人類學雜誌
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中東アフリカ現住民 Chewa 族の上顎におけるブッシュマン•ケナインについて
佐熊 正史Joel D. IRISHDonald H. MORRIS
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1991 年 99 巻 4 号 p. 411-417

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抄録

上顎犬歯の咬合面において近•遠心辺縁隆線,基底結節および棘突起が強く発達することにより,小臼歯に類似する形態を示すものをブッシュマン•ケナイン(Bushman Canine)と呼ぶ ORANJE (1937)によって最初に記載され,その後 MORRIS (1975)や TURNER ら(1991)が詳細な分類と定義を行った.本稿では,中東アフリカに居住する Chewa 族から得た硬石膏模型(男性82例,女性76例)を用いて,その上顎犬歯に現われた Bushman Canine をアリゾナ州立大学の基準模型をもとに観察した.出現頻度における性差は,これまでの報告と同様に Chewa族においても認められなかった.また,中東アフリカに居住する Chewa 族の出現率を他のアフリカ南部の諸集団と比較検討したところ, Chewa 族は低い値を示すことから,アフリカ南部から中央部に向かうに従って Bushman Canine の出現率が低下する傾向が認められた.この事実は, San 族(Bushman)とバンツー系言語を主として話す人々との混血の結果と解釈される.なお, Chewa 族の Bushman Canine の出現頻度が San 族に比べ極めて低率であることにより, San 族の出自母集団は Chewa 族とは異なると考えられた.
これらいずれの所見からも,いわゆる"Bantuexpansion"説の妥当性が示唆された.

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