事例研究法を用いて検討した。その結果,本訓練法は有意に呼称を促進し,さらに仮名音読による訓練よりも訓練効果が高いことが示された。本訓練法において,50音系列を利用してその音韻を抽出することが,呼称のための自己産生的手がかりとして有効であったものと推測された。