アジア動向年報
Online ISSN : 2434-0847
Print ISSN : 0915-1109
各国・地域の動向
2019年のインド 第17次連邦下院選挙と第2次モディ政権の成立
近藤 則夫(こんどう のりお)佐藤 創(さとう はじめ)
著者情報
解説誌・一般情報誌 フリー HTML

2020 年 2020 巻 p. 463-496

詳細

2019年のインド

概 況

第17次連邦下院選挙でナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)が圧勝し,BJP中心の国民民主連合(NDA)政権が発足した。第2次モディ政権は議会での絶対多数を背景にジャンムー・カシミール(JK)州の特別な自治権の廃止などBJP本来のヒンドゥー民族主義政策を進めている。しかしムスリムに対して差別的な市民権改正法は市民からの反発が強く,年度後半の州議会選挙ではBJPの後退が目立ち,不安定性を内包しつつの政策運営である。

経済に関しては,失速が明らかになった1年である。株式市場は好況であるものの,製造業の停滞と金融業の不良債権問題などの要因により内需が伸びておらず,失業率も高水準である。さらに年末にかけてはインフレ率も高まり,2024年までにGDPを5兆ドルに引き上げるという政権の掲げる目標は遠くなった。

対外関係ではJK州のテロとパキスタンとの軍事衝突,さらにはJK州の特別な自治権の剥奪でパキスタンとの関係が決定的に悪化した。中国,アメリカとは,問題を抱えているものの比較的安定した関係を維持している。

国内政治

第17次連邦下院選挙と第2次モディ政権の成立

第17回連邦下院選挙が4月11日から7回に分けて実施された。5月23日に開票されBJPのモディ首相率いるNDAが大勝した(表1)。第1次モディ政権では経済成長で一定の成果を上げたが,発展の成果が行き渡らない農村の不満から農民の示威運動がしばしば起こった。一方,ヒンドゥー民族主義を掲げるBJP政権が成立したことを背景にヒンドゥー民族主義団体などの活動が活発化し,非ヒンドゥー教徒少数派への暴力事件が発生した。世論調査では2019年2月まではモディ政権の人気は漸減傾向にあった。しかし結局2014年選挙以上のBJP大勝となった。その要因はいくつか考えられる。

表1  第17次連邦下院選挙結果

(注)1)2019年の選挙で3議席以上獲得した政党のみ。2)タミル・ナードゥ州Vellore選挙区の選挙は8月5日に行われDMKが勝利したが,この表の計算には入っていない。3)SHSは2019年11月にNDAから離脱。

(出所)インド選挙委員会データ(https://eci.gov.in/)より。表2,表3,表4も同じ。

まず,モディ政権は選挙前に農民の不満を和らげるための政策を重点的に実施した。農村開発関連事業の促進に加えて,2018年9月には農産物を政府が買い上げる時の最低支持価格を生産コストの1.5倍とする決定を行い生産者の歓心を買った。2019年2月1日に発表された予算案(新政権成立までの暫定予算)では雇用事業重視とともに,農村低所得層への支援が強化され,2ヘクタール以下の農地しかもたない農民世帯へ年間6000ルピーを所得移転する「首相の農民」事業が盛り込まれた。一方,政府は1月12日に連邦の行政,教育機関の一般採用枠の10%を「経済的弱者層」に留保する憲法改正案を成立させ,これまで留保制度の恩恵にあずかることができなかった中・高カーストの経済的弱者層への配慮を示した。

ほかの大きな要因としてモディ首相の根強い人気とBJPの動員力があげられる。2018年11月中旬から12月初めにかけて行われたチャッティースガル,マディヤ・プラデーシュ,ラージャスターンの州議会選挙でBJPは敗北し州政権を失った。その雪辱を期すためにBJPおよび密接な関係にある民族奉仕団(RSS)は積極的な動員を行った。また経済改革を推進するBJPには経済界から豊富な資金が流入した。加えて2019年2月14日のカシミールでの自爆テロと同月26日のパキスタンへの報復軍事行動(後述)がナショナリスティックな反応を引き起こしたことが重要である。各種世論調査からみてもこの事件を境にモディ政権の支持率は上昇に転じている。

一方,国民会議派(会議派)を中心として野党が十分な共闘態勢を組めなかったことも勝敗を左右した。会議派は自身が主導する統一進歩連合(UPA)以外の有力政党との選挙協力をうまく組めなかった。3月にはウッタル・プラデーシュ(UP)州で大衆社会党や社会主義党と,デリーで庶民党と共闘することが最終的に見送られた。会議派のラーフール・ガンディー総裁は,政権につけば最低所得保証制度を立法すると宣言するなど貧困大衆の支持を動員しようとしたが,大衆の支持を受けとめる幅広い連合を組めなかった。

5月23日の開票でBJPは得票率,議席数とも伸ばし,連邦下院で安定過半数を確保した。24日に旧連邦下院が解散されたあと,新しい連邦下院が発足し30日に57人の大臣からなる第2次モディNDA政権が樹立された。内務大臣には強硬なヒンドゥー民族主義者とみられるアミット・シャーが就任した。一方,ラーフール・ガンディー会議派総裁は同月24日に大敗の責任をとって辞任の意向を明らかにし,7月3日に辞任した。代わりにソニア・ガンディー元総裁が8月10日に会議派暫定総裁に就任した。

モディ政権は6月5日に雇用・技術形成委員会を,6月15日にロジスティクス,マーケティング,生産の強化を含む農業での構造改革をめざすハイレベル特別対策本部を設定するなど,高い失業率に対処すべく成長と雇用に積極的に取り組む姿勢を改めて示した。また,第2次モディ政権は選挙での大勝を背景に,第1次政権ではできなかったヒンドゥー民族主義アジェンダの実現に進むことになる。

ジャンムー・カシミール州の特別な自治権の剥奪

連邦政府は8月5日に憲法370条に基づいて認められていたJK州の特別な自治権を剥奪し,大きな衝撃を与えた。これは1954年の大統領令に代えて新しく大統領令を出すことで永住者に特別な権利を与える憲法第35A条を廃止し,第370条を無効化することで行われた。また同日,同州をJKとラダックの2つの連邦直轄領に分割する法案が連邦議会に提出され8月9日に成立した。これらの措置によりJK州は州独自の憲法を失い,他州と同様に連邦法が適用されることとなった。

JK州を特別扱いせず他州と同じくインドに統合することはBJPの以前からの主張であり,2019年の連邦下院選挙綱領でも憲法第370条の廃止を掲げ,アミット・シャーBJP総裁(当時)もモディ首相が再び首相に選ばれれば第370条は廃止するとたびたび発言していた。しかし2015年10月にJK高等裁判所は,1957年に解散したJK州制憲議会の同意がなければ第370条の改変はできないと判断した。また2018年4月に最高裁もJK州制憲議会が解散した以上,第370条は改変できないとの判断を示した。しかし,モディ政権はJK州制憲議会をJK州議会と読み替え,かつ,JK州が大統領統治下(2018年12月以降。2019年6月28日に6カ月延長)にあることで州議会の機能は州の知事が代行しているとして強引に上述の大統領令を適用し,JK州民を無視して特別な自治権を剥奪したのである。

JK州はパキスタンとの係争地であり,かつ,ムスリム多住地域で,1980年代末以降,分離主義運動,自治権運動の激化により多くの犠牲者を出してきた。そのため今回の決定は大きな反発を引き起こすことが予想され,モディ政権は周到かつ迅速に実行した。7月26日に内務省は治安維持のため治安部隊100中隊を州に追加配備することを承認し,8月2日にはテロの脅威を理由として観光客などを州外に退避させた。さらに8月4日には人民民主党のメーブーバ・ムフティやジャンムー・カシミール民族協議会のオマール・アブドゥッラーなどカシミールの有力な政治指導者や青年ら多数を拘束し,通信遮断,外出禁止令を適用し厳戒態勢を敷いた。そのうえで特別な自治権の剥奪が行われた。

今回の措置に対して大衆社会党やテルグー・デーサム党(TDP)などは理解を示したが,会議派,インド共産党(マルクス主義)などの左翼政党,社会主義党,ドラヴィダ進歩連盟(DMK)などは民主主義の否定であると非難し,8月22日にはDMK主導の抗議集会が組織された。住民レベルでは,チベット系住民が多いラダック,ヒンドゥー教徒が多いジャンムー地域では今回の措置はおおむね受け入れられたが,ムスリム多住地域のカシミール地域は反発が強く,不満は治安部隊や警察の抑圧によって押さえられている状況である。

一方,パキスタンは対決姿勢を強め,中国も非難を明らかにした(「対外関係」を参照)。国際的にもモディ政権の強権的措置に対して批判が高まり,たとえば9月9日に国連人権理事会はカシミールでの政治家などの監禁・拘束を終了し,通信サービスを回復するようにインドに促した。モディ政権は決定の正当性をアピールするため,27人の欧州議会メンバーにカシミールのスリナガルを訪問することを10月28日に認め,代表団は30日に訪問した。しかし,カシミール地域でのインターネット接続など通信は依然として強い規制下にあり,要人など多数の拘束が続いている。

このようななかで10月31日に分割が実施されJKは議会をもつ連邦直轄領,人口が少ないラダックは議会をもたない連邦直轄領となった。

アヨーディヤー事件判決

最高裁によりアヨーディヤー事件関連の判決が11月9日に言い渡され,大きな節目となった。UP州の東部のアヨーディヤーにあるムガル朝時代に建てられたモスクは,元々はヒンドゥー教のラーマ神生誕地をまつる寺院を破壊して建てられたものであるという言説があり,このモスクをめぐり古くからヒンドゥー教徒とムスリムの間で紛争があった。このような歴史的背景からBJPやRSS,世界ヒンドゥー協会などは同地にラーマ寺院を建立する運動を長年続けていた。これら勢力は1992年12月にモスクを破壊し,それをきっかけに宗派暴動が広がり多くの犠牲者が出た。事件後1993年に中央政府は平和を維持するため問題の土地を接収したが,その所有権をめぐる最終的な判決が下されたのである。

同地の所有権は1950年代から争われてきたが,1993年以降,問題は同地のなかでもモスク跡地2.77エーカーの所有権であった。2010年9月にUP州アラハバード高裁はモスク跡地の3分の1がスンニー・ワクフ管理委員会(ムスリム寄進財産の管理委員会)に,3分の1がラーマ神の御神体を代表するヒンドゥー大協会,3分の1がヒンドゥー教団体ニルモヒ・アカーラーに所属するという判決を出したが,前2者が最高裁に控訴したため2011年5月に最高裁は高裁判決を差し止めた。最高裁は2019年8月6日から最終審理を開始し10月16日に終えた。

判決はアヨーディヤー問題の行方を左右し場合によっては宗派対立を再燃させかねない。そのため11月3日にはムスリム指導者はムスリムに冷静な対応を求めた。モディ首相も6日には判決に備え社会の調和を維持するよう声明を出し,また,アヨーディヤーに4000人の治安部隊を配置するなど厳戒態勢を敷いた。

このようななかで最高裁は11月9日に判決を下した。それはヒンドゥー教徒側の主張に沿ってラーマ神の寺院建立に道を開くものとなった。判決は中央政府により設立される信託団体が問題の2.77エーカーの土地に寺院を建立することを認め,ムスリム側には1992年のモスク破壊の補償として5エーカーの代替地が与えられるべきとした。このような判決になった理由として,御神体が長年にわたりヒンドゥー教徒に参拝されてきたことなどヒンドゥー教徒による信仰の実態があったこと,それに対してムスリムは所有権を放棄したわけではないが,モスクが立っていた土地に対してさえ排他的に権利を主張できる状態ではなかったことがあげられた。ヒンドゥー教徒の信仰実践が継続的に行われていたことが判決の決め手となった。

判決に対して同日スンニー・ワクフ管理委員会は再審理を求めないことを表明した。会議派も判決を尊重し寺院建立を認める声明を発表した。インド連邦ムスリム連盟も不満を表明しつつも判決は尊重すると表明した。

市民権改正法と市民の反発

モディ政権のヒンドゥー民族主義の姿勢が改めて顕著になったのが1955年市民権法の改正であった。市民権(改正)法案は第1次モディ政権の2016年に提出されたが反発が強く,同時に審議されていたムスリム女性(結婚における権利の保護)法案(夫が一方的に妻を離婚できるとされる「トリプル・タラーク」禁止が盛り込まれた法案)とともに,2019年2月13日には廃案になった。後者については第2次モディ政権は再度立法を試み,8月1日には成立した。

市民権(改正)法案は反発が根強く改正は難しいとみられていたが,モディ政権は同法案を再び連邦議会に提出し12月9日に下院,11日に上院を通過させ,12日に成立させた。これに対して会議派など主要野党は反発を強めた。

同法はアフガニスタン,バングラデシュ,パキスタンから流入したヒンドゥー教徒,シク教徒,ジャイナ教徒,仏教徒,パールシー,キリスト教徒難民に,2014年12月31日以前にインドに入国し,帰化申請前に計6年以上インドに住んでいることを条件に市民権を与える法律である。ムスリムが除外されたのは,宗教的少数派は迫害を受けたため難民となったが,ムスリムは迫害の対象となっていないからとされた。しかし,ムスリムでもシーア派やアフマディー教徒(パキスタンではムスリムと公式には認められていない)などは迫害の対象となる可能性があり,また,スリランカのタミル人ヒンドゥー教徒は対象とならないなど,問題が多く指摘されムスリムはもちろん一般市民からも批判が強かった。

また民族のモザイクである北東部ではムスリムだけでなくほかの集団の流入も大きな問題を起こしており,移入民が非ムスリムだとしても,彼らに市民権を与えかねない市民権(改正)法は北東部の元々の住民にとっては感情的に受け入れがたい。なぜなら,確かに同改正法は北東部諸州で特別な入域許可制の対象となっている諸州とメガラヤ,ミゾラム,トリプラ,およびアッサムの部族民地域は対象外としているが,住民が先住民であるのか,他地域から流入してきたとしていつ流入してきたのかなど,特定することが難しい。このため,結局,市民権(改正)法は不法移民を正当化してしまうのではないかという不安があるからである。このような理由から北東部でも,アミット・シャー内務大臣の訪問に先立って10月3日には北東州市民団体が同法案上程に抗議するなど,抗議運動が拡大した。

アッサム州では北東部の他州と異なり同法が適用される地域があり,大きな問題を引き起こす可能性があるため,とくに反対が強かった。同州は長年流入民の問題に直面し,1980年代前半に「外国人」排斥運動で多数の犠牲者を出した背景があり不法移民問題に敏感で,そのため国民市民登録(NRC)を実施し市民権が認定できない住民を特定している(後述)。大きな問題は,同法の適応外となる北東部の他地域で市民権を取得できない非ムスリムが,アッサムの非部族民地域に移入し市民権を取得する可能性である。またアッサム州はムスリム人口が34%(2011年人口センサス)と多いため宗教差別にも敏感である。これらの要因から同州での反対運動は激化した。12月9日には学生組織が48時間のゼネストを呼びかけるなど,暴力的な反対運動が広まった。中央政府は11日には暴力化に備えて軍をアッサム州,トリプラ州に派遣した。

市民権(改正)法への反対運動は全国的な広がりをみせ,12月13日にはデリーで改正に反対するジャミアミリア大学の学生・教員と警官の衝突が起こった。西ベンガル州でも改正への反対運動が暴力化し,ナガランドでも学生による学校閉鎖などが起こった。一方,BJPが政権を握るUP州では改正反対運動が厳しく弾圧され,12月20日までに16人が死亡した。運動が広がるなかで野党が政権を握る西ベンガル,パンジャーブ,ケーララ,ラージャスターン,マハーラーシュトラの各州政府は同法を実施しないとの声明を相次いで発表した。

アーンドラ・プラデーシュ州,オディシャ州,アルナーチャル・プラデーシュ州,シッキム州の州議会選挙

連邦下院選挙と同時期にアーンドラ・プラデーシュ(AP)州,オディシャ州,アルナーチャル・プラデーシュ(ArP)州,シッキム州で州議会選挙が行われ5月23日に同時開票された(表2)。

表2  州議会選挙開票結果( 5 月23日)

(注)政党獲得議席の後のカッコ内は得票率(%)。

AP州では2014年以来政権の座にあったTDP州政権は,2019年1月から2月にかけて年金支給額の増額,住宅建設への支援強化,零細農や小農に対する州独自の所得保障事業など福祉事業の拡大を発表し,また2月7日には州の政府職や教育機関の採用で中間的カーストのカプーに5%,先進的カーストのなかで経済的貧困層に5%の留保を適用する法案を策定し州議会を通過させた。これらは選挙をにらんで住民の支持獲得を目的としたものであることは明らかであった。

しかし開票結果はY・S・ジャーガン・モーハン・レッディー率いる青年・労働・農民会議派(YSR会議派)の圧勝となった。YSR会議派は2011年に会議派から分かれた政党である。州で有力なカンマ・カーストやカプー・カーストの半数弱はTDPを支持したとみられるが,YSR会議派は有力カーストのレッディーに加え指定カースト(旧被差別カースト:SCs)などほかの中・下層の幅広い階層の支持を集めたことが勝利につながった。

ジャーガンは州首相就任に先立って,5月26日にモディ首相と会談し,2014年に旧AP州がAP州とテーランガーナー州に分割されたときにAP州に約束された特別カテゴリーの地位を改めて要求した。この地位変更によって州は中央政府から有利な条件で財政移転を受け得るからである。5月30日にジャーガンは州首相に就任した。新政府はTDP政権が行ったカプー・カーストへの5%の留保措置の見直しを7月末に発表し,また,後進地域の部族民の利益保護のため,9月26日にヴィシャカパトナム県のボーキサイトの採掘地域を30年間A・P・ミネラル地域開発会社にリースする契約を無効にするなど,政策の転換を行っている。

オディシャ州では与党のビジュー・ジャナター・ダル(BJD)が圧勝し,5月29日にナヴィーン・パトナイクが州首相に就任した。2000年以降5回連続の勝利である。BJD政権は比較的に効率的で腐敗も少ないとみられていることが,州民から支持を得ている大きな理由である。加えてBJD政権は2018年12月に小規模,零細農への直接的所得移転である「農民の生活・所得支援事業」を打ち出すなど,近年疲弊が目立つ農民・貧困層への対策も積極的に行った。しかし,後進的部族民地域では開発は遅れており,過激な武装闘争が広がる要因となっている。3月9日には禁止団体のインド共産党(毛沢東主義者)がAP州に近いマルカンギリ県のチトラコンダで集会を開き,近隣地域から1500を越える部族民が参加した。

BJD政権は経済開発を進めるためにも,中央のモディ政権とは建設的関係を維持することを強調している。中央との関係は財政の厳しい州政府にとって重要である。たとえば,州政府は12月6日に,州の「農民の生活・所得支援事業」は中央政府の「首相の農民」事業と重複することから,支援額を年1万ルピーから4000ルピーに減額することを明らかにした。これにより州の財政負担は軽くなった。パトナイク州首相は12月18日にNRCには反対するが,市民権改正法はインド市民には影響なしとして中央政府に理解を示す姿勢を明らかにした。

ArP州の選挙戦ではBJP,会議派とも開発を強調したが,BJPは他地域とArP州のコネクティビティ,治安維持に力点を置き,一方,会議派は雇用など包摂的開発,および,紛争地域で紛争を抑制するため軍に強い権限を与える軍特別権限法を緩和し,エスニック紛争グループと対話を試みることなどを主張した。5月23日の開票では与党BJPが約5割の得票を得て勝利し,29日にペマ・カンドゥが州首相に就任した。カンドゥは2016年7月から州首相を務めているが,その間,会議派,アルナーチャル人民党,そして2016年12月31日からBJPと政党を変えてきた。モディ政権は北東部のコネクティビティ,開発を強調しており,カンドゥ政権は中央とのパイプを通じ積極的に開発を進めようとしている。

シッキム州では1994年以来州政権についていたP・K・チャムリン率いるシッキム民主戦線(SDF)が敗れ,P・S・タマンに率いられてSDFから2013年に分かれたシッキム革命戦線(SKM)が勝利した。SDFはNDAのメンバーであったが,BJPは3月8日にSKMと選挙協力を行うとした。これがSKM勝利のひとつの要因となった。タマンは5月27日に州首相に就任した。タマンは2016年12月に贈賄で有罪判決を受け選挙に出馬できない状況が続いていたため,議員資格を持たないままでの就任であった。しかし選挙委員会は2019年9月28日にタマンの無資格期間を6年から13カ月に減らすことを決定し,タマンは10月23日の補欠選挙で勝利し州議会に席を得た。この選挙委員会の決定には批判が集まった。

アッサムの国民市民登録(NRC)

アッサム州で不法移民の問題は大きな政治問題である。州では住民の市民権を確定するため1951年にNRCがなされたが,それ以降更新されていなかった。その後1980年代前半の「反外国人運動」の結果,中央政府と運動指導者との間で1985年にアッサム合意が結ばれ,市民権の認定は1971年3月24日以前に同州で住み始めたかどうかが基準になった。これは市民権法の例外事項である。更新作業は2013年から行われ,2017年12月末に更新された第1次ドラフトが公表されたが,約400万人が登録されないことが明らかになった。そのため2018年12月末までに未登録者のうち約300万人が再申請を行った。登録されない場合はインド市民権を認められず無国籍者となる可能性もあり,大きな問題となった(『アジア動向年報2019』参照)。

州政府はNRCの最終版の公表に備えて,市民登録されなかった者に対する審判を行う外国人審判所を大幅に増設した。最終版は2019年8月31日に発表されたが,約191万人が登録から漏れる結果となった。全調査対象人口の約5.8%が市民権を認められなかったことになる。そこにはベンガル人に加えて多くのエスニック集団が含まれた。インド・ゴルカ会議は,10万人のゴルカ人がNRCから除外されたと批判した。登録から漏れた者は120日以内に外国人審判所に申し立てでき,その決定に不満な者は高裁,さらには最高裁に提訴できるとされたが,登録されない者は拘留所に収容される恐れもあり,不安が広がった。

この結果に対して会議派は,「不注意な」NRC実施が多くの市民から公民権を剥奪したと政府を批判した。非登録者のなかにベンガル人が多く含まれることもあり,西ベンガル州与党の全インド草の根会議派も批判を強めた。国際的にも批判が上がり,9月9日には国際連合人権理事会はカシミールの状況を批判するとともに,アッサムのNRCについても市民権を尊重するようにインド政府に要請した。10月5日に来訪したバングラデシュのシェイク・ハシナ首相も,アッサム州のNRC問題をとりあげモディ首相に善処を要求した。

NRCはムスリムと非ムスリムを区別していない。それはアッサム運動で「外国人」追放運動を行ってきた者の意向に沿う措置である。しかし,前述の市民権改正法では非ムスリムが市民権を獲得する可能性があり,NRCを台無しにするものだと,州BJP政権は批判にさらされている。11月20日にアミット・シャー内務大臣は上院で,政府はNRCを全インドで実施すると説明しており,もし実現すれば大きな混乱と対立が生じる可能性が高い。

カルナータカ州の政変

カルナータカ州では2018年5月に行われた州議会選挙の結果,会議派とジャナター・ダル(世俗主義)(JD[S])の連立政権が成立し州首相にはJD(S)のH・D・クマラスワミーが,副首相には会議派のG・パラメシュワラが就任した。しかし両党の関係は不和が目立ち,州野党BJPの揺さぶりを受け政権は不安定な状態が続いた。2019年5月の連邦下院選挙で同州ではBJP候補が大勝したことも,州与党議員がBJPに鞍替えするのではないかと人々の間で憶測を強めた。

6月にはBJPは農民の不満を背景に攻勢を強めた。10日には農民組合がベンガルール周辺で道路を封鎖し,州政府は開発プロジェクトを行うため農地などの土地収用を円滑に行えるように土地収用法を改正しようとしている,として抗議した。BJPは,13日には州政府が政府所有地を不当に安い価格でジンダル南西鉄鋼会社に売却したこと,州政府が約束した農業ローン返済免除を満足に行っていないとして非難した。

7月に入ると連立政権議員から離反者が現れ,連立政権は崩壊した。1日には会議派議員2人が辞職した。1人は上述の民間採鉱会社へ政府所有地を売却する決定などを不満として,もう1人は2018年12月に州内閣から外されたことを理由としての辞任であった。6日にはJD(S)議員3人,会議派議員9人が辞表を提出した。8日には連立政権は一旦辞職し,新内閣を発足させることで延命を図った。しかし23日の州議会での信任投票で連立政権は敗れ退陣した。代わってBJPのB・S・イェデュラッパが組閣を行い,26日に州首相として就任宣言を行った。州議会議長は28日には反党籍変更法に従い会議派議員11人,JD(S)議員3人を資格停止とし,このようななかでイェデュラッパBJP政権は29日に州議会で信任投票を乗り切った。会議派,JD(S)の離党議員はBJPに入党した。

ハリヤーナー州,マハーラーシュトラ州の州議会選挙

ハリヤーナー州議会選挙が10月に行われた。選挙戦ではBJPはモディ首相,アミット・シャー内務大臣などが有権者に支持を訴えた。会議派は農民の困窮,失業など経済の低迷をとりあげM・L・カッタル州首相率いるBJP政権を批判し,政権復帰した場合,農民ローンの免除,被抑圧民(ダリト)への奨学金拡大などを行うとして支持を訴えた。2018年12月にインド国民大衆党から分離して設立されたジャンナーヤク人民党(JJP)は,農民の利益を追求することを前面に出し選挙戦を戦った。

24日の開票結果ではBJPは第1党の地位を維持した(表3)。一方,会議派は,インド国民大衆党が分裂したため多くの農民票が会議派にシフトしたことにより,復調が顕著であった。BJPはJJPと連立することで政権を樹立した。27日にBJPのカッタルを州首相,JJPのD・チョウタラを副首相とする連立政権が発足した。

表3  州議会選挙開票結果(10月24日)

(注)政党獲得議席の後のカッコ内は得票率(%)。

マハーラーシュトラ州の州議会選挙では与党BJPとシヴ・セーナー(SHS)連合の勝利が予想された。5月の連邦下院選挙でBJPとSHS連合は大勝し,また,世論調査でも同連合の勝利が予想されたからである。6月18日の州予算案では,近年の州農業部門の低成長を底上げするため灌漑や土壌保全など農業部門への投資,農民向けの雇用,保険,福祉事業強化に力点が置かれ,社会保障と経済成長の予算と呼ばれ,与党連合への支持を押し上げるものとみられた。野党の会議派やナショナリスト会議派党(NCP)からBJPに鞍替えする議員も7月以降目立った。会議派とNCPは9月16日に,BJPとSHS連合は9月30日に選挙協力を発表した。

10月24日に行われた開票では予測とは異なり,与党連合の後退という結果となった。BJP,SHSは2014年選挙から議席をそれぞれ17および7減らし,会議派,NCPは前回から2および13議席増加させた(前回はこれら主要4政党の間で選挙協力はなかった)。しかしBJPとSHSは両党で161議席と過半数を占め政権樹立は容易と思われた。ところが両党の間で大臣職の配分,州首相の人選をめぐり妥協が成立せず,組閣は難航した。10月30日にBJP議員はD・ファドナヴィス州首相を引き続き州首相として推したが,SHSの支持を得られず政権が成立しなかったため,結局11月12日に大統領統治下に置かれ,中央政府の管理下に入った。11月23日には大統領統治が解除され,BJPのファドナヴィスを州首相としてNCPのアジット・パワルが支持することで政権の就任宣誓が行われたが,パワルはNCPの支持を得ていなかったため,ファドナヴィスは政権を樹立したものの維持できなかった。結局,SHS党首ウッダヴ・ターカレーがNCPと会議派の支持をとりつけ,共通最小要綱を定めたうえで28日に政権樹立に成功し,30日には州議会の信任もとりつけた。

ターカレー連立政権は12月2日には州内で高速鉄道(日本の新幹線事業)の必要性を再検討する考えを示し,また23日には市民権改正法やNRCは州では実施しないと明らかにするなど,モディ政権から距離を置く姿勢を明らかにしている。

ジャールカンド州議会選挙

ジャールカンド州では2月7日にはBJPに対抗して,会議派総裁ラーフール・ガンディーとジャールカンド解放戦線(JMM)指導者H・ソーレーンの間で選挙協力が発表され,連邦下院選挙は会議派主導で,州議会選挙はJMM主導で選挙を行うこととなった。連邦下院選挙ではモディ首相の人気に押され,全インド的な争点が大きく扱われたこともありBJPが大勝した。

しかし,12月23日に開票されたジャールカンド州議会選挙ではJMM,会議派,民族ジャナター・ダル(RJD)連合の勝利となり,BJP政権は退陣した(表4)。連合が大勝した大きな理由は,前回2014年の選挙と異なり,JMMと会議派との間で選挙協力ができたことである。加えてラグーバル・ダス州首相率いるBJP州政権の不人気があった。同政権は2017年に,指定部族(STs)多住地域で商業的土地利用を容易にする小作法改正を行ったが,それは州人口の26%を占めるSTsの生活を脅かしかねないものと映りSTsの不満を高めた。また近年ジャールカンド州ではヒンドゥー民族主義の高まりを背景として,過激な牛保護団体によるムスリムやダリトに対する攻撃がたびたび起こっていることもBJP政権への信頼を低下させた。6月18日には牛を盗んだとの嫌疑からリンチでムスリム青年が死亡し,事件に関連してジャールカンド警察は24日に6人を逮捕した。事件への抗議は州にとどまらず,デリーなど主要都市で抗議行動につながった。

表4  州議会選挙開票結果(12月23日)

(注)政党獲得議席の後のカッコ内は得票率(%)。

12月29日にJMM,会議派,RJDの連合政権が誕生しJMMのソーレーンが州首相に就任した。

(近藤)

経 済

マクロ経済の概況

マクロ経済の概況を説明する前に,公的統計に関して2018年に顕在化した問題が完全には払しょくされていない点について,2019年4,5月の選挙とのかかわりもあり,簡単に触れておく。

第一に,基準年の変更と非組織部門の経済動向の反映について,いずれも政府統計は,経済パフォーマンスを高く示すバイアスを孕んでいるのではないかという議論が,2019年も依然として続いている。たとえば,元政府首席経済顧問アルビンド・スブラマニアンは6月に,2011/12年度から2016/17年度の成長率は2.5%ポイントほども過大評価されているというレポートを発表した。

第二に,統計に対する政府の恣意的な介入が批判されている。政府は5月に選挙が終了するまで,労働統計に関する報告書の公表を保留し続けた。具体的には,全国標本調査室(NSSO)の労働力サーベイ(PLFS)は,2月の時点で,2017/18年度の失業率が6%を超えるとの報告を取りまとめていたが,政府はこれを草案であるとしたため,これに抗議して全国統計委員会委員長が辞任する事態となった。政府は,選挙終了直後の5月末にこの報告書を,修正を加えずそのまま公表した。このような政府の姿勢について内外から批判を受けたこともあり,政府は5月に,これら重要統計の担当機関である,全国標本調査室と中央統計室(CSO)を合併して,全国統計室(NSO)を設置するなどの対応を行っている。しかし,11月には個人消費支出に関するサーベイが取りまとめられているにもかかわらず,再び公表されないという事態となっている。

こうした注意点を念頭に置きつつ,政府公表の統計に基づき,まずマクロ経済指標を確認する。

経済成長率は,2018/19年度の成長率が,第2次予測値の7.0%から第1次改定値で6.1%に引き下げられ,さらに2019/20年度の第2次予測値は5.0%と発表された。すなわち,インド経済の減速が明らかになっている。

産業部門別では,製造業と建設業の減速が鮮明であり,その成長率はそれぞれ2018/19年度の5.7%から2019/20年度の0.9%へ,6.1%から3.0%へ後退している。背景には,後述する信用クランチによる製造業の資金繰りの困難,また乗用車などへの需要減退があると考えられる。

次に,支出別の統計を確認すると,民間最終消費支出の対前年度比での伸びが2018/19年度11.5%から2019/20年度9.1%に鈍化しており,それ以上に投資の伸び率が著しい落ち込みをみせ,総固定資本形成は,2018/19年度の14.5%に対し,19/20年度は1.9%であった。総固定資本形成のGDPに占めるシェアも,29.0%から27.5%に後退した。対前年度比成長率は輸出が17.3%から1.0%,輸入も19.1%から-2.6%に縮小しており,経済活動が失速している様子を映し出している。なお,すでに触れた公表されていない個人消費支出調査に関する報道では,2012/13年度から2018/19年度まで個人消費は1人当たりでみると減少しているとの結果であり,とくに地方の需要減退が著しいと伝えられている。

物価については,燃料・電力物価指数の伸び率は2019年下半期がほぼマイナス圏内であったのに対し,食料卸売物価指数が下半期に高く対前年同月比10%を超えた。この伸びにけん引される形で,消費者物価指数,卸売物価指数も上昇基調となっている(図1)。実際,11月には食糧インフレ,消費者物価指数が3年ぶりに高水準であった。背景には,不順モンスーンの影響で,玉ねぎやジャガイモなど野菜類を中心に食料生産が落ち込んだことがある。

図1  物価上昇率の推移(2013~2019年)

(注)前年同月比。2019年12月は暫定値。

(出所)消費者物価指数(CPI)はMinistry of Statistics and Programme Implementation,卸売物価指数(WPI)はOffice of Economic Adviser, Ministry of Commerce and Industry のウェブサイト・データより作成。

このように,減速する経済に対して,インド準備銀行(RBI)は,政策金利を2月,4月,6月,8月,10月と5度に渡って段階的に6.5%から5.15%までに引き下げて景気の刺激を試みたが,12月にはインフレを懸念せざるをえない状況になり,政策金利を据え置くという判断をしている。

為替レートについては,上半期はルピー高基調で1ドル68~70ルピーで推移していたが,8月にはルピー安が進行し1ドル72ルピーまで下げた。その後,ルピー安は,アメリカの利下げがあった9月にいったん持ち直し,71ルピー前後で推移している。

国際収支は,2019/20年度上半期は,依然として経常収支は赤字であるものの,総合収支は,赤字であった前年度から,黒字に転じている。経常収支では,貿易収支と所得収支の赤字をサービス収支と移転収支の黒字で補いきれない状況に変化はなく,後述する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)不参加の決定の背景にも,こうした構造的な貿易赤字問題がある。周知のとおり,輸入額のおよそ3割は原油であり,輸出品目は石油製品とダイヤモンド・宝飾品が重要であるが,いずれも原料は輸入である。また,その他の輸出品目では,自動車・部品,医薬品などが重要である点も大きな変化は今のところない。輸入では,携帯電話関連,パソコン,一般機械類の金額が増えており,とくに対中国の貿易赤字が膨らんでいる。

アメリカは,インド最大の輸出相手国であり,しかもおよそ240億ドル,インド側の輸出超過という状況にある。アメリカは,2018年3月に,インドに対しても他国と同様,鉄鋼製品25%,アルミニウム製品10%の輸入関税を課し,さらに2019年6月にはインドに対する一般特恵関税制度の適用を終了する措置に出た。アメリカの対インド輸入額の1割程度に該当する品目がこの影響を受けるとみられる。さらに,アメリカはインド人情報通信技術者向けビザ発給の厳格化も検討している。具体的には,アメリカの専門技能職外国人向けビザ取得者の過半数がインド人であるが,このビザ発給の引き締めである。こうしたアメリカ側の措置を受けて,インドは鉄鋼製品課税に対する報復措置の発動を何度も延期してきたが,ついに2019年6月16日にアーモンドや胡桃,リンゴなどアメリカから輸入される28品目を対象に報復関税を賦課した。

金融収支については,経済が減速基調にあるにもかかわらず,直接投資,間接投資の流入は堅調である。株式指標のSENSEXをみると,2019年4月に史上初めて39000を超えたあとは若干落ち込んでいたが,9月頃よりまた上昇し,11月には40000を初めて突破している(図2)。

図2  SENSEX(株式指数)

(出所)Bombay Stock Exchange のウェブサイト・データより作成。

銀行の不良債権問題と需要失速

RBIは2019年に5回の利下げを行ったが,貸し出しはさほど刺激されず,市中の金利も十分には下がらなかった。不良債権問題に悩む銀行は収益を優先して,利下げ利益を借り手に還元することが難しいからである。RBIは政策金利と市中の金利を関連付ける規制を導入する事態となっている。このように,不良債権比率は上半期には改善傾向との報告もみられたが,依然としてインド金融界の抱える難題である。実際,指定商業銀行の貸出残高は前年比で好況時の20%超(2010年)から8%あまりにまで減っている。

銀行の不良債権は,指定商業銀行による2011年以前の好況時の貸し出しが不良債権化したものが多かったが,インフラストラクチャー・リーシング・金融サービス(IL&FC)の2018年9月の債務不履行より,信用クランチに直面しているノンバンクの問題も重要な比重を占めるに至っている。ノンバンクは1万4000社以上あり,住宅,自動車などのローンで大きなシェアを持っていた。貸出金額は住宅金融専門も含めると28兆ルピーを超え,商業銀行の3分の1以上となる。ノンバンクは預金業務をもたないため市中で資金調達をするが,これが困難となっており,そのため,とくに自動車ローン,住宅ローンに対する貸し付けも大幅減少となって,消費失速の一因となっている。なお,乗用車販売の不振の背景には,2018年に新車購入時に義務付けられる自賠責保険の加入期間を1年から3年に延長したことにより,購入者の負担が増えたこと,また2019年6月に自賠責保険料が引き上げられたことがあるのではないかと指摘されている。

こうしたノンバンクの破綻問題に端を発する不良債権の増加に加え,ここにきて,さらに「首相の零細事業者貸し付け事業」(PMMY)によるローンの一部が不良債権化し,これが増える事態となっている。Mudraローンと呼ばれるこの仕組みは,担保なしで非農業活動のために貸すローンであり,モディ政権の肝入りで2015年4月8日に開始されたものである。2015年度は6000億ルピーの貸し出しのうち60億ルピー,2016年度は7200億ルピーの貸し出しのうち380億ルピー,2017年度は9300億ルピーの貸し出しのうち730億ルピーが不良債権化していると報じられている。

もちろん,破産法典の施行と,全国会社法審判所により,企業の破綻処理と不良債権圧縮の仕組みも動きはじめてはいる。たとえば,鉄鋼大手エッサールの破綻処理が11月にようやく決着し,日本製鉄と組んだアルセロール・ミタルによる買収計画が最高裁で承認された。これで2017年にRBIが公表した大口債務企業12社のうち5社の処理が決まった。しかし,2019/20年度には,激しい価格競争を背景として,国内航空第2位のJet Airwaysが破綻するなど,会社法審判所の処理能力の強化が議論されている。

改革機運の後退,RCEP離脱,失業率

2期目に入ったモディ政権の経済政策に,1期目ほど目新しいものはない。1期目には,政治腐敗問題で動きが取れなくなったシン政権とは違うことを強くアピールするために,「最大限のガバナンスと最小限の政府」「メイク・イン・インディア」などのスローガンを掲げてプロ・ビジネスの姿勢を示し,改革を実施する実行力をモディがもっていることが繰り返し喧伝された。もちろん,1期目にはいくつか重要な成果もある。たとえば,物品・サービス税(GST)の導入や破産法典の施行である。こうした市場のソフト・インフラに加えて,物的インフラでも,たとえば,州の電力公社の経営問題は依然として深刻なものの,電力の供給状況については改善がみられる。

4月の選挙前までは,こうした成果や,あるいは人気取りとも思われるような経済政策が議論された。7月に,第2次モディ政権成立後初めて発表された予算の規模はおよそ27兆9000億ルピーで,前年度13.4%増,とくに農業関連で75%増の約1兆5000億ルピーが振り分けられたほか,防衛費が3兆ルピーを超えた。保険仲介業で外資100%を認め,シングル・ブランド小売業で国内調達義務の緩和などを盛り込んだ。

8~9月には,減速する経済に対して,モディ政権は景気刺激策を打ち出した。たとえば,450万ルピー以下の物件を購入する場合の住宅ローンの金利の減免幅を拡大するなどの住宅需要対策や,自動車では自動車登録税の引き上げの先送りなども行った。また,法人税を35%から25%に減税することも打ち出した。経済減速にもかかわらず資本流入が続いている背景には,この法人税減税と,アメリカ連邦準備銀行の利下げがあるとみられる。

景気減退に対して,財政規律に拘泥しすぎることなく,景気刺激策を展開すべきだとの議論がある。政府はGSTによる税収,RBIの余剰金政府納付,国営企業の政府持ち株の売却などにより,歳入の増加を図っているが,民営化といっても実は公営銀行が株式を事実上購入しているケースがある。また,肥料,食糧補助,灌漑,鉄道などに使われている予算外の支出が実は大きく,財政赤字比率が5%ほど低く算出されているとの試算もある。こうした問題について,会計検査院が懸念を表明した。

2019年1月の時点で,土地収用などが遅れているために開始されていないプロジェクトは全国で162件あり,また,過去5年で土地収用のコストは300%あまり上昇している。新幹線に必要な土地の半分も収用できていない。こうしたプロジェクトの遅延は,財政に悪影響を及ぼしている。

減速する経済状況は,インドのRCEPに対する姿勢にも影響を与えた。周知のように,インドは大幅な関税引き下げに難色を示し,最終的にRCEPの交渉から11月に離脱した。RCEP地域の国,地域に対して,インドは貿易赤字を抱えており,それらの総計はインドの貿易赤字総額の50%以上を占める。また,インドが得意とする情報通信技術の輸出もRCEP地域においてはあまり重要ではなく,貿易赤字をサービス輸出でカバーできない見込みであることも背景にある。工業部門の反対だけでなく,乳業など農業セクターからの反対も相次ぎ,政治判断としては離脱となった。農業,工業部門はおおむね政府判断を歓迎する声明を出しているが,一部の経済学者や経済団体は,長期的にはRCEPに入ることが重要だとの見解を示している。インドは,エレクトロニクス,繊維,自動車部品,履物,玩具などで関税引き上げを行っており,WTOに提訴されるケースも多い。

また,雇用において7~8割,GDPの45%ほどを占める非組織部門における景気後退の影響は深刻な可能性がある。インドでは,勤労者の約8割が零細企業勤務か自営業であり,5月末にようやく公表された労働力サーベイによると,2011年と比較して,3000万もの仕事が失われている。とくに,農村の季節労働者の働き口の減少が著しい。また,およそ1000万人の労働市場への新規参入に対して,大企業の雇用は55万程度である。雇用創出は依然としてインドの最重要課題である。

(佐藤)

対外関係

対外関係ではカシミール地域をめぐってパキスタンと大きな軍事的緊張が生じたことが,インドの国内外の政策に大きな影響を及ぼした。インドは中国,アメリカとは,利害関係の食い違いはあるがおおむね安定した関係を維持している。中国は,アメリカとの対立激化に反比例してインド重視の姿勢を明らかにしている。日本との関係では,G20で大阪を訪問したモディ首相が6月27日に安倍首相と会談を行い,また,11月30日から12月1日にはデリーで2+2対話が行われ相互理解をさらに深めた。ロシアとの関係も良好に推移し,8月5日のJK州の地位変更に際してもロシアはインドを支持した。

パキスタン:カシミールをめぐって関係が悪化

パキスタンとの関係は,2月14日にインド側JK州プルワーマー県で発生したテロ事件で大きく悪化した。パキスタンを根拠地とする「ムハンマドの軍隊」(JeM)によるとみられる自爆テロ攻撃で,40人の中央保安警察隊隊員が死亡した。JeMはパキスタン政府によって2002年に形式的には禁止団体とされたが,実際にはその勢力は温存されており,たびたびインドに攻撃を仕掛けてきていた。インド政府はパキスタンを強く非難し,同国への最恵国待遇を無効化した。政府はパキスタンに対する厳しい世論を背景に全党会議などを開催し,政府の姿勢に対して野党の理解を求めた。モディ政権が軍事行動に出る可能性が懸念されたが,それに対してパキスタンのイムラン・ハーン首相は2月19日にインドが懲罰的軍事行動をとるなら報復すると強くけん制した。国連安全保障理事会は両国の緊張激化を懸念し,2月20日の声明で自爆テロ攻撃を行ったJeMを名指しで非難した。

事態は2月26日に一挙に緊張した。同日インド空軍が報復として,JeMのキャンプがあるとされるパキスタンのハイバル・パフトゥンハー州バーラーコートを空爆したのである。インドは空爆は「非軍事的先制攻撃」作戦でテロリストへの限定的攻撃と説明し,会議派のラーフール総裁も政府への支持を表明するなど世論も政府を支持した。これに対してパキスタンはカシミールでの両国間の実効支配線(LoC)を挟んで砲撃を行い,また,戦闘機を出撃させJK州の複数の地点を爆撃しようとした。

核をもつ両国の軍事衝突は国際社会に大きな衝撃を与え,緊張緩和への働きかけが行われた。注目されるのは,両国とも事態のエスカレーションを回避すべく,軍事衝突直後から事態収拾に向けての動きを開始したことである。2月27日にはイムラン・ハーン首相は対話を呼びかけ,インドも同日スシマ・スワラージ外務大臣が空爆はJeMに対するものであり,戦闘の拡大は望まないと繰り返し説明を行った。2月28日にはイムラン・ハーン首相は,撃墜され捕虜となったインド空軍パイロットを解放すると発表し,3月1日にパイロットは解放されインドに帰還した。また,5日にはパキスタン政府はJeMの主要メンバーを予防拘留し,ほかのテロ関連団体も禁止団体としたと発表した。もっとも,これに対してインド政府は3月9日にパキスタンの措置は「紙上のみ」だと批判した。

この事件で両国は国連やイスラーム協力機構(OIC)などの場で相手国を非難し合ったが,4月から徐々に関係改善が具体的に進んだ。パキスタンは,シク教徒巡礼者がシク教の祝賀であるバイサキーにあわせて4月12日から21日にパキスタン内のシク教寺院(グルドワラ)を参拝するため,ビザを2200件発給すると4月9日に発表した。4月16日にはカシミールで両国間のLoC越えの貿易が再開された。また5月26日にはモディ首相はイムラン・ハーン首相と電話会談を行った。5月30日の第2次モディ政権の就任式ではイムラン・ハーン首相は招待されなかったものの,6月14日にはキルギス共和国のビシュケクで開かれた上海協力機構(SCO)でモディ首相とイムラン・ハーン首相は挨拶を交換した。また6月26日にインドは2021年から2022年の間,国連安全保障理事会の非常任理事国に選出されたが,パキスタンと中国も動議を支持した。

しかし,緊張緩和の方向性は8月5日のアミット・シャー内務大臣の発表により,JK州の特別な自治権が剥奪されることが明らかになったことで逆転した。翌6日にイムラン・ハーン首相はインドの決定を強く非難した。中国はインドの措置を批判したが,同時にパキスタンにも自制を求めた。7日にはパキスタンはインドの高等弁務官を追放し,二国間貿易も再び停止した。アメリカ政府は印パ両国の直接対話を提案し,両国に自制を求めた。国連も9日に事務総長が,17日に安全保障理事会が両国に自制を求めた。

このような国際社会の働きかけもあり,軍事的緊張がエスカレートする事態には至らなかったが,両国の関係は冷え切った。9月26日に開かれた南アジア地域協力連合(SAARC)外務大臣会合では,両国は互いのステートメントをボイコットした。両国は,国境に近接するパキスタンのカルタールプルにあるグルドワラにインドのシク教徒がビザなしで巡礼できるようにインドとカルタールプルを結ぶ回廊を設置する合意(5年間有効)に10月24日に署名するなど,一定の関係は維持しているが本格的な関係改善にはほど遠い。

中国:緊張を内包しつつもさらなる関係改善を模索

インドにとって中国の「一帯一路」構想への警戒感は拭えないが,2019年の両国関係は両国支配地域の境界(LAC)をめぐる小競り合い,インド側JK州の特別な地位の剥奪への中国の抗議などはあったものの,おおむね平静に推移した。中国はアメリカ・トランプ政権への対抗もあり,インドとの関係維持は重視せざるを得ない。

インドが2月26日に行ったパキスタンのバーラーコートへの空爆に対しても,中国は必ずしも強い批判はせず,3月1日のパキスタンによるインド空軍パイロットの釈放を歓迎し,プルワーマーのテロ事件の共同調査を印パ両国に呼びかけている。またこれまで中国はパキスタンの意を受けて,国連安全保障理事会小委員会(1267委員会)でJeMの指導者マスウード・アズハルを指定テロリストとして指定することを拒否してきたが,5月1日は拒否せず,指定が認められた。6月10日には,2017年6月のブータン,インド,中国が接するドークラーム高地での対立以降初めて,中国共産党代表団がデリーのBJP本部を訪問した。

8月のJK州の特別な自治権の剥奪に際して,パキスタンは中国に対してインド非難に同調するよう要請したものの,中国の批判は主にラダックを連邦直轄にしたことに向けられ,カシミール問題については印パ二国間での解決を要請するにとどまった。8月12日に北京を訪問した外務大臣S・ジャイシャンカルはLACの変更はないと中国に説明した。9月12日にインドと中国の兵士がラダック東部で小競り合いを起こしたが,双方の現地指揮官レベルの話し合いで収まっている。

10月11,12日には習近平国家主席が第2回の「非公式首脳会議」のためタミル・ナードゥ州チェンナイ近くのママッラプラムを来訪し,モディ首相と会談を行った。会談で両国は多国間交渉の場で協力を深めること,ハイレベルの経済貿易対話の場を設けることなどを合意した。10月16日に習主席は中国,インド,パキスタンの3国間の連帯強化の重要性を強調した。また11月4日のバンコクでのRCEP首脳会合で,モディ首相はRCEP交渉からの離脱を表明したが,それに対して中国はインドがRCEPへ参加するためのドアは閉じられていないと融和的な姿勢を示した。12月21日に両国はデリーで第22回国境協議を開催した。

アメリカ:貿易面での対立にもかかわらず密接な関係を維持

インドとアメリカは関係深化という点では大まかな方向性は一致しているが,具体的な政策では食い違いが目立ち,アメリカからのイラン制裁に同調するよう求める要求,貿易赤字解消を求める圧力にインドは苦慮した。

アメリカは経済制裁としてイラン産原油の禁輸を関連諸国に求めてきたが,2018年11月にインドはその例外とされた。しかし2019年5月23日には,アメリカの圧力でインドはイラン産原油の輸入を完全に停止したことが明らかになった。9月10日にインド駐在のイラン大使は,制裁に同調してイラン産原油の輸入をやめるというインドの決定は両国間の将来を傷つけると発言し,インドをけん制した。

一方,トランプ政権がかねてより不満を表明している貿易赤字の解消についてもインドは対応に苦慮した。アメリカは6月5日に,インド市場がアメリカに対して平等で合理的なアクセスを認めていないとして,途上国からの特定の輸入品を無関税とする一般特恵関税制度(GSP)の適用を打ち切った。これに対してインドは6月16日,アメリカからの果物など輸入品に対する関税を引き上げた(「経済」参照)。事実上の報復関税と見られる。6月26日に来訪したマイク・ポンペオ国務長官とジャイシャンカル外務大臣およびモディ首相との会談,また,大阪で開かれたG20サミットで6月28日に行われたトランプ大統領とモディ首相との会談でも対立は解消しなかった。ちなみにG20ではトランプ大統領,安倍首相を交えた3者会談も行われ,3国の関係強化,自由で開かれたインド・太平洋構想などについて意見交換が行われた。

インドが8月5日にJK州の特別な自治権を剥奪したことで印パ対立が再び激化したが,トランプ大統領はインドを批判しなかった。しかしトランプ大統領が両国の関係改善を仲介しようとしたことはモディ政権をいらだたせた。

以上のように両国間には利害関係の食い違いはあるが,一方では,戦略的には密接な関係が維持されている。5月3日から9日にはインド海軍は南シナ海で日本,フィリピン,アメリカの艦艇と共同訓練を行った。9月26日から10月4日にはインドは日本,アメリカ海軍との海上合同訓練マラバールを日本近海で行った。兵器体系の近代化のためにもインドはアメリカの協力を必要としている。たとえば,防衛装備品調達委員会は11月28日にアメリカの長距離偵察機P-8Iの購入を承認した。

(近藤)

2020年の課題

国内政治では,モディ政権はBJPのヒンドゥー民族主義アジェンダを強引に遂行しているが,その過程で市民権改正法への反発など大きな混乱を引き起こしている。ヒンドゥー民族主義は党是であり簡単に政策転換はできないが,景気後退と相まって社会的な混乱を拡大する可能性があり,どのような政策をとるか注目される。

経済については,短期的には,投資の減退と,不良債権問題などに対して有効な手を打てるか,中長期的には質のよい雇用を生む産業構造の転換が進むのかが重要なポイントである。

対外関係で最大の課題はパキスタンとの関係改善であるが,JK州におけるテロを契機とした軍事衝突,モディ政権による特別な自治権の剥奪は関係改善の可能性を著しく低めている。当面は,民間交流などの積み重ねによって地道に信頼関係の改善をはかっていくことが必要となろう。

(近藤:地域研究センター)(佐藤:南山大学総合政策学部教授)

重要日誌 インド 2019年
   1月
7日アッサム州でアソム人民会議,市民権法の改正をめぐり,インド人民党(BJP)と対立。州政権から離脱決定。
12日連邦政府の行政,教育機関の一般採用枠の10%を「経済的弱者層」に留保する憲法改正案成立。
14日デリー警察,2016年に当時のネルー大学(JNU)学生のカンハイア・クマールなど3人が「反インド」を扇動したとして告発。
28日会議派総裁ラーフール・ガンディー,連邦下院選挙で勝てば最低所得保証制度を立法と宣言。
28日全国標本調査室(NSSO)が取りまとめた2017/18年度の労働力サーベイを政府が公表しないことを不服として全国統計委員会(NSC)のモハナン委員長が辞任。
   2月
1日2019/20年度予算案発表。選挙をにらみ,農業部門と中間層に手厚い内容。
7日インド準備銀行(RBI)は,景気鈍化を懸念し,レポ・レートを6.50%から6.25%へ引き下げ,金融政策のスタンスを「引き締め」から「中立」に変更。
13日市民権改正法案,ムスリム女性(結婚における権利の保護)法案,廃案。
14日ジャンムー・カシミール(JK)州プルワーマー県でパキスタンを根拠地とする「ムハンマドの軍隊」(JeM)によるとみられる自爆テロで40人の中央保安警察隊隊員死亡。インドは同国への最恵国待遇を無効化。
19日パキスタンの首相イムラン・ハーンは,JK州プルワーマー県での自爆攻撃に対して,インドが懲罰的軍事行動をとるなら報復するとインドに警告。
22日アッサム州ゴーラーガート,ジョルハート県で有毒化学薬品入りの地酒飲酒で労働者など158人が死亡。
24日物品・サービス税(GST)評議会は建設中の家屋に対する税率を12%から5%に引き下げることなどを決定。4月1日施行。
26日インド軍,JK州プルワーマー県でのテロ攻撃の報復として,JeMの基地とみられるパキスタンのバーラーコートを空爆。「非軍事的先制攻撃」作戦と説明。
26日RBI,ドルスワップ(期間3年)入札の実施を通じて金融市場に約50億ドルを注入。レポ・レートの変更が迅速に市中銀行の利子率の変更に反映されることをねらう。
   3月
1日パキスタンが撃墜したインド空軍戦闘機パイロット,解放されインドに帰還。
19日ゴア州の新州首相プラモード・サワント率いるBJP連立政権就任。翌20日に州議会の信任投票で勝利。
27日モディ首相,ミサイルによる人工衛星破壊実験に成功と発表。
   4月
2日株式指数SENSEXは歴史的な最高値39056を記録。外資流入と金利カットへの期待が背景に。
2日最高裁,早期是正措置(PCA)の不良債権認定を強化したRBIの2018年2月12日の稟議書を無効に。
4日RBIはレポ・レートを6.25%から6.0%へ引き下げ。
11日第17回連邦下院選挙の地域別第1段階投票実施。これも含めて全部で7段階の投票が実施される。
15日連邦政府,ナガランド国家社会主義評議会の各派と停戦の1年延長を合意。
   5月
1日国連安全保障理事会の小委員会,パキスタンを根拠地とするJeMの指導者マスウード・アズハルをテロリストとして指定。中国は反対せず。
2日強力なサイクロンに備え,オディシャ州政府,110万人を避難させる。
23日第17次連邦下院選挙開票。BJPのモディ首相率いる国民民主連合が大勝。同時期に行われたアーンドラ・プラデーシュ(AP),オディシャ,アルナーチャル・プラデーシュ(ArP),シッキムの各州議会選挙も開票。それぞれ青年・労働・農民会議派(YSR会議派),ビジュー・ジャナター・ダル(BJD),BJP,シッキム革命戦線が勝利。
27日シッキム革命戦線のP・S・タマン,シッキム州首相に就任。
29日BJDのナヴィーン・パトナイク,オディシャ州首相に就任。
29日BJPのペマ・カンドゥ,ArP州首相に就任。
30日モディ政権発足。大臣57人就任。
30日YSR会議派のY・S・ジャーガン・モーハン・レッディー,AP州首相に就任。
31日保留していた労働力サーベイ(PLFS)を政府は変更を加えずそのまま公表。2017/18年度の失業率は6.1%。
   6月
1日アメリカ,インドに対する一般特恵関税制度の適用を6月5日に終了することを決定。自動車部品,化学薬品,食器などに最大7%の関税。
3日タミル・ナードゥ(TN)州,連邦政府の国家教育政策草案でヒンディー語の義務化に反対。ほかの非ヒンディー語州も反発。
6日RBI,レポ・レートを6.0%から5.75%へ引き下げ,金融政策のスタンスを「中立」から「緩和」へ変更。
7日RBI,最高裁に4月に無効とされた不良債権処理スキームに代わるルールを公表。不良債権の認定基準を緩和。
16日延期され続けてきたアメリカに対する報復関税を実施。対象は28品目。
26日インド,2021~2022年の2年間,国連安全保障理事会の非常任理事国に選出。パキスタンと中国も動議を支持。
27日モディ首相,G20で大阪訪問中に安倍首相と会談。
28日JK州の大統領統治,6カ月延長。
   7月
3日ラーフール・ガンディー会議派総裁辞任。
4日アメリカはインドによる報復関税28品目について,WTOに協議を申請。
5日第2次モディ政権,2019/20年度連邦予算を発表。財政規律を重視,財政支出は抑制気味。保険仲介業など外資規制緩和。大きな変更は,インフラのための海外での外貨による政府借入を予定。
6日カルナータカ州のジャナター・ダル(世俗主義)(JD[S])と会議派の連立政権与党所属の議員12人が辞表を提出。これを受けて内閣は8日に辞表を提出。
12日オーストラリア,インドによる糖業保護関税につき正式にパネルを設置するようWTOに申請。
19日外貨準備が過去最高の4300億ドルに。安定したルピー,原油の低価格が背景に。
22日月面探索ロケット,チャンドラヤーン2号打ち上げ成功。
23日カルナータカ州のJD(S)・会議派連立政権,州議会の信任投票で敗れて退陣。
26日カルナータカ州でBJPのB・S・イェデュラッパ,州首相に就任。29日に州議会で信任投票を乗り切る。
30日RBI,対外商業借入(ECB)の規制を緩和。
   8 月
1日ムスリム女性(結婚における権利の保護)法成立。2018年9月19日に遡って有効。
2日政府,JK州でテロリストの脅威を理由として観光客およびアマルナート巡礼者に州外に出るように指示。4日から5日にかけて政党有力者などを拘束し,通信遮断。
5日アミット・シャー内務大臣,JK州に連邦のすべての法が適用となる大統領令発表。憲法370条の無効化,同35A条の廃止によりJK州の特別な自治権を無効化。同時にJK州をJKとラダックの2つの連邦直轄領に分割するJK州再編成法案を提出。同法案は5日に上院,6日に下院を通過し9日成立。
6日パキスタンのイムラン・ハーン首相,JK州の特別な自治権を剥奪するインドの決定を非難。中国はインドの決定を批判すると同時にパキスタンに自制を求める。
7日RBIはレポ・レートを5.75%から5.40%へ引き下げ。
8日金の価格,10グラム3万8470ルピーの過去最高値。米中貿易摩擦などを背景に安全資産志向。
10日ソニア・ガンディーが会議派の暫定総裁に就任。
17日国連安全保障理事会,カシミール問題でインドとパキスタンに自制要求。
18日インド保有のアメリカ国債が6月末時点で1627億ドルに。過去1年では最高額(日本が1位で1.1兆ドル,中国もほぼ同額。インドは13位)。
22日G7首脳会議に関連してフランス訪問中のモディ首相,マクロン大統領と会談。JK州の特別自治を剥奪した決定に第3者の介入の余地はないことを説明。インドが購入したラファール戦闘機が翌月から順次到着することを確認。26日にトランプ米大統領と会談,カシミール問題でアメリカの仲介を拒否。
23日財務省,7億ルピーを公共部門銀行,2億ルピーを住宅金融機関部門に注入。
26日RBI,1.76兆ルピーの余剰金を政府に納入することを決定。
31日アッサム州で国民市民登録(NRC)最終版の発表。約191万人が登録から漏れることが判明。
   9月
4日RBI,10月1日から銀行のローンの利子率と政策金利のリンクを義務付けることを決定。
7日インドのチャンドラヤーン2号の月着陸機,着陸に失敗。
20日政府,法人税のカットを決定。国内企業は約35%から約25%に。
26日日本,インド,アメリカ海軍の海上合同訓練マラバール,日本近海で行われる(~10月4日)。
28日シッキム州首相タマンは2016年に贈賄で有罪判決を受け6年間立候補を禁止されていたが,選挙委員会は刑期を13カ月に短縮する決定。
  10月
4日ビハール州ムザッファルナガルで49人の著名人が増加するリンチについてモディ首相に公開質問状。扇動罪に問われる。
4日RBI,レポ・レートを5.40%から5.15%へ引き下げ。2019年に入って5度目の引き下げ。
5日バングラデシュ首相シェイク・ハシナ来訪。アッサム州のNRC,ロヒンギャ問題などについてモディ首相と会談。
11日中国の習近平国家主席来訪(~12日)。モディ首相との間で「非公式の首脳会談」。
11日インド自動車工業会(SIAM)によると,9月の乗用車販売も減少。11カ月連続の減少。
16日司法拘留中の元連邦財務大臣P・チダンバラン,税務調査局により逮捕。
24日マハーラーシュトラ州議会選挙開票。BJP後退,ナショナリスト会議派党(NCP)が議席拡大。
24日ハリヤーナー州議会選挙開票,BJP過半数に届かず。27日にBJPのM・L・カッタルが州首相,ジャンナーヤク人民党(JJP)のドゥシヤント・チョウタラが副首相に就任。
24日最高裁,通信ライセンス料金の算定基準に通信以外の関連事業収入も含めるとする政府の主張を認める。通信各社は総計1.3兆ルピーの支払い義務が生じる。
29日インド携帯電話事業者協会(COAI)や通信各社,最高裁の判決を受け,2020年4月から2年間の猶予を政府に要請。
31日JK州がJKとラダックに正式に分割されおのおの連邦直轄領に。
  11月
1日メルケル独首相来訪。カシミールの人々に対する懸念を表明。
4日バンコクでの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)首脳会合でモディ首相,交渉からの離脱を表明。
6日SENSEX,再び最高値を更新。40468.78。
9日ウッタル・プラデーシュ(UP)州のアヨーディヤー土地所有訴訟に対して最高裁判所の判決。ラーマ神の寺院建立のために設立された信託団体が1992年に破壊されたモスク跡地2.77エーカーを管理する代わりにスリムには5エーカーの代替地が与えられる。
10日マハーラーシュトラ州でBJP,組閣に失敗,知事はシヴ・セーナーに組閣を打診。12日大統領統治下に(~23日)。
17日スリランカの新大統領ゴタバヤ・ラージャパクサ,デリー来訪。
24日中央政府,アッサム州の反政府グループ,ボードーランド国民民主戦線の禁止を5年間延長。
28日マハーラーシュトラ州でNCPと会議派の支持を受けてシヴ・セーナー総裁ウッダヴ・ターカレーが新州首相に就任。
  12月
3日連邦直轄領ダマン・ディウとダドラ・ナガル・ハヴェリを合併する法案,国会通過,大統領の裁可を受けて9日に公布。
4日モディ内閣,市民権改正法案を提出。
5日RBIは政策金利を5.15%に据え置き。スタンスは「緩和」を維持。インフレ率が高まっていることが背景に。
6日テーランガーナ州で女性獣医をレイプした4人の容疑者,警察に射殺される。
12日市民権改正法案,大統領の裁可得て成立。各地で反対運動激化。バングラデシュの外務大臣と内務大臣,インド訪問取りやめ。
12日連邦議会,指定カースト・指定部族のための留保制度の10年延長,アングロ・インディアン2人を連邦下院に指名する制度をやめる憲法改正を可決。
12日11月の食糧価格インフレが10%を超える。2013年12月以来。消費者物価指数(CPI)上昇率は5.54%で,40カ月で最高率。
20日政府は特別経済区(SEZ)設立の土地要件を緩和。最低面積を500haから50haに。
21日UP州で市民権改正法反対運動激化。16人死亡。各地で反対運動拡大。
23日ジャールカンド州議会選挙開票。ジャールカンド解放戦線(JMM),会議派,民族ジャナター・ダル(RJD)連合が快勝。BJP敗北。
27日RBI,金融安定性リポートを公表。不良債権率は2019年9月に9.3%,2020年9月には9.9%と予測。また銀行の信用の伸びは2019年9月には8.7%で,3月の13.2%から後退。
29日ジャールカンド州でJMMのヘマント・ソーレーンがJMM,会議派,RJDの連立政権の州首相に就任。

参考資料 インド 2019年
①  国家機構図(2019年12月末現在)
②  連邦政府主要人名簿(2019年12月末現在)
②  連邦政府主要人名簿(2019年12月末現在)(続き)
③  国民民主連合閣僚名簿(2019年12月末現在)
③  国民民主連合閣僚名簿(2019年12月末現在)(続き)

(注)カッコ内政党名略号。BJP:インド人民党,SAD:アカリー・ダル,LJP:人民の力党,RPI(A):インド共和党(アトヴァレ派)。

(出所)政府発表の閣僚名簿 https://www.india.gov.in/my-government/whos-who/council-ministers)およびその他各省庁のウェブサイトなどから筆者作成。

主要統計 インド 2019年
1  基礎統計

(注)1)暦年。2)年度平均値。2019/20は4~12月の平均値。 3)2次予測値。4)4~12月の平均に対する値。なお12月は暫定値。

(出所)人口はMinistry of Statistics and Programme Implementation(MOSPI), National Accounts Statistics 2019,およびPress Note on Second Advance Estimates of National Income 2019-20,出生率はMinistry of Finance, Economic Survey 2016-17, 2017-18, 2019-20,食糧穀物生産はMinistry of Agriculture and Farmers Welfare, Second Advance Estimate of Production of Foodgrain for 2018-19,消費者物価上昇率はMinistry of Finance, Economic Survey 2019-20,為替はRBIのウェブサイト・データより作成。

2  生産・物価指数

(注)1)産業労働者についての総合指数。 2)都市部と農村部の統合指数。 3)4~11月。11月は暫定値。 4)暫定値。 5)4~12月。11,12月は暫定値。 6)4~11月。 7)4~12月。12月は暫定値。

(出所)鉱工業生産指数はMinistry of Finance, Economic Survey 2019-20 およびMOSPI, Press Note on Quick Estimates of Index of Industrial Production and Usebased Index for the Month of November, 2019,農業生産指数,卸売物価指数,消費者物価指数(産業労働者),消費者物価指数(総合指数)はMinistry of Finance, Economic Survey 2019-20 より作成。

3  支出別国民総所得(名目価格)

(注)1)3次改定値。 2)2次改定値。 3)1次改定値。 4)2次予測値。

(出所)MOSPI, National Accounts Statistics 2019, Press Note on First Revised Estimates of National Income, Consumption Expenditure, Saving and Capital Formation for 2018-19,およびPress Note on Second Advance Estimates of National Income 2019-20 より作成。

4  産業別国内総生産(実質:2011/12年度価格)5)

(注)1)3次改定値。 2)2次改定値。 3)1次改定値。 4)2次予測値。 5)基本価格表示の粗付加価値(GVA)。

(出所)MOSPI, National Accounts Statistics 2019, Press Note on First Revised Estimates of National Income,Consumption Expenditure, Saving and Capital Formation for 2018-19,およびPress Note on Second Advance Estimates of National Income 2019-20より作成。

5  国際収支

(注)1)暫定値。 2)4~9月の予測値。

(出所)RBI, Handbook of Statistics on Indian Economy 2018-19,およびRBI, Press Release(Development of India's Balance of Payments during the Second Quarter of 2019-20, 31/Dec/2019)より作成。

6  国・地域別貿易

(注)1)アイスランド,ノルウェー,スイス,リヒテンシュタイン。 2)非特定地域(unspecified region)を含む。 3)暫定値。

(出所)Ministry of Commerce and Industryのウェブサイト・データより作成。

7  中央政府財政

(出所)Ministry of Finance, Union Budget 2018-19, 2019-20,および2020-21より作成。

 
© 2020 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
feedback
Top