人類學雜誌
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大腿骨骨組織による死亡年齢推定
現代日本人への THOMPSON のコア•テクニックの応用
楢崎 修一郎
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1990 年 98 巻 1 号 p. 29-38

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抄録

近年,骨組織による死亡年齢推定法が盛んになり,いくつかの方法が提唱されている(AHLQVIST and DAMSTEN,1969;KERLEY,1965;SINGH and GUNBERG, 1970;THOMPSON,1979)が, THOMPSON による "コア•テクニック"は,資料となる人骨の損傷を最小限に抑えるという利点がある.この方法は,高速ドリルを使用して人骨より直径4mm のコアを取り出し,その骨組織の加齢変化を指標として死亡年齢を推定するものである. THOMPSON は,この方法を死亡年齢•性別の判っている解剖学実習用遺体•検死遺体に応用して,重回帰分析を行い,白人用の重回帰推定式を算出した.THOMPSON の研究では,左右の上腕骨•尺骨•大腿骨•脛骨が推定に使われたが,大腿骨が最も良く推定できる部位であることが判明した.そこで,本研究では日本人の解剖学実習用遺体の左•大腿骨からコアを取り出し死亡年齢推定を行った.
資料は,東京大学医学部解剖学教室の解剖学実習用遺体22例(男性11例,女性11例),及び横浜市立大学医学部解剖学教室の解剖学実習用遺体30例(男性17例,女性13例)の計52例である.男性28例の死亡年齢は,54歳から98歳,平均78.96歳であり,女性24例の死亡年齢は,43歳から94歳,平均75.71歳である.
THOMPSON は,19の骨組織を死亡年齢推定の変量として用いたが,本研究では8つの変量,骨緻密質(コア)の厚さ,コアの重量,第二次オステオンの数,第二次オステオンの平均面積,第二次オステオソの面積の標準偏差,第二次オステオンの平均周辺長,第二次オステオンの周辺長の標準偏差,一定面積に占める第二次オステオンの総面積を用いた.そのうち,第二次オステオンの面積の標準偏差と第二次オステオンの周辺長の標準偏差は,本研究で新たに導入された.これらの変量により重回帰分析を行い,日本人用の重回帰推定式を算出し,男性で重相関係数0.581,標準誤差9.28,女性で重相関係数0.748,標準誤差9.95という結果を得た.
この結果は,信頼性が高いとは言えないが,死亡年齢が50歳以上で,ゴしかも大腿骨しか存在しない場合でも死亡年齢推定が可能であり,また骨資料の損傷を従来の方法よりも最小にとどめるという点で有効であろう.

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