アジア動向年報
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各国・地域の動向
2019年のフィリピン 中間選挙で信任を得たドゥテルテ政権
鈴木 有理佳(すずき ゆりか)
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2020 年 2020 巻 p. 289-316

詳細

2019年のフィリピン

概 況

2016年6月末に就任してから3年が過ぎ,任期を折り返したロドリゴ・ドゥテルテ大統領は高支持率を維持しつつ,麻薬や犯罪,不正や汚職,テロの脅威,貧困問題などと闘う姿勢を強めている。ドゥテルテ大統領が力を入れている「麻薬撲滅戦争」は,実態の全容把握が難しく,取り締まる側の組織的不正も続いており,その効果に疑問が生じ始めている。

5月に実施された国政・地方統一選挙では,とくに与野党対決となった上院選挙で大統領人気に便乗したドゥテルテ陣営の候補者が多数当選した。下院選挙でも大統領の所属政党と連立を組む政党を合わせて過半数の議席を獲得し,結果としてドゥテルテ陣営の大勝であった。しかしその後,下院議長職の選出でもめ,3年後の選挙を見据えた勢力争いの兆しを見せ始めている。

ミンダナオではバンサモロ組織法が住民投票によって批准され,バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域が正式に設置された。暫定政府も発足し,モロ・イスラーム解放戦線(MILF)戦闘員の武装解除が本格的に始まった。

経済は,実質国内総生産(GDP)成長率が5.9%となり,前年より若干減速した。2019年度予算成立の遅れや不透明な税制改革,それにインフラ整備の遅れなどが影響したと考えられる。消費者物価上昇率は低めに推移し,金融政策は利下げに転じた。ドゥテルテ政権が重視するインフラ整備事業は全体的に進捗が遅く,旗艦プロジェクトのリストを大幅に見直した。

対外関係では,アジアとロシア重視の首脳外交が展開された。ドゥテルテ大統領の欧米をけん制する姿勢は続いており,中国に対しては融和姿勢を明確にしている。国内では中国企業の参入や中国からの労働者が目立つようになり,安全保障上の脅威や市民生活への影響が懸念されるようにもなっている。

国内政治

行政機構の汚職問題

ドゥテルテ大統領の支持率は高く,2019年12月の世論調査では自身最高の82%に達した。時に乱暴な発言をする姿は相変わらずで,強硬な違法薬物取り締まりや中国に対する融和姿勢には賛否両論があるものの,過去の政権に比べて決断力と実行力があり,経済社会面での変革が期待できること,そのうえ,2019年はインフレ率が低く抑えられていたことも高支持率の背景にあると考えられる。

中間選挙後の7月末に行われた施政方針演説で,ドゥテルテ大統領は麻薬や犯罪,不正や汚職,テロ事件,貧困問題などに触れつつ,こうした課題に「任期最後まで闘う」とし,「国民全員が快適な生活を送れるようにする」ことを残り3年の目標にしているとも述べた。この姿勢は,さまざまな問題を抱える行政機構にも向けられている。政策執行能力の低さや遅さのみならず,不正や腐敗といった汚職問題がドゥテルテ大統領を悩ませており,問題に取り組むほどその深刻さが表面化しつつある。例えば違法薬物取り締まりでは,関税当局の組織的な密輸がこれまでも明らかになっているが,ほかにも取り締まる側である国家警察の組織ぐるみの不正が掘り起こされ,後述の警察長官の辞任にまで発展した。

また,刑務所の管理体制をめぐる問題も浮上した。事の発端は,受刑態度が良好な受刑者の刑期を短縮する減刑期間適用法(2013年成立)に基づき,司法省が8月,新たに受刑者約1万1000人の早期釈放予定を明らかにしたことにある。6月に最高裁判所が法律成立前に遡及して適用されるべきという判断を下していたため,対象者を見直していた。ところが,発表された釈放候補者のなかに凶悪犯罪者が複数含まれていること,また,そうした凶悪犯罪者がすでに約1900人も釈放されていることが露呈し,この措置に対する批判が急速に高まった。犯罪者には厳しく,「彼らに人権はいらない」とまで豪語するドゥテルテ大統領は責任者であるニカノル・ファエルドン矯正局長官を更迭し,批判の矛先が向けられた司法省は早期釈放措置そのものを一時停止にした。ただしこの間,刑務所の実態も改めて明らかになっていった。受刑者や釈放者の罪状記録の不正確さ,不透明な早期釈放者選定の手続き,そして幹部買収による釈放などである。受刑者が刑務官を買収してパソコンや携帯電話,家電などを入手したり,刑務所内での麻薬取引に関与する例も報告された。こうした状況は過去の政権でも報告されていたが,対応策が講じられることなく見過ごされてきた。今後は刑務官らの綱紀粛正に加え,受刑者の監視と刑務所の管理体制の強化を,ドゥテルテ政権がどこまで実施できるのか注目される。

そのほか,民間の透析センターがフィリピン健康保険機構(PhilHealth)に医療費を架空請求していた事件に関連し,PhilHealth職員の一部が組織的に不正を働いていた疑いが報道にて明らかになった。PhilHealthのずさんな手続きによる架空支払いは1500億ペソ以上になると推計され,激怒したドゥテルテ大統領は国家捜査局に実態の解明と関係者の逮捕を指示し,PhilHealth幹部を更迭した。

ほかにも行政機構の汚職問題は広範囲で発覚している。問題が明らかになるたびに事業を一時的に停止したり,関係者を更迭したりするドゥテルテ大統領の決断は歓迎されているが,不正や汚職が発生しやすい体質や仕組みそのものを変えなければ,真の解決にはならないと思われる。

中間選挙でドゥテルテ陣営が大勝

5月13日,上下両院に加え,地方自治体(州・市・町)の首長と各議会を合わせた全1万8072ポストを対象とする国政・地方統一選挙が実施された。3年に一度の選挙で,今回は大統領任期の折り返しにあたることから,ドゥテルテ政権の信任を問う中間選挙とも位置づけられる。

国政レベルでは,上院12議席(全24議席の半数)と下院306議席(小選挙区245議席と政党リスト61議席)が争われた。ドゥテルテ大統領の支持率が高いこともあって選挙運動における政策論争はほとんどなく,与野党対決の様相が見られたのは唯一,全国区で争われた上院選挙のみであると言ってよい。ドゥテルテ大統領の公認候補者と娘でダバオ市長のサラが立ち上げた地方政党と連携する国政政党所属の公認候補者らで構成されたドゥテルテ陣営と,レニ・ロブレド副大統領が率いる自由党(LP)を中心とした候補者8人からなる反ドゥテルテ陣営「ストレート・エイト」(Otso Diretso)の対決となった。ちなみに,フィリピンでは正副大統領が同日選挙で別々に選出されるため,政党を異にする大統領と副大統領が誕生しうる。ドゥテルテ大統領は野党に属するロブレド副大統領を政権運営に関与させておらず,両者はほぼ対立関係にある。こうした両陣営の選挙戦における対立軸は個々の政策の内容をめぐるものではなく,ドゥテルテ大統領の対中国融和姿勢や強権的な政権運営に対する支持・不支持を問う非常に大まかなものであった。反ドゥテルテ陣営はドゥテルテ陣営に対して公の場で政策論戦を持ちかけたが,ドゥテルテ陣営はその呼びかけに乗らず,ドゥテルテ人気に便乗する形で始終優勢に選挙運動を展開した。

上院当選者12人のうち9人はドゥテルテ陣営からで,残り3人はどちらの陣営にも属さない独立候補者であった(表1)。反ドゥテルテ陣営からは1人も当選せず,結果としてドゥテルテ陣営の大勝であったと言える。3位で当選したボン・ゴー前大統領特別補佐官と5位のバト・デラロサ前警察長官は政治家としての実績がまったくないものの,ドゥテルテ大統領の強い後押しにより上位当選した。一方で,反ドゥテルテ陣営から再選をねらったパオロ(バム)・アキノ上院議員や同じく2004年上院選挙ではトップ当選したことのあるマニュエル・ロハス元内務自治長官が共に落選した。全国的知名度や実績のある2人でさえ,ドゥテルテ大統領の人気に気圧される形となった。

表1 上院選挙結果

(注)登録有権者数 63,643,263,投票者数 47,296,442。投票率は74.3%。上院選挙は有権者が候補者の中から12人を選ぶ。1)11位のレビリャはドゥテルテ大統領ではなく娘サラの公認候補。

(出所)選挙委員会(https://comelec.gov.ph/)資料より作成。

下院選挙でもドゥテルテ大統領の所属政党「フィリピン民主党―民衆の力」(PDP-Laban)が83議席を獲得したのを筆頭に,同党と連立を組む複数の政党から多数の候補者が当選した。少なくとも199議席をドゥテルテ陣営が獲得し,下院の過半を優に超えた。

なお,フィリピン政治の特徴である政治家一族のポスト独占は,今回の選挙でも顕著であった。例えば,ドゥテルテ大統領の長男パオロは下院議員に初当選し,長女サラはダバオ市長に再選され,次男セバスチャンはダバオ副市長に初当選した。また,前外務長官のアラン・ピーター・カエタノは下院議員となり,その妻ラアアニは別の選挙区の下院議員に,弟リノはタギグ市長に当選し,姉のピアは上院議員に返り咲いた。その一方で,都市部では古参政治家一族が落選する例も散見された。最も関心を集めたのがマニラ市長選で,3期目を狙っていた元大統領のジョセフ・エストラーダ市長が,元副市長で俳優のフランシスコ・モレノ・ドマゴソに敗れた。都市部が抱えるさまざまな問題解決のため,新しいアイデアと実行力に期待でき,しがらみの少ない政治家が望まれた結果だと推察される。

上下両院議長の選出をめぐる動き

上下両院の各議長は議会運営の要である。中間選挙後,議会の新会期を迎えるにあたり,下院では議長職をめぐる激しい争いが展開され,最終的な裁定をドゥテルテ大統領に委ねるという異例の事態になった。

早くから下院議長職に意欲を示したのは,前出のアラン・ピーター・カエタノ議員,ロード・アラン・ヴェラスコ議員,フェルディナンド・マーティン・ロムアルデス議員の3人である。カエタノ議員は2016年大統領選挙でドゥテルテと組んで副大統領選に出馬した経緯を持ち,同氏が幹事長を務める国民党(NP)は大統領の所属政党PDP-Labanと連立を組んでいる。ヴェラスコ議員はドゥテルテ一族と親しく,PDP-Labanに所属する。そしてロムアルデス議員は,グロリア・マカパガル・アロヨ元大統領の政党「ラカス-クリスチャン・ムスリム民主主義者」(Lakas-CMD)の党首で,同党もPDP-Labanと連立を組んでいる。そのうえイメルダ・マルコス元大統領夫人(旧姓ロムアルデス)の親族でもあり,そのマルコス一族がドゥテルテ大統領と親しいことから,ロムアルデス議員もおのずとその仲間に入る。こうして大統領に近いと自負する野心的な3人が下院議長に名乗りを上げ,彼らはほかの下院議員の支持を取り付けるべく,委員会の要職や予算の優先配分などをちらつかせながら多数派工作に奔走した。ところがこの間,ドゥテルテ大統領の長男であるパオロ議員が突如参戦の意欲を示したのちに撤回し,その代わりに妹でダバオ市長のサラやダバオ地方選出議員らとともに「ドゥテルテ連合」を結成してイシドロ・ウンガブ議員を議長に推薦するなど,日を追うごとに混戦模様となった。7月末の議会開会までに議長候補が1人に絞られる見通しが立たなかったことから,これ以上の混乱と下院分断を恐れた3人ほか一部議員らが,権力分立を理由に議会人事への介入を拒み続けていたドゥテルテ大統領にあえて裁定を求めた。その結果,議会会期3年間の前半15カ月をカエタノ議員,後半21カ月をヴェラスコ議員で分担すること,さらにロムアルデス議員には多数派院内総務,ウンガブ議員には歳出委員会委員長という要職が提案され,議会開会初日,カエタノ議員が議長に選任された。そもそもカエタノ議員は大統領とは異なる政党に所属するうえ,長く上院議員であったために大多数の下院議員とは親しい関係を構築しておらず,3人のなかでは最も不利と見られていた。それでも指名かつ選任されたのは,大統領を影ながら支援してきたNP総裁で富豪実業家マヌエル・ビリャールの強い後押しもあったのではないかと推察される。その後,カエタノ下院議長は副議長ポストを14から22に増員し,予算審議に関わる歳出委員会と歳入委員会の副委員長ポストや委員会自体の数も増やして自らを支持してくれた議員に割り振り,下院掌握に努めた。

今回の一連の騒動で,ドゥテルテ陣営が必ずしも統率されておらず,政党間や党派間の争いが潜在していることが露呈された。ドゥテルテ大統領の子供達は独自の候補を立てる動きを見せただけでなく,下院議長職の任期分割が下院運営を不安定にさせるとして父親の裁定に強く反対していた。また,ドゥテルテ大統領の政党から議長が選出されなかったことに反発するPDP-Labanの一部議員が,その後,連立を組んでいる別の政党へ移籍した。こうした争いや軋轢は,今後の下院議長職や下院運営の安定性に影響を及ぼす可能性があるうえ,2022年大統領選挙を見据えた勢力争いに繋がっていくことが予想される。

一方,上院では非改選組のティト・ソト議員が議長に再任された。議会開会に先立ち,今回の選挙で新たに当選したドゥテルテ陣営の上院議員らによって前出のビリャ-ルNP党総裁の妻で,トップ再選したシンシア議員を議長に推す動きも見られた。しかし,委員会ポストをめぐる配分で同陣営内に軋轢が生じ,最終的に上院の安定性と独立性を望む非改選組の意向がとおり,現状維持となった。

終わりの見えない「麻薬撲滅戦争」

フィリピン麻薬取締庁の発表によれば,ドゥテルテ政権が発足した2016年7月から2019年11月までの間に「麻薬撲滅戦争」における容疑者殺害は5552人,逮捕者は22万728人であった。ただし,大統領の強硬な姿勢が誘発した麻薬絡みの殺人事件までを含めると,2万人以上が殺害されているという報告もある。

強硬な「麻薬撲滅戦争」が続けられるなか,ドゥテルテ大統領は4月,所属政党の集会で事態が改善されていないことを指摘し,終わりが見えない悔しさを滲ませた。その背景には,2018年に相次いだ覚せい剤密輸摘発につづき,2019年2月から3月にかけてもマニラ首都圏とその近郊,マニラ港などで合計約700キログラムの覚せい剤が摘発されたことがあると考えられる。すでに陸揚げされたものは水際での監視をくぐり抜けたことにほかならず,当局の監視・摘発能力の弱さと組織的な密輸がなおも続いている可能性を示した。

また,9月には取り締まる側の不正が改めて公になった。一部の麻薬捜査官が摘発・押収した違法薬物を上部に過小報告して残りを転売したり,将来の捜査時の工作のために保持したりする慣習がいまだに存在することを麻薬取締庁長官が上院予算委員会で明らかにしたのである。同様に国家警察も,一部の悪徳警察官が協力者などと共謀し,押収した違法薬物の転売や再利用を現在でも行っている可能性を認めた。そうしたなかで,2013年のパンパンガ州における覚せい剤摘発・押収事件で当時捜査にあたった13人の警察官が共謀して覚せい剤の大半を転売し,取り押さえた密売人を故意に逃がして別人を犯人に仕立てた事件も蒸し返された。過去の事件とはいえ,当時責任を問われて解任されたパンパンガ州警察本部長が国家警察長官のオスカー・アルバヤルデ当人であり,事件後に一部見返りを受け取っていたという疑惑や,その後も警察官13人の免職処分の撤回を懇願していたことなどが新たに発覚し,10月,アルバヤルデは長官を辞任した。この件で,警察機構のさらなる綱紀粛正を痛感したドゥテルテ大統領は国家警察幹部に対する不信を一気に強め,後任の長官人事を決められないまま越年した。

ドゥテルテ大統領自身は終わりの見えない「麻薬撲滅戦争」に不満を抱きつつも,その強権的な手法を非難する野党関係者や人権団体,それに欧米諸国などに対しては強く反発する姿勢を見せている。前出のロブレド副大統領が10月末にテレビ報道されたインタビュー番組において,「麻薬撲滅戦争が大きな効果をあげておらず,貧困者が多く殺害されるような取り締まりのあり方は見直すべき」と述べたことに対し,大統領は10月31日,「麻薬撲滅戦争」を率いる機関間違法薬物取締委員会(ICAD)の共同委員長に本人の事前確認なくロブレド副大統領を任命し,麻薬対策にあたらせるという挑戦状を叩きつけた。一方の副大統領は「1人でも命を救えるなら」と周囲の反対を押し切ってその任を引き受け,アメリカ大使館担当者や国連麻薬取締担当者らと協議するなど精力的に動き,薬物依存者数の全容把握に加えて薬物依存を犯罪ではなく健康問題として扱うこと,それに科学的根拠に基づいた対策をとることなどを提案し始めた。さらに,ICAD共同委員長という立場から麻薬に関する政府の機密情報へのアクセスも望んだが,こうした一連の行動を嫌ったドゥテルテ大統領が,「野党の人間である彼女を信頼できない」と言い始め,11月24日に副大統領を共同委員長から解任した。そもそも大統領は,ロブレド副大統領が共同委員長を引き受けるとは思っていなかったようである。同職は規定のポストではなく,その地位や役割と権限を明確にしないまま大統領が感情的に任命したにすぎない。このように大統領がICADを政治利用して混乱させたことに加え,麻薬を取り締まる側に不正や能力の問題があること,そして薬物依存者数や密輸・流通量の全容把握に困難さが伴っていることもあり,「麻薬撲滅戦争」の効果そのものに疑義が生じ始めている。

バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域の設置

1月に実施された住民投票により,バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)の設置が決まった。そして2月に実施された拡大住民投票で同地域の範囲が確定し,既存のムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)5州にコタバト市とコタバト州の63バランガイ(最小行政単位)が新たに加わることになった。

1月21日,ARMM5州(ラナオ・デル・スル州,マギンダナオ州,バシラン州,スルー州,タウィタウィ州)でBARMM設置を規定したバンサモロ組織法(2018年成立)の批准是非を問う住民投票が実施され,スルー州のみ反対多数であったものの5州合計で賛成多数となり,同法は批准された。また同日,コタバト市(マギンダナオ州)とイサベラ市(バシラン州)でBARMMへの参加是非を問う住民投票も実施された。両市は2001年に実施されたARMMへの参加是非を問う拡大住民投票で参加を否決していたが,今回の選挙でコタバト市は参加,イサベラ市は反対多数で再び不参加となった。続けて2月6日,ラナオ・デル・ノルテ州の6町とコタバト州の7町に分散する67バランガイのBARMMへの参加是非を問う住民投票が実施された。いずれも2001年拡大住民投票で否決されたか,ARMMに隣接かつ新たに参加希望申請を選挙委員会に提出・受理された区域である。自治体の再編においてはその対象地域のみならず,再編の影響を直接受ける所属母体の自治体住民の意向も同時に問わなければならないとする憲法規定があるため,実際の住民投票はラナオ・デル・ノルテ州6町が属する州全域(独立市であるイリガン市を除く)とコタバト州67バランガイが属する7町全域で実施された。投票の結果,ラナオ・デル・ノルテ州6町の参加意思は他町の反対多数によって否決され,同様にコタバト州では63バランガイのみBARMMへの参加が決まった(4バランガイは否決)。バンサモロ組織法は拡大住民投票の再実施を規定しておらず,今回,参加を希望しながら所属母体の他自治体によって否決された例があることは,自治体間ないし住民間に軋轢を生み,将来に禍根を残す可能性も考えられる。

新たに設置されたBARMMを一時的に統治するのは,ドゥテルテ大統領が任命した約80人からなる暫定政府(バンサモロ移行庁)で,3月29日に発足した。任期は2022年6月末までの予定で,同年5月に実施される国政・地方統一選挙後に新議会や内閣が正式に発足する予定である。暫定首相にはモロ・イスラーム解放戦線(MILF)議長のムラド・イブラヒムが就任し,ほかのMILF幹部も要職に就いた。当面の作業には,ARMMからBARMMへの移行計画策定,統治の基礎となる域内限定の行政法,歳入法,選挙法,地方政府法,教育法,公務員法,先住民保護法の制定などがあり,これまで戦うことを目的としていたMILF幹部には行政官や政治家という統治者の役割が求められる。

BARMM設置と並行してMILFによる戦闘員の武装解除も本格的に始まった。2019年内には戦闘員全体の3割にあたる約1万2000人の武装解除が実施され,残りは2022年までに段階的に進められる予定である。戦闘員の社会復帰には,生計維持のために最低限必要な金銭的手当をはじめ,多方面でさまざまな支援を必要とすることから,それらを支える十分な財政資金の適時支出が欠かせない。

なお,この地域にはまだ治安の問題や統治の難しさも残っている。例えば,MILFとは距離を置き,地元の政治経済権益などを保持する有力者が多数存在する。また,ARMM設置の当事者であったモロ民族解放戦線(MNLF)の一部はMILF主導のBARMMに不満を持っているとされる。そして,身代金誘拐事件や爆弾テロ事件などを起こすアブサヤフ・グループをはじめ,MILFから分離したバンサモロ・イスラミック自由戦士,それに2017年にマラウィ市を一時占拠して国軍と戦闘を繰り広げたマウテ・グループの分派集団など,IS(「イスラーム国」)との連携があるとされる過激な武装集団も存在する。彼らとどう調和を保ちかつ包摂していくかが統治面での課題である。まずはBARMM設置によって高まっている和平と発展の機運を,目に見える成果につなげていくことが肝要であろう。

経 済

経済成長率は5.9%

2019年の実質国内総生産(GDP)成長率は5.9%で前年より0.3ポイント下げ,政府目標下限の6.0%をわずかに下回った。2019年度予算成立の遅れや議論の遅延により先の見通せない法人税・税優遇制度改革,インフラ整備の遅れなども影響し,選挙実施年にみられる選挙特需がそれほど実感できなかったともいえる。なお,海外就労者の送金が反映される海外純要素所得の増加は3.5%で,実質国民総所得(GNI)成長率は5.5%であった。

支出別では,GDPの7割を占める個人消費が5.8%増,政府消費が10.5%増で,いずれも前年より若干減速した。固定資本形成は0.6%減で,とりわけ設備投資の減速が響いた。四半期別の支出別寄与度と実質GDP成長率を示した(図1)からも第2四半期以降の投資の落ち込みの影響が明らかで,前出の税制改革やインフラ整備の遅れが響いたと考えられる。その一方で,実質GDP成長率自体は政府消費の拡大などにより第3四半期から上向き始め,復調の兆しもある。

図1 実質GDP成長率と支出別寄与度(四半期別)

(出所)フィリピン統計庁の国民所得統計より作成。

産業別では,農林水産業とサービス業の成長率がそれぞれ1.5%増と7.1%増で,前年より加速した。プラス成長でも前年より減速したのが製造業と建設業で,それぞれ3.8%増と7.7%増であった。とりわけ建設業の減速が大きく,2019年度予算成立の遅れによる年度前半の公共投資の落ち込みが影響した。経済をとりまく国際情勢が悪化するなか,今後は政府主導のインフラ整備計画の進展と少ない好機を捉えた産業投資の拡大がフィリピン経済を浮揚させる鍵となる。

財貿易は,速報値で輸出額が前年比1.5%増の703億ドル,輸入額が同4.8%減の1073億ドルとなり,貿易赤字額は前年より14.9%縮小して370億ドルであった。輸出は,過半を占める電子製品が4.4%増であったが,一般機械や輸送機器,化学品,銅精鉱,それに一部農水産品で減少した。輸入は,電子製品や一般機械を含む資本財が2.1%増,消費財が3.7%増であったものの,原材料と中間財が13.1%減と落ち込んだ。なお,貿易赤字額の縮小を主因に前年まで拡大が続いていた経常赤字が一転して改善し,約4億6400万ドル(GDP比-0.1%)であった。

国際収支統計による海外直接投資流入額は,前年比23.1%減の約765億ドルであった。その過半を占める親会社等からの資金流入(負債性資本)は前年比23.2%減の約515億ドル,そして新規株式資本流入額は前年比38.2%減の約145億ドルで,税優遇制度合理化案の審議の遅れが投資減少の背景にあると推察される。

2018年に政府目標2~4%を超えていた消費者物価上昇率は,2019年1月時点の4.4%から下落を続け,8月には1.7%と政府目標の下限を下回った。その後も低位で推移し,年平均では2.5%と政府目標範囲内に収まった。その背景に,2018年第3・4四半期に下落していた通貨ペソが持ち直し,燃料をはじめとする輸入品価格や主食コメを中心とする食料品価格が安定したことがある。そして労働面では,完全失業率が5.1%と前年より0.2ポイント低下し,経済成長が鈍化したとはいえ,わずかに雇用を生み出していることを示した。

議員割り当て資金をめぐる攻防による2019年度予算成立の遅れ

予算案に埋め込まれた議員割り当て資金の有無をめぐる上下両院の攻防により,未成立のまま越年していた2019年度予算法案は,2月に可決され,4月にドゥテルテ大統領が同法に署名してようやく成立した。議員割り当て資金は別名ポークバレルと呼ばれ,政治家の利益誘導のために利用されることが多く,その支出先や支出経路が不透明で汚職の温床ともされている。2013年に違憲判決が出されているが,中間選挙を目前に控え,それらしき資金を公共事業枠に計上したい下院と,財政資金の効果的支出や汚職撤廃の観点からそれを阻止したい上院との間で,予算法案の修正に時間を要していた。2月に修正案の合意に至ったものの,その後,下院が再び公共事業項目などに修正を加えて可決したことに強く反発した上院幹部は,下院の再修正部分に同意しない旨の意見書を添えた2019年度一般歳出法を大統領府に送付した。同法を受け取ったドゥテルテ大統領は4月,署名する際に,下院が再修正した約953億ペソ部分に関して手続きの違法性と政府の優先案件に合致しないことを理由に支出を認めないとする部分的拒否権を行使した。この議員割り当て資金をめぐる攻防は,2020年度予算審議でも再発した。

こうして成立が遅れた2019年度予算の中央政府財政収支(現金ベース)は,収入が3兆1375億ペソ,支出が3兆7977億ペソで,約6602億ペソの赤字であった。財政赤字の対GDP比は約3.5%で,政府目標の3.2%を超える結果になったが,これは経済成長率の鈍化と予算成立の遅れを取り戻すために,積極的な支出を年後半に実施したためである。なお,議論が続いている包括税制改革は,タバコ税の引き上げや不動産税などの滞納税を一部免除する租税恩赦法が成立した一方で,法人税の引き下げと税優遇制度合理化案の審議が上院で停滞している。

利下げに転じる

消費者物価上昇率の安定した動きを受け,物価上昇率の目標範囲達成,すなわちインフレ・ターゲットを採用するフィリピンの金融政策は,利下げに転じた。政策金利である翌日物借入金利(RRPレート)を5月,8月,9月の3回にわたり0.25ポイントずつ引き下げ,年初に4.75%であった同金利を4.0%にした。また,2018年に開始した預金準備率の引き下げも段階的に実施し,年初に18%であった商業銀行とユニバーサル銀行(拡大商業銀行)の準備率を14%にまで引き下げた。

こうした緩和策は,政府主導で進められている大型インフラ事業をはじめとする資金需要増に対応すべく,市場金利の引き下げと国内流動性の拡大を意図したものである。しかし,実際は年内に効果がほとんど感じられず,2018年前半まで2桁の伸びを示していたマネーサプライ(M3)は,2018年9月から月次でほぼ1桁の伸びに止まった。また,銀行による企業向け融資残高の伸びも,2019年6月からは1桁の伸びにとどまっている。ただし,業種によってばらつきがあり,不動産業や建設業,水道事業などに対する融資が伸びた一方で,鉱業や製造業,それに情報技術-ビジネス・プロセス・アウトソーシング(IT-BPO)産業の一部を含む専門・科学技術サービス業などで低調ないし減少した。低調な背景には,活動条件や税制の変更が見通せないことがある。中央銀行は金融緩和の効果が表れるのはまだ先になるとの見解を示しており,この先,緩和措置を続けるかどうかは,景気や企業活動の動向と融資残高の伸びを見ながらになると推察される。

経済閣僚主導の経済運営

貧困削減や低所得層の社会包摂を目標に掲げるドゥテルテ政権は,前々政権から実施している貧困世帯に対する条件付き現金給付プログラムを法制化し,皆保険制度の導入を定めたユニバーサル・ヘルスケア法を成立させた。いずれも社会的弱者に配慮した政策で,今後は財政資金と関係機関の執行能力が実効性の鍵を握る。ポピュリストで独善的とされるドゥテルテ大統領だが,経済運営面においては基本的に経済閣僚に一任し,最終的に彼らの助言を聞き入れることが多い。また,悪弊や慣行を断ち切るような政策を断行し,経済や政府に負の影響をもたらす法律には拒否権を行使することもある。

財政面では中央政府の支出効率を上げるため,ドゥテルテ大統領は予算管理方法をこれまでの発生主義ベースから現金ベースに変える仕組みの導入を支持し,汚職の温床ともされてきた道路委員会の廃止も決定した。ほかにも財政規律を重んじる経済閣僚の助言により,議会が可決した複数の法律に大統領が拒否権を行使するなど,多くの議員を敵に回すような決断も下している。

ドゥテルテ政権は主食コメの輸入自由化も開始した。フィリピンはコメの輸入国だが,安価な輸入米から農家を保護するため,国家食糧庁による輸入管理制度をとってきた。ところが,輸入管理制度は不正や汚職が伴うこと,政府介入によりコメ価格が歪み,消費者負担が増していたこと,そのうえ国家食糧庁の経営悪化が常態化していたことなどから,コメ輸入を原則自由化し,価格を市場原理に任せたほうが望ましいと指摘されていた。経済閣僚も同様の立場であったことから,今回,政府は農家や輸入業者などの生産・供給側の強い抵抗に遭いながらも,自由化に舵を切った。この先,その意図どおりに効果をあげるのか注目される。

一方,ドゥテルテ大統領の決断のなかには,労働者への配慮と経済への影響の間で悩んだと思われるものもある。議会が可決した有期雇用(非正規雇用)を制限する無期雇用保障法について,その内容が経済活動の実態にそぐわず,経済そのものに悪影響を及ぼすという経済閣僚やビジネス界の意見を最終的に聞き入れ,拒否権を行使して不成立となった。ドゥテルテ大統領自身は就任当初から有期雇用を問題視し,彼らに共感を示していたことから,労働者寄りの同法成立もあり得るとみられていた。なお,この件をきっかけに,政権幹部は2019年に発足した新議会と優先法案に関する事前調整の機会を増やすようにしている。

インフラ旗艦事業を大幅見直し

ドゥテルテ政権はインフラ整備を重視した経済開発を進めている。これまで資金不足や政府の実施能力の欠如,不正や汚職,事業の落札に失敗した企業による訴訟や裁判の長期化などで国全体のインフラ建設が遅れてきたことを顧み,「ビルド,ビルド,ビルド」(Build, Build, Build)というスローガンのもとでインフラ整備の加速を掲げた。その中心に据えているのが,高速道路や鉄道,橋や空港,港湾建設など,主としてロジスティクスの改善を目指す75案件の旗艦プロジェクトである。ところが,2019年7月末時点で着工済みは11件にすぎず(完工2件含む),まだ最終承認されていないものが約半数の38案件残っていた。進捗が遅いことを上院で指摘された政府幹部は,75案件のうち約半分の実現可能性が低いことを認め,案件リストの見直しに着手していることを報告した。その後,政府が明らかにしたリストは実現不可能な案件を削除したうえで当初予定になかった民間提案型の官民連携(PPP)事業を新たに追加し,全体で100案件となった。公共事業やODA事業などの政府主導の案件が大半であることに変わりはないが,着工までに時間がかかり,政府が偶発債務を負うリスクが大きいとして劣位に置かれてきたPPP案件が,それまでの9件から29件に増加した。追加案件には,財閥系企業が関与し,事業化調査や審査が進展しているものが多く含まれている。

一方,財閥系企業が関与する民間提案型事業の増加にあたり,政府が将来的に過大なリスクを負うことのないよう,契約内容の精査がより厳格化される見込みである。既存の契約を政府側が遵守せず,契約内容自体を見直す動きもすでにあり,例えば1997年に政府と財閥系企業の間で締結された水道事業のコンセッション契約が政府に不利な内容になっているとして,大幅に修正される可能性が出てきている。今後,インフラ事業への参入を目指す国内外の企業にとって,事業環境の不確実性を考慮する必要があるとも言えるだろう。

対外関係

アジアとロシア偏重の首脳外交

ドゥテルテ大統領は内政干渉を理由に欧米諸国を嫌う傾向にあり,逆にアジアにロシアを加えた国々との交流には積極的である。2019年の元首および首脳の来訪者は,1976年以来の来訪となったスリランカのシリセーナ大統領,マレーシアのマハティール首相,シンガポールのハリマ大統領,インドのコーヴィンド大統領のアジア4カ国からであった。マレーシアのマハティール首相は,2018年7月のドゥテルテ大統領訪問に続く答礼訪問で,両首脳は地域安全保障や越境犯罪対策,それにミンダナオの発展に係る協力などで協議かつ合意した。シンガポールとは外交関係樹立50周年記念の節目にあたり,地域安全保障や防衛協力について協議したうえ,インフラ開発や水資源管理,教育分野など,8つの経済協力覚書を政府間で締結した。また,インドとも外交関係樹立70周年記念の節目にあたり,両首脳は経済や防衛分野における二国間協力に合意した。

ドゥテルテ大統領の外国訪問は,ASEAN首脳会議参加でタイ,韓国ASEAN特別首脳会議参加で韓国,そのほか中国,日本,ロシアであった。訪日は2回で,5月は国際交流会議「アジアの未来」に出席し,別途,安倍首相とも会談した。10月の訪日は天皇の即位礼正殿の儀に参列するためであったが,背骨の痛みを訴え,即位礼参列後に帰国した。その後の饗宴の儀や安倍首相夫妻主催の晩餐会には,同行していた娘のサラが出席した。なお,ドゥテルテ大統領と安倍首相は11月にもASEAN関連首脳会議が開催されたタイで会談を行っている。

ロシアのプーチン大統領を崇拝していることを公言してはばからないドゥテルテ大統領は10月,2017年5月以来となる2度目のロシア訪問を行った。前回はロシア到着直後にイスラーム過激派によるマラウィ市襲撃事件が発生して早々に帰国したため,そのフォローアップという目的もあった。ドゥテルテ大統領はソチで開催されたヴァルダイ討論クラブ年次フォーラムに出席し,自らが取り組む「麻薬撲滅戦争」について持論を展開した。また,プーチン大統領やメドベージェフ首相ともそれぞれ会談し,二国間の貿易拡大や原子力発電所建設調査など10件の経済協力に合意した。防衛装備品の提供についても議論されたと思われ,強権的なドゥテルテ政権を非難せずに協力姿勢を示すロシアをドゥテルテ大統領は好感視している。

けん制と強調の欧米関係

ドゥテルテ大統領は,その強権的な手法につき人権擁護を掲げて非難する欧米諸国を内政干渉や主権侵害だとしてけん制し続けている。フィリピンは3月,国際刑事裁判所から正式に脱退した。ドゥテルテ政権の強硬な「麻薬撲滅戦争」が人権侵害にあたるとして同裁判所が予備調査開始を決定したことを受け,2018年3月に脱退を通告していた。同様に,国連人権理事会でもフィリピンの人権の実態調査開始を提起した決議が採択されるや否や,ドゥテルテ大統領は強く反発し,同決議を提起したアイスランドをはじめ,賛同した18カ国からの従来の経済協力につき,新規分については今後,全面的に拒否することを決定した。

一方で,同盟関係にあるアメリカは2014年に締結された拡大防衛協力協定(EDCA)に従い,指定されたフィリピン国軍基地内に多目的倉庫などの施設建設を始めた。3月には来訪したポンペオ国務長官が,海洋進出を強める中国を念頭に,1951年比米相互防衛条約の適用範囲には南シナ海における軍事攻撃も含まれると明言した。同条約の適用範囲の曖昧さがフィリピン国防当局より指摘されていたことを意識した発言だと推察される。7月には,第8回米比二国間戦略対話が外交と国防の実務者間で実施され,テロ対策,防衛や安全保障,経済,法の秩序,刑事司法などが議論された。そして11月には来訪したエスパー国防長官がデルフィン・ロレンサーナ国防長官と会談し,比米相互防衛条約について,「今日の地政学により適応したもの」への改定に前向きな姿勢を示した。3月のポンペオ国務長官の発言と同様,フィリピン国防当局への配慮と中国に対するけん制を意図したものと考えられる。さらに,軍事面では共同演習をはじめとする軍事交流が281回実施され,2020年には300回が予定されるなど,「嫌米」姿勢を明らかにしたドゥテルテ大統領就任直後の一時的な減少からは回復傾向にある。海洋進出を強める中国やイスラーム過激派によるテロの脅威を考慮するとフィリピンは安全保障面でアメリカとの同盟関係に依拠せざるをえないが,そのアメリカと協調を保とうとする外交・国防当局と,けん制するドゥテルテ大統領の立場の違いも時折透けて見え,対米関係の有り様が問われている。

融和と脅威の中国

中国に対しては南シナ海領有権問題を棚上げして融和姿勢を貫くドゥテルテ政権だが,逆に中国による南シナ海の軍事拠点化と実効支配は止まることなく,フィリピン海域を脅かす活動も発生している。国内でも,中国人労働者の急増や中国企業による島の開発投資計画の存在が明らかになるなど,市民生活への影響や治安上の懸念,さらには安全保障上の脅威が指摘されるようにもなってきた。

南シナ海では,フィリピンが領有するパガサ島(英語名ティテゥ島)を包囲する かのように航行する中国船団の存在とその常態化が確認され,6月にはリード堆付近に投錨していたフィリピン漁船が中国のトロール船に当て逃げされて浸水し,海に投げ出された乗組員22人を中国船が救助せずに立ち去る事件が発生した。乗組員らは数時間後に全員,ベトナム漁船に救助されたものの,中国船の非人道的な行動にフィリピン国内で怒りが噴出するなか,事件発覚6日後にようやく口を開いたドゥテルテ大統領は「些細な海難事故」という一言で片づけた。中国政府が事故を認めたため,争点にしたくないドゥテルテ大統領が中国側と歩調を合わせて穏便に済ませようとした感がある。その後,8月末のドゥテルテ大統領の訪中直前に中国側の船主団体が正式に謝罪の意を示し,補償を約束したことで,この事件は一応の幕引きとなった。そのほか,船舶自動識別システムを切断して無線による呼びかけにも応じない中国艦船のフィリピン近海航行や太平洋側の排他的経済水域内(EEZ)における中国調査船の航行などが確認され,国防当局が強い懸念を表明し,外務省も中国政府に抗議している。

国内では8月,スービック湾口にあるグランデ島とチキータ島,それにフィリピン北部のカガヤン州バブヤン諸島のフガ島における中国企業の開発投資計画の存在が報道された。いずれも安全保障上,戦略的な位置にある島々のため,国防当局が強い懸念を表明した。また,操業して10年以上経つ送電事業や新たに動き出している通信事業や監視カメラ設置プロジェクトなど,中国国有企業が関わる事業に一部議員や有識者らが厳しい目を向け始め,中国による送電の一方的遮断や個人情報・機密情報へのアクセスといった懸念が示されている。そのほか,ドゥテルテ政権の認可により,オンライン・カジノをはじめとするオフショア賭博事業者とその関連サービス事業者で働く中国人が急増している。それに伴い,都市部では不動産価格の急騰,中国人同士の誘拐・監禁事件,売春事件などの犯罪が増加し,市民生活への影響が懸念されるようにもなってきた。8月には中国側からフィリピン当局に対し,資金洗浄などの犯罪防止を理由に賭博事業の全面閉鎖の要請があったようだが,ドゥテルテ政権は経済的効果と税収増を期待して閉鎖せず,新規事業者登録のみを当面保留するとした。その後,政府は国内の違法事業者ならびに投資詐欺などの犯罪に加担する事業者の摘発強化や,未納税事業者と同労働者の納税者登録をはじめとする徴税強化を進めている。

こうしたなか,ドゥテルテ大統領は4月と8月の2回,中国を訪問し,習近平国家主席,李克強首相と会談した。4月には大統領が北京で開催された「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムに出席した。8月末の訪問では,フィリピン海域における中国船の活動を強く警戒する世論の高まりを受けて,大統領が2016年のオランダ・ハーグの仲裁裁判所判決とその拘束力について言及したものの,習主席は同判決を認知しないという従来の立場を繰り返したとされている。また,両首脳は南シナ海における「行動規範」について,ドゥテルテ大統領の任期中の策定に努力することを確認し,そのほか,フィリピン海域における石油ガス共同探査を前進させるための運営委員会設置に合意した。

なお,国内の世論調査では中国に対する信頼度が21%(信頼しないは54%)と低く,中国人労働者の存在に何らかの懸念があると回答した割合が70%,中国に実効支配されたEEZ内の岩礁を取り戻すべきと回答した割合が93%であるなど,中国に対する世論とドゥテルテ大統領の融和姿勢との間には乖離がある。こうした世論を気にかけない大統領の融和姿勢そのものが安全保障上のリスクを招いているという指摘もあり,大統領には国民の不安に応えることが求められている。

2020年の課題

2020年はドゥテルテ政権にとって,法制化を必要とするさまざまな改革を前進させる正念場となる。2021年になると各議員はその翌年の大統領選挙と国政・地方統一選挙を意識し始め,法案審議が停滞ぎみになるからである。そのため,今まで以上に上下両院との連携が重要となろう。ミンダナオの開発や治安改善も引き続き課題である。自治政府とはいえバンサモロ暫定政府は当面,予算配分と執行,政策策定面などで中央政府の支援を必要としており,両者の連携強化が欠かせない。和平交渉が中断している共産主義勢力との接触も水面下で続けられているようで,こうした国内の治安問題が改善すれば,経済にも好影響を与える。

経済面では,2018年家計調査による貧困率が16.6%となり,ドゥテルテ政権が2022年までの引き下げ目標にしている14%に大きく近づいていることが明らかになった。さらなる雇用創出のために,投資環境整備が引き続き課題であることに変わりない。ただし,2019年末から強まっているドゥテルテ大統領の財閥批判や既存事業見直しの動き,また2020年に入り感染が拡大している新型コロナウイルスなどによる経済への悪影響が懸念される。

対外面では2020年2月,ドゥテルテ大統領の独断で,フィリピンはアメリカに訪問米軍地位協定(1998年締結,1999年批准)の破棄を通告した。8月には同協定が正式に失効し,二国間の同盟関係が弱まることになる。フィリピン外交と国防のあり方がどのように再検討および再構築されるのか注目される。

(開発研究センター)

重要日誌 フィリピン 2019年
   1月
1日日本政府,在ダバオ日本国総領事館を開設。
3日司法省,共産党と新人民軍の幹部7人をテロリスト指定にするようマニラ地裁第19支部に申し立て。
8日韓国の韓進重工業フィリピン子会社の造船会社,経営悪化により企業再建手続きをオロンガポ地裁に申し立て。負債総額4億ドル超でフィリピン史上最大のデフォルト。
10日マカティ地裁第149支部,2016年2月にリサール商業銀行の支店で発生した大規模なサイバー不正送金で同行支店長に資金洗浄防止法違反の有罪判決。
15日スリランカのシリセーナ大統領,来訪(~19日)。16日にドゥテルテ大統領と会談。
20日上院,2019年度予算法案を可決。同法案は両院協議会に。
21日 バンサモロ組織法の批准是非を問う住民投票,ムスリム・ミンダナオ自治地域で実施。コタバト市とイサベラ市では新自治地域(BARMM)への参加是非を問う。
27日環境天然資源省,マニラ湾再生事業「マニラ湾の戦い」開始。
27日スルー州ホロ町の大聖堂で2度の爆発テロ事件発生。22人死亡,123人負傷。
30日サンボアンガ市内のモスクで手榴弾爆発事件発生。2人死亡,4人負傷。
   2月
6日BARMMへの参加是非を問う住民投票,ラナオ・デル・ノルテ州全域(イリガン市を除く)とコタバト州の7町で実施。
7日ドゥテルテ大統領,保険料率を現行12%から2025年までに15%へ引き上げる改正社会保険法(法律番号:RA11199)に署名。
8日下院,2019年度修正予算法案を可決。上院も同日可決。
9日来訪中の河野外務大臣,ドゥテルテ大統領を表敬訪問。
13日ニュースサイト「ラップラー」のマリア・レサCEO,サイバー名誉棄損容疑で逮捕される。
14日ドゥテルテ大統領,人間居住・都市開発省設置法(RA11201),コメ輸出入自由化法(RA11203),租税恩赦法(RA11213)に署名。
19日最高裁,ミンダナオ全域を対象とする戒厳令布告に合憲判断。
19日ドゥテルテ大統領,マニラ湾再生事業を迅速に進めるためのタスクフォース設置。
20日ドゥテルテ大統領,産後休暇拡大法(RA11210),ユニバーサル・ヘルスケア法(RA11223)に署名。
22日ドゥテルテ大統領,バンサモロ暫定政府の要員を任命。モロ・イスラーム解放戦線(MILF)のムラド・イブラヒム議長が首相に。
28日来訪中のアメリカのポンペオ国務長官,ドゥテルテ大統領を表敬訪問。
   3月
4日ドゥテルテ大統領,2月に病死したネストル・エスペニリャ中央銀行総裁の後任にベンジャミン・ジョクノ予算行政管理長官を任命。
6日マレーシアのマハティール首相,来訪(~7日)。7日にドゥテルテ大統領と会談。
6日ドゥテルテ大統領,最高裁判事にエイミー・ハビエル控訴裁判事を任命。
8日ドゥテルテ大統領,道路委員会廃止法(RA11239)に署名。
17日フィリピン,国際刑事裁判所からの脱退手続き完了。
29日バンサモロ移行庁(BTA),発足。
29日「ラップラー」のマリア・レサCEO,今度はダミー防止法違反と証券規正法違反容疑で逮捕される。
30日ネグロス・オリエンタル州カンラオン市とほか2町において,違法銃器取り締まり作戦実施中の国軍・警察部隊が武装農民14人を射殺する事件発生。
   4月
1日比米両軍による共同演習「バリカタン」開始(~12日)。
1日ドゥテルテ大統領,予算行政管理長官代行にジャネット・アブエル次官を任命。
1日ドゥテルテ大統領,政府機関が民間企業や他国政府と締結したすべての契約の見直しを閣議で指示。
5日ドゥテルテ大統領,パラワン州を3分割する法律(RA11259)に署名。2020年5月に住民投票実施予定。
15日ドゥテルテ大統領,総額約3.7兆ペソの2019年度一般歳出法(RA11260)に署名。修正法案可決後に下院が公共事業道路省に再配分した953億ペソに拒否権行使。
17日ドゥテルテ大統領,条件付き現金給付プログラム法(RA11310)に署名。
17日ドゥテルテ大統領,コンポステラ・バレーの名称をダバオ・デ・オロに変更する法律(RA11297)に署名。12月に住民投票実施予定。
22日中国のボアオ・アジア・フォーラムとフィリピンの比華商連総会が共催するフォーラム,マニラで初めての開催(~23日)。両国の実業家総勢300人が参加。
23日ドゥテルテ大統領,カナダから運送されてきたゴミ・廃棄物入りコンテナが国内に多数滞留していることに強い怒りを示す。
24日ドゥテルテ大統領,第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラム出席のため中国を訪問(~28日)。滞在中に習国家主席や李首相と会談。
30日S&Pグローバル・レーティング,フィリピンの長期信用格付けをこれまでのBBBから過去最高のBBB+に引き上げ。
   5月
9日金融委員会,政策金利を0.25ポイント引き下げ,翌日物借入金利を4.5%に。
13日国政・地方統一選挙実施。
16日ロクシン外務長官,ゴミ・廃棄物入りコンテナをめぐるカナダ側の対応遅延により,在カナダ大使と領事数人に召喚命令。
16日金融委員会,銀行の預金準備率の段階的2ポイント引き下げを決定。
22日選挙委員会,上院選挙の当選者12人と下院選挙政党リスト当選者61人を宣言。
27日ドゥテルテ大統領,最高裁判事にヘンリ・ジャン・ポール・インティン控訴裁判事を任命。
28日ドゥテルテ大統領,日本経済新聞社主催の第25回国際交流会議「アジアの未来」に出席するため訪日(~31日)。31日に安倍首相と会談。
31日ロクシン外務長官,ゴミ・廃棄物入りコンテナ69個の返送により,在カナダ大使と領事数人に対する召還命令を解除。
   6月
3日ドゥテルテ大統領,政府が押収したイメルダ・マルコス元大統領夫人の宝石(総額7億480万ペソ)の競売承諾。
9日南シナ海のリード礁付近に停泊中のフィリピン漁船(Gem-Ver 1号),中国船に当て逃げされ浸水。海に投げ出された乗組員22人はベトナム漁船に救助される。
10日国家捜査局,健康保険機構に対する医療費架空請求の疑いでウェルメッド透析センターの経営者を逮捕。
17日ドゥテルテ大統領,9日のフィリピン漁船沈没事件に言及し,「些細な海難事故」と述べるにとどまる。
21日ドゥテルテ大統領,第34回ASEAN首脳会議主席のためタイ・バンコク訪問(~23日)。BIMP-EAGA首脳会議にも出席。
27日エマニュエル・ピニョル農業長官,辞意表明。
28日スルー州の国軍駐屯地入口で自爆テロ発生。8人死亡。
   7月
1日2018年11月に情報通信技術長官に任命されていたグレゴリオ・ホナサン前上院議員,正式に職務開始。
3日ドゥテルテ大統領,2018年5月に設置されたレッドテープ(官僚主義的手続)防止庁の初代長官にジェレミア・ベルジカ弁護士を任命。
8日第三の通信会社であるミスラテル・コンソーシアム,事業許可証を付与される。名称をディト・テレコミュニティに変更。
15日第8回米比二国間戦略対話をマニラで実施(~16日)。
22日第18議会第1会期開会。上院議長にティト・ソト議員,下院議長にピーター・アラン・カエタノ議員が選出される。
22日ドゥテルテ大統領,議会にて施政方針演説を行い,「任期最後まで闘う」と述べる。
25日ドゥテルテ大統領,タバコ税を引き上げる法律(RA11346)に署名。議会が可決した無期雇用保障法には拒否権行使。
26日ドゥテルテ大統領,汚職を理由に,フィリピン慈善宝くじ庁が管轄するすべての賭博事業に一時停止命令。
   8月
3日イロイロ海峡において悪天候のなか出航していた3隻のモーターボートが転覆。乗員乗客31人死亡,60人以上が救助される。
5日ドゥテルテ大統領,農業長官にウィリアム・ダール元長官を,予算行政管理長官代行にウェンデル・アヴィサド元ダバオ市行政官を,ミンダナオ開発庁長官にエマニュエル・ピニョル前農業長官を任命。
8日金融委員会,政策金利を0.25ポイント引き下げ,翌日物借入金利を4.25%に。
14日運輸省,サンミゲル・ホールディングスがブラカン州に建設を提案していた新マニラ国際空港事業を認可。
19日フィリピン娯楽ゲーム社のアンドレア・ドミンゴ社長,オフショア・ゲーム事業者の新規登録を見合わせることを明らかに。
20日予算行政管理省,2020年度予算法案を議会に上程。総額約4兆1000億ペソ。
25日司法省,減刑期間適用法に基づく受刑者の早期釈放措置を一時停止。
27日大統領府,国連人権理事会で超法規的殺人の調査を呼びかける決議に賛同した18カ国からの新たな経済支援拒否を決定。
28日ドゥテルテ大統領,中国訪問(~9月1日)。習主席や李首相と会談。
  9月
3日最高裁,異性同士の婚姻を規定した家族法の違憲性が問われた裁判で,違憲性はなくかつ同性婚は認められないと判断。
4日ドゥテルテ大統領,矯正局のニカノル・ファエルドン局長を更迭。
7日MILF,マギンダナオ州でドゥテルテ大統領立ち合いのもと,戦闘員の武装解除を一部実施。
8日シンガポールのハリマ大統領,来訪(~12日)。9日にドゥテルテ大統領と会談。
9日農業省,国内初のアフリカ豚熱感染確認を発表。
12日ドゥテルテ大統領,政府予算の支出管理方法をこれまでの発生主義から現金ベースに変更する行政命令(EO91)に署名。
17日ドゥテルテ大統領,新たな矯正局長にジェラルド・バンタグ刑務所管理局地方事務所長を任命。
19日保健省,3歳女児のポリオ感染を確認。19年ぶりの感染情報。
20日下院,2020年度予算法案を可決。
26日金融委員会,政策金利を0.25ポイント引き下げ,翌日物借入金利を4.0%に。
27日金融委員会,銀行の預金準備率の1ポイント引き下げを決定。
  10月
1日ドゥテルテ大統領,ロシア訪問(~7日)。3日にソチで行われたヴァルダイ・フォーラムに出席。プーチン大統領とも会談。
9日国軍,米軍と共同演習「カマンダグ3」を開始(~18日)。日本の陸上自衛隊も参加。
14日国軍,米軍と海洋共同訓練「サマサマ」をパラワン沖で実施(~19日)。日本の海上自衛隊も参加。
14日オスカー・アルバヤルデ警察長官,辞任。長官代行にアーチー・ガンボア副長官。
16日ドゥテルテ大統領,大統領官邸敷地内で試乗したオートバイから降りるときに転倒し,軽傷を負う。
17日インドのコーヴィンド大統領,来訪(~21日)。18日にドゥテルテ大統領と会談。
18日大統領選挙法廷,3州における2016年副大統領選の票再集計で,ロブレド副大統領に約1万5000票が上積みされることを公表。落選したマルコス候補が訴訟提起。
21日ドゥテルテ大統領,訪日。22日に天皇の即位礼正殿の儀に参列するも背骨の痛みを訴えて同日夜に帰国。
23日ドゥテルテ大統領,18日に定年退職したルーカス・ベルサミン最高裁長官の後任に,ディオスダド・ペラルタ判事を任命。
24日金融委員会,銀行の預金準備率の1ポイント引き下げを決定。
31日ドゥテルテ大統領,ロブレド副大統領を本人の確認なく機関間違法薬物取締委員会(ICAD)の共同議長に任命。
  11月
1日ドゥテルテ大統領,第35回ASEAN関連首脳会議出席のため,タイ訪問(~4日)。滞在中,安倍首相とも会談。
6日ロブレド副大統領,ICAD共同議長受諾を表明。
24日ドゥテルテ大統領,ロブレド副大統領をICAD共同議長から解任。
27日上院,2020年度予算法案を可決。同法案は両院協議会に。
29日マニラ・ウォーター,2015年6月以降の水道料金引き上げ不認可について規制当局である首都圏上下水道システムをシンガポールの仲裁裁判所に提訴していた件で勝訴。
30日第30回東南アジア競技大会,開催(~12月11日)。
  12月
3日ドゥテルテ大統領,バランガイ選挙を2020年5月から2022年12月に延期する法律(RA11462)に署名。
5日ドゥテルテ大統領,政府は水道事業2社に対して損害補償金を支払わないと発言。コンセッション契約見直しも示唆。
10日大統領府,ミンダナオ全域に出されている戒厳令の12月末解除を発表。
10日水道事業2社,政府に損害補償金を請求せず,コンセッション契約の見直しに応じることを明らかに。
11日下院,2020年度修正予算法案を可決。上院も同日に可決。
19日ケソン市地裁第221支部,2009年11月に翌年の選挙における対立候補一族とジャーナリストを含む58人が殺害された選挙関連暴行事件(マギンダナオ虐殺事件)で,首謀者のアンパトゥアン兄弟2人と協力者41人に有罪判決。
20日ドゥテルテ大統領,2019年度予算執行を2020年度末まで認める法律(RA11464)に署名。
22日ドゥテルテ大統領,12月24日から2020年1月7日まで共産党・新人民軍との一時的休戦を宣言。共産党も新人民軍に同期間の休戦を指示。
24日台風「ウルスラ」,ビサヤ地域を横断。死者57人,行方不明者6人。

参考資料 フィリピン 2019年
①  国家機構図(2019年12月末現在)

(注)各省には主要部局のみを記す。

②  国家機関要人名簿(2019年12月末現在)
③  地方政府制度(2019年12月末日現在)

(注)フィリピンは全部で81州,146市,1488町,4万2045バランガイにより構成される。

1)マニラ首都圏の各市町は独立しており,マニラ首都圏開発庁は各地方政府首長が参加する中央政府の機関。

2)ムスリム・ミンダナオ自治地域は,2019年1月と2月の住民投票によってバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)となり,5州・3市・116町で構成されることになった。ただし,2019年12月末時点においてまだバンサモロ組織法の実施規則・細則が制定されておらず,同地域の管轄区域が明確に定められていないため,内務自治省の公式発表に従いこのままとする。

主要統計 フィリピン 2019年
1  基礎統計

(注)1)2015年以降は同年人口センサスを基にした年央の推計値。2)2019年は暫定値。3)基準年は2012年。

(出所)Philippine Statistics Authority(PSA),Bangko Sentral ng Pilipinas(BSP).

2  支出別国民総所得(名目価格)

(注)統計誤差を除く。

(出所)PSA.

3  産業別国内総生産(実質:2000年価格)

(出所)PSA.

4  国際収支

(注)2018年は修正値,2019年は暫定値。

(出所)BSP.

5  国・地域別貿易

(注)2018年は修正値,2019年は1~9月の暫定値。ASEANは4カ国以外にブルネイ,ラオス,ミャンマー,ベトナム,カンボジアを含む。

(出所)BSP.

 
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