人類學雜誌
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クック諸島集団の現状一特にヨーロッパ人との混血と諸島内の通婚について
片山 一道多賀 谷昭山田 博之川本 敬一
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1988 年 96 巻 1 号 p. 47-59

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抄録
クック諸島に居住するポリネシア人から収集した生物学的資料を分析するための予備的研究として,ヨーロッパ人との接触期以降の人口変動,外国人(特にヨーロッパ人)との混血状況,クヅク諸島内の島間の通婚状況などを検討することによって,現代人から収集した標本がどの程度までヨーロッパ人との接触以前の先史クック諸島集団を代表しうるのかという問題を考察した.対象としたのは,南部クック諸島のラロトンガとマンガイアの両島,北部クック諸島のプカプカ環礁で,いずれも指掌足紋,歯型,血液型,生体計測などについての生物学的資料を収集した集団である.主な成績は次のように要約できる.
1.対象3島ともに,ヨーロッパ人との接触以降,ある程度の人口減少を経過しているが,マルケサス諸島,ソサイティー諸島,ハワイなどの東ポリネシアの島嘆と比較するとその程度は遙かに軽微なものである.従って,いずれも人口規模が極端に小さなものではないことから,遺伝的浮動が各島の遺伝的構成を大きく変容させた可能性は小さいようである.
2.ラロトンガでは,ヨーロッパ人などとの混血やクック諸島内の他島との通婚が著しく進行しており,その結果,同島では遺伝子流入の影響でヨーロッパ人到来以前の集団の個性をもはや失ってしまっている可能性が高い.
3.これに対し,プカプカでは,混血や通婚は今なお極めて少なく,遺伝子流入による集団の変容は無視できる程度のものと言ってよい.マンガイアでも,混血や通婚による外来要素の流入は予想外に少なく,簡単な系図チェックで確認できそうである.
4.以上のことから,プヵプカとマンガイアでは,現代の島民の標本からヨーロッパ人との接触以前の先史集団の身体特徴を推測することは可能であるが,ラロトソガでは同島のポリネシア人をもはや単一の繁殖集団とみなすことはできなくなっており,先史ラロトンガ集団を復元することは容易ではないと結論できる。
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