人類學雜誌
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日米混血児の乳切歯および乳犬歯における二•三の歯冠形質
埴原 和郎
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1965 年 72 巻 4 号 p. 135-145

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抄録
日米混血児における乳歯の主な歯冠形質についてはすでに発表したが(HANIHARA,1963)、本篇では残った重要な形質のうち、乳切歯および乳犬歯に関するものを追加報告する。
ここでとりあげたのは上顎乳側切歯と上下顎乳犬歯のシャベル形、上顎乳犬歯の double tubercle、および下顎乳犬歯の double fold である。結果を要約すれば次の通りである。
1.上顎乳側切歯および上下顎乳犬歯のシャベル形の分類には、すでに発表した D-series の標準模型のうち、D2, D3および D4をもちい、これらと対照しながらら発達の程度を分類した (HANIHARA,1961参照)。その結果、シャベル形は日本人に多く、しかも強く発達しているが,米白人および米黒人にはほとんど存在せず、この形質の存在する個体でも発達の程度はきわあて弱い。これに対して混血児では日本人と米国人との中間値を示す。このことは上顎乳中切歯における傾向とまったく同じである。
2.上顎乳側切歯のシャベル形の頻度から遺伝学的分析をおこなうと、この形質は単純優性に遺伝するという仮説によく適合する。この結果は日本人と米白人との混血児でも、日本人と米黒人との混血児でも同様であった。しかしこの仮説による期待値と観察値との一致度の検定は、資料の少ない点から高度の信頼性は期待できず、本文中では統計学的計算にはふれなかった。
3.上述の遺伝学的分析から、標準模型 D2 (Fig.1)に示した4階級のうち、階級 O および1は非シャベル形、階級2および3は真のシャベル形を示すことが推測される。すなわち階級0,1および2,3のおのおのにみられる程度の差は非遺伝的なもので、環境の影響によって生ずるものと考えられる。このような知見は将来の研究において、シャベル形と非シャベル形とを形態学的に区別するための基準を与えるものと思われる。しかしこの形質の遺伝に関しては、家系調査や双生児法によってさらに研究を進める必要があろう。
4.乳犬歯におけるいわゆる double tubercle および double fold は頻度の点からみるとたがいにかなりちがう値を示すが、両形質とも人種差がほとんどない点では一致している。
5.すでに報告したものを含あて以上の歯冠形質を総合的にみると、人種間に有意差のある形質と、人種差をほとんど示さない形質とに区別される。たとえばシャベル形は前者に属し、double tubercleや double fold は後者に属する。歯冠形質に関して人種学的研究を行なう場合には、このような二つのtype の形質を区別するべきであろう。DAHLBERG (1949)は変異の大きい歯と小さい歯とを区別し、前者を variable teeth、後者を stable teeth とよんだが、これと同様に人種間変異の強い形質を interrace variable characters、弱い形質を inter-race invariable characters と呼んで区別することを提唱したい。
最後に、この研究は本文に記した多くの方々の御援助によるが、米国において資料を観察しえたのは故藤田恒太郎教授の御推薦に負うところが大である。記して感謝の意を表し、先生の御冥福を祈りっつこの小篇を捧げる。
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