人類學雜誌
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鹿児島の縄文,弥生遺跡出土のイヌの骨
西中川 駿松元 光春大塚 閏一河口 貞徳
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1992 年 100 巻 4 号 p. 485-498

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抄録

イヌは古代人が狩猟の伴侶として,また,番犬として,最も早くから家畜化した動物であり,わが国でも縄文早期(12,000-10,000BP)の愛媛県上黒岩岩陰などから,その証拠となる埋葬例が報告されている.鹿児島の縄文時代のイヌの出土例は,出水,江内,市来,草野,面縄,犬田布貝塚や上城遺跡および片野,黒川洞穴の11遺跡(3,500-2,500BP)でみられ,弥生時代には高橋貝塚,阿獄洞穴の2遺跡(2,300-2,000BP)から出土している.出土骨の総数は373個,その内102個は犬田布貝塚からの出土で,草野貝塚から83個,江内貝塚から82個と3遺跡で全体の71.8%を占め,他の遺跡からは極めて少ない.出土骨のほとんどは成犬のものであるが,2,3の遺跡では幼犬のものも含まれている.骨の形態は,縄文犬である田柄イヌ(宮城県)などとよく似た形質をもち,また,現生の柴イヌとほぼ同じ大きさである.長骨の最大長から体高を推定すると35~43cmであり,これは長谷部のいう小型イヌに属しており,小さいものは雌と推定される.以上の観察から,縄文後期の鹿児島県では,埋葬例はみられないが,すでに小型イヌが飼養されていたことが示唆された.

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