人類學雜誌
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ヒト歯槽弓および顔面形態の正準相関分析:その生力学的関連の統計的検討
嶋田 武男
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1988 年 96 巻 4 号 p. 459-475

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抄録
以前に行った歯列弓および歯槽弓の集団内変異についての研究(嶋田,1988)においては,それらの形状の変動因として,1)犬歯部の幅径と全長の比,2)臼歯部の開大性,および3)前歯部の方形性の3因子が取り出されると共に,HRDLICKA の分類体系(放物線型,楕円型,双曲線型,卵型,半円型および U 字型)が基本的には放物線型と U 字型との対比に還元される1次元的分類であることが明かとなった.しかし,そこではこれらの変動の持つ意味には触れなかった.そこで今回は,上記の研究で導入した多変量的表現を用いて,歯槽弓の形状と上顔部形態との関連を通して歯槽弓の変動の持つ形態学的および機能的意味の解明を試みた.
まず,上顔部形態の変動因を探るために,24個体の正面観および側面観の写真に基づく19計測項目について因子分析を行い,その結果,1)全体的大きさ,2)上顔部の幅径,3)上顔部の突顎性,4)眼窩部の前後径,および5)頭蓋底に対する顔面の角度ないし位置関係の5因子を取り出した.
次に,標本の大きさを38に増して,歯槽弓形態と上顔部形態の関連を分析した.11項目からなる上顔部の計測は写真によらず実測によったが,計測項目の選定には上記因子分析の結果が利用された.なお,これらの計測も,正面観および側面観に基づいたが,これは結果の生力学的解釈を意図したものである.歯槽弓形態と上顔部形態の関連は,まず歯槽弓のバリマックス因子の評点と各顔面計測値との相関を調べることにより検討されたが,その相関の程度は概して低かった.そこで,両者の関連は正準相関分析によって調べられた.有意な相関を得るには,変数の数の一層の滅少を必要とした.その結果取り出された成分は,歯槽弓についてみると,上述の放物線型と U 字型の対比によく対応しており,また,これと対をなす顔面に関する成分は顔面の全変動の大きな部分を占めていた.U 字型の歯槽弓と結び付く顔面は,むしろ全体として退化的であり,かつ眼窩部の突出を伴っており,この意味で,ヒトと Ape の分化に関して言われる同名の対比は異質なものである.この正準相関分析により取り出された歯槽弓と顔面形態との関連の生力学的な意味の分析は,咀嚼力の上顔部への影響は眼窩部外壁および頬弓の幅径に限局されるという MOLLER(1966)や,RINGQVIST(1973), WEIJ(1986)らの統計学的研究の結果を参照して行われた.我々の得た歯槽弓の形状と連動する顔面形態の変動成分は,上記の研究で注目された幅径と相関を持っているが,同時に高さにも関連しているので,それを少なくとも咀嚼力と関連付けて解釈することは困難である.しかし,以上の結論は集団内変異の分析に基づいたものであり,集団間あるいは種間変異における歯列弓形態と顔面形態との生力学的関連を否定するものではない.
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