2004 年 3 巻 3 号 p. 185-188
鏡は,その前に広がる光景を即時的に映し出す.我々は,“鏡の中の世界は,その前にある我々の世界そのものである”という常識を疑うことはない.この常識に対して,本稿で提案する“through the looking glass”は,その概念を覆し,鏡の中に別の世界を作り出す作品である.本作品では,何の変哲もない普通の鏡を用いる.しかし,鏡の前に配置された映像スクリーンと,鏡の中に映るそのスクリーンには,別々の映像が見えている.すなわち,鏡の持つ対称性や整合性に縛られない映像が,鏡の中と外で自由に展開されているのである.例えば,鏡に正対した観客は鏡の中にいる自身の鏡像とホッケーゲームを通じて対戦することができる.普段は一心同体であるはずの鏡の中の自分と,敵・味方の関係に分かれて戦うことで,観客は“鏡の中の世界”との,さらには自分自身との新たなインタラクションを体験することができる.