本稿では, 2010年7月から2011年6月までの1年間に本邦で公表された教育心理学研究の中で, 成人期および老年期を対象とする発達部門の研究動向を概観した。成人期(20歳以上65歳未満)については「親性」「夫婦関係」「職業」「身体的変化」, 老年期(65歳以上)については「適応」「祖父母性」「認知」「介護」の各項を設けた。概観を通して, いくつかの傾向が認められた。成人期研究と老年期研究に共通して, 複数の年齢群のデータを収集, 分析した研究が見られた。成人期研究においては, 親としての成人および職業人としての成人に研究関心の大半が注がれていた。老年期研究においては, 超高齢者の語りや老年期における人格発達を取り上げた研究が見られ, これらは生涯発達の成熟期としての老年期をより直接的に捉えようとした研究であると考えられた。また, 1995年1月に発生した阪神淡路大震災に関する研究成果も報告されており, 2011年3月に発生した東日本大震災にあっても, 短期的, 長期的な心理的要因の解明と支援が, 成人期, 老年期研究にも課せられているといえるであろう。