2021 年 69 巻 1 号 p. 1-11
2003,2004および2008年に長崎県諫早湾の干潟漁場で,貧酸素に曝露されたアサリが嫌気的代謝によって外套腔液中に蓄積する有機酸含量(コハク酸,酢酸,プロピオン酸)の変化を調べ,アサリの生残との関係を検討した。
2004年は水温31.3℃,DO 0.16mg/l と高水温下の貧酸素が約14時間継続し,同時に3種の有機酸含量が有意に増加して,アサリの死亡率は70%に達した。
対照的に,2003と2008年は2004年に比べると水温が低く,貧酸素の継続時間も6~11時間と短かったため,死亡率は8%以下であった。2003年はコハク酸が,2008年は3種の有機酸が有意に増加したが,2004年よりその値は低かった。このことから,2004年の大量へい死の原因は,高水温(30℃以上)と貧酸素の複合要因であると示唆され,有機酸含量は漁場環境がアサリに与える影響を生理状態から推察するのに役立つと考えられた。