人類學雜誌
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シミュレーションによる古代日本への渡来者の数の推定
埴原 和郎
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1987 年 95 巻 3 号 p. 391-403

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抄録

主として弥生時代から初期歴史時代にかけての日本への渡来者は,先住の縄文人に対して文化的にも身体的にも多大の影響を与えたと考えられる.この点について,以前は否定的見解もあったが,現在では渡来そのものを否定する研究者はいないと思われる.しかし渡来者の土着集団への影響については見解の相違が大きく,まだ定説を得るに至っていない.ある研究者は渡来者の影響が無視しうる程度という一方で,他の研究者は少なからぬ影響があったことを想定している.しかしこれらはいずれも科学的根拠をもたず,想像の域を出ていない.
このような現状を考えると,どれほどの集団が渡来したかという問題を放置しておくわけにいかず,渡来者の数を推定することは極めて重要な問題となる.しかし実際にそれを行うには多くの困難が伴う.その解決法のーつとして,この研究では2種のモデル,すなわち人口増加モデルと形態変化モデルによるシミュレーションを試みた.
人口増加モデルは,弥生時代初期から7世紀にいたる約1000年間の人口増加率の特異性に基づき,この期間に渡来した集団の数を推定する方法である.
また形態変化モデルは,弥生時代から古墳時代にいたる頭骨形態の変化に基づく方法であるが,基準となる集団を西北九州型弥生人および南九州古墳人(内藤芳篤による)とした.一方,渡来系と思われる北九州型弥生人と土着系の西北九州型弥生人の計測値に基づき,混血率を変化させながら仮想集団の計測値を推定し,これらと古墳人集団との類似係数ならびに距離を計算した.その結果,最も高い類似性を示す仮想集団の混血率を採用し,渡来人の数を推定した.
これら2種のモデルによるシミュレーションはほぼ同じ結果を示したが,それらは予想をはるかに越える多数の渡来者があったことを示唆している.おそらく,この結果は常識外とも受け取られるであろうが,一方で日本人の形質や日本文化の多様性を考えると,相当に多数の渡来者があったと考えざるをえない点もある.今後,モデルをさらに精密化して研究を続ける必要があることはいうまでもないが,予想を越える数の渡来者が日本に入ったということを念頭に入れて,関連諸分野の研究を進めることも必要かと思われる.ただし,今回得られた結果を機械的に採用することは危険であり,私としても,おおよその見当がついたという程度に考えていることをつけ加えておきたい.

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