2024 年 63 巻 p. 70-95
本稿では,2022年7月から2023年6月の間に刊行された研究を中心に,ビッグファイブと近年提唱されている社会情動的スキルの枠組みに基づき,本邦におけるパーソナリティと個人差に関する研究を概観した。その上で,非認知能力および社会情動的スキルを巡る議論に対する情動知能研究からの示唆を論じた。情動知能研究では,現在,心的過程を説明する情報処理モデルが積極的に構築されてきた情動調整研究との理論的統合が推し進められている。そして,この動向は,情動知能研究へのパーソナリティ心理学における社会認知的アプローチの視座の導入と捉えられる。非認知能力・社会情動的スキルを巡る議論に対して,社会認知的アプローチの視座を含めた研究を進めることにより,(1)そもそもこれらの特性や抽象的スキルが,どれほど個人に内在し,かつ状況を超えて安定的に見られるのかを考える手がかりを与えること,(2)変化のメカニズムに関する知見を提供できること,(3)個性記述的な視点が導入できること,の3つの利点を指摘した。最後に,学際的な議論の中でパーソナリティと個人差の心理学が果たす役割を議論した。