2015 年 54 巻 p. 71-83
測定の信頼性は,実証的研究のおよそすべてに関わる問題である。本稿ではまず,信頼性の観点から直近1年間の教育心理学研究を概観する。近年のわが国における心理学諸分野のレビューからも確認されたように,研究場面において最もよく利用される信頼性の指標としてCronbachのα係数がある。しかし,α係数とはどのような指標なのかについては,心理学者の間で必ずしも理解がされていなかったり,誤解がされていることも少なくない。そこで本稿では,α係数がどのように解釈できる指標なのか,またどのように解釈してはいけない指標なのかを論じる。具体的には,前者についてはα係数が (1) 可能なすべての折半法による信頼性の平均であること,(2) 信頼性の下界の一つであること,(3) 本質的タウ等価の条件のもとで信頼性と一致することを述べる。後者については,α係数が (1) 大きいことが一次元性(等質性)の根拠とはならないこと,(2) 内的一貫性の指標とされることが多いが近年批判も高まっていること,(3) 項目数など様々な要因に依存すること,(4) 信頼性の「下限」ではないことを述べる。最後に,α係数に代わる信頼性の推定法と今後の展望,そして信頼性を高めるような測定の重要性を述べる。