抄録
タにもとづいて,古墳人の地域変異を明らかにすることを試みた.その結果,メトリックな形質に関しては,男性では東日本と西日本の古墳人の間では,有意な差は認められなかった.一方,女性では東日本の古墳人は西日本の古墳人よりも全体的に小さな歯をもつことが明らかになった.ノンメトリックな形質による分析では,東日本と西日本の古墳人の問には,ほとんどの形質において有意な地域差は認められなかった.
以上の古墳人集団のそれぞれの形質にっいて,現代日本人,アイヌおよび縄文人の3集団と比較をおこなった結果,歯冠サイズに関しては,古墳人男性はC,P1,P2がかなり大きいことで特徴づけられ,それらの歯に関して小さいサイズをもっ縄文人とは対照的なパターンを示していることが明らかになった.ノンメトリックな形質では,古墳人は縄文人とは多くの形質で有意な差を示したが,特に古墳人は縄文人およびアイヌと比較して I'のシャベル型と M1の屈曲隆線の発達がかなり強いという傾向が示された.
以上のデータをもちいて距離分析をおこなった結果,PENROSE のサイズ距離によって,西日本の古墳人の全体的な歯冠サイズは男女とも他の時代の3集団よりも大きいことが示された.一方,東日本の古墳人では,男性は現代人よりも大きな歯冠サイズをもつが,女性は,小さな歯冠サイズを有する縄文人およびアイヌにやや近いことが示された.MAHALANOBISの汎距離を算出した結果も西日本の古墳人男女および東日本の古墳人男性は,現代日本人にちかく,縄文•アイヌグループからは大きく離れる結果となったが,東日本の古墳人女性は,縄文人とアイヌにやや近いことが示された.ノンメトリックな形質にもとづく SMITH の距離からは,東西両古墳人とも現代日本人と強く結び付き,縄文人およびアイヌとは大きな隔たりが示された.
これらの結果にもとづいて推察されることは,1)渡来系弥生人はかなり大きな歯冠サイズをもつことが指摘されていることから判断して,古墳人は大きな歯冠サイズをもっ渡来系集団の遺伝的影響を強く受けていると考えられる.2)しかしながら東日本の古墳人女性では男性よりも渡来系集団の遺伝的影響がやや小さかったと推測される.3)現代日本人のノンメトリックな歯冠形質の出現頻度のパターンは少なくとも古墳時代には獲得されていたいえる.4)古墳人の I'のシャベル型および M1の屈曲隆線の高頻度の出現率は,古墳人の歯冠形質が TURNER のいうSinodonty の要素をもっことを示唆している.
頭蓋形態により古墳人の大陸集団との類似性が指摘されているが,渡来者の古墳人への遺伝的影響を明らかにしていくうえで,これらの大陸集団の歯冠形質にっいての比較が必要である.