Yearbook of Asian Affairs
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2022 Volume 2022 Pages 315-340

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2021年のマレーシア

概 況

2021年のマレーシアは,前年に続き,新型コロナウイルス感染症の蔓延と政局の流動化という先の見えない事態に見舞われた。8月には,マレーシア統一プリブミ党(Bersatu)のムヒディン・ヤシンから統一マレー人国民組織(UMNO)のイスマイル・サブリ・ヤーコブへ首相が交代した。これは,多数派を形成する勢力の不在という現在のマレーシア政治の不安定さを露呈した出来事であった。連立政権を構成する政党の顔ぶれに変化はなかったものの,BersatuとUMNOの対立は依然続いている。他方,与野党間の争いは一旦落ち着いた。イスマイル・サブリ新政権発足時に,政府が政治改革に取り組むのと引き換えに野党は重要法案の成立を妨げないという合意が政府と野党連合・希望連盟(Pakatan Harapan: PH)間で成立したためである。

経済面では,2009年の世界金融危機以来のマイナス成長となった前年からは持ち直し,実質国内総生産(GDP)成長率は3.1%となった。とはいえ,移動制限令(Movement Control Order: MCO)を実施した影響から,第1,第3四半期はマイナス成長を記録し,年頭の予測を下回る結果となった。また,今後5年を見据えた第12次マレーシア計画が発表された。政権や首相の交代を繰り返しつつも,開発政策では経済成長と格差の是正を両輪とする方向性が変化していないことが示された。

対外関係では,南シナ海問題をめぐって外務省が駐マレーシア中国大使を召喚し抗議する事態が2度起こった。新型コロナの蔓延に終わりがみえない一方,近隣国とは「ワクチン接種済みトラベルレーン」(VTL)を開設するなど往来の再開を模索している。

国内政治

全土への非常事態宣言の発出

2020年の希望連盟(PH)から国民同盟(Perikatan Nasional: PN)への政権交代(『アジア動向年報2021』参照)から引き続き,2021年も不安定な政局が続いた。そうした状況が生じている原因は,議会における多数派の不在にある。憲法では,連邦議会下院の過半数を占める勢力であることが政権の成立要件として記されている。現状,この過半数を安定的に維持できる政党や連合が存在していない。

図1は,現在の主要政党間の関係を示している。この構図は2020年の政権交代以降保たれているが,連立与党と野党勢力の双方でたびたび内部対立が生じている。とりわけ,連立与党内では,マレー人/ムスリム政党3党(UMNO,Bersatu,汎マレーシア・イスラーム党[PAS])が乱立,拮抗しており,安定した関係を築けていない。2021年の首相交代には,PN内のBersatuとUMNOの対立が強く影響した。首相交代後も,3党の関係は依然として流動的である。

図1 2021年の主な政党間の関係

(出所)筆者作成。

(注)実線は結社登録局に登録された政党連合,点線は未登録の政党連合。カッコ内数字は2022年1月時点での下院議員数(マレーシア連邦議会ウェブサイト)。

新型コロナの感染状況は2020年後半から全国的に再度悪化しており,2021年に入っても感染拡大は止まらなかった。そこで,ムヒディン首相は蔓延抑制のための積極的な措置として,全土への非常事態宣言の発令を国王に求めた。しかし,宣言発令の背景には,政権の不安定化を食い止める意図があったとみられる。というのも,年初から,UMNO内でムヒディン政権への支持を撤回しようとする動きが表面化していたのである。UMNO最高評議会は,次期総選挙へ向けてBersatuとの関係を断絶するか,その最終決定を1月末の党総会で下すと発表した。ムヒディン首相率いるBersatuはUMNOからの離脱者が結成した党であり,2018年総選挙ではUMNOと各小選挙区で直接対決していた。そのため,2020年からはPN政権下で再び同じ旗の下に合流したものの,次期総選挙で候補者を一本化するよう調整できるのかが両党間で長らく懸案となっていた。さらに,UMNO所属の下院議員数人がPN政権を支持しないと表明したため,すでに与党勢力は下院過半数を維持していないとみられた。

ムヒディン首相が非常事態宣言の発令を国王に求めるのは初めてではない。前年10月に野党である人民公正党(PKR)のアンワルが,ザヒド総裁やナジブ元首相などのUMNO幹部らの協力を得て,与党PNの下院過半数を打ち崩そうと多数派工作を試みた際にも,同様の要請をしていた(『アジア動向年報2021』参照)。このとき,国王は首相の提言を却下した。しかし,前年10月末時点では約800人台だった1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が,2021年1月初めには2000人以上と感染拡大が数段悪化していたため,今回受け入れるに至った。そして1月12日に,マレーシア全土への非常事態宣言が発令された。

非常事態宣言は,マレーシアの政治および社会に対して大きなインパクトを与えるものである。一部の州や地域のみならず,全土を対象とする非常事態宣言の発令は,1969年総選挙後に発生し,200人近くの死者を出した人種暴動時以来であった。宣言の発令中は連邦および州議会が停止されるため,政府は国王の勅令というかたちで法律を施行できる。また選挙の実施も延期される。1969年の発令時には,約2年間議会が招集されなかった。

非常事態宣言発令に先駆けて,1月11日にムヒディン首相は8州・地域に活動制限令(MCO)を課すと発表した。2020年3月から約2カ月間,MCOにより市民生活や経済活動が大幅に制限されて以降,段階的にその制限は緩和されてきていたが,再施行となった。ただし,主要インフラサービス以外のすべての政府機関や民間企業が閉鎖を命じられた前回施行時と比べれば,今回は緩やかな運用が行われた。「必要不可欠な経済セクター」として,製造業,建設業,スーパーマーケットや金融,医療などのサービス,貿易,流通,農林水産業およびプランテーション関連が指定され,操業を許可された。

この活動制限によって,2月初旬以降,感染者数は一旦減少傾向となったものの,4月以降再び増加し,5月頃には1日当たり約4000~5000人という2月のピーク時の水準を超えた。5月12日より,全経済部門の操業が許可されるなかで3回目のMCOが実施されたが,増加は止まらなかった。そこで,同28日,政府は6月1日から全国的に「完全なロックダウン(都市封鎖)」を実施することを決定し,再び「必要不可欠な経済セクター」以外の経済活動の制限を含めた措置に踏み切った。これにより6月中は緩やかに感染者数が減少したものの,7月以降感染は急拡大し,8月末には1日当たり約2万人にまで増加した。

こうした感染拡大状況の収束に効果を持ったのが,ワクチン接種であった。2月下旬より,政府は全国的なワクチン接種プログラムを開始した。接種は,(1)医療従事者と必要不可欠なインフラサービスに従事する者,(2)障がい者・高齢者・基礎疾患を持つ成人,(3)18歳以上の成人の3段階に分けて実施され,マレーシア市民に加えて国内に居住する外国人も対象となった。4月から第2段階,6月から第3段階が開始され,8月末頃までに人口の60%以上が1回以上接種し,45%以上の人々が2回接種を終えた。前述のロックダウンは,6月15日にコロナ禍からの出口戦略として発表された「国家回復計画」に基づき,新規感染者数,集中治療室病床使用率,ワクチン接種2回完了人口の割合を指標として,7月から10月にかけて州ごとに順次解除された。

ムヒディン首相の辞任

このようにマレーシアの新型コロナの感染拡大は,2021年9月頃まで深刻な状況が続いた。非常事態宣言の期限とされた8月1日に近づいても,新規感染者数の増加傾向は収まらず,1月当初の数倍に感染が拡大していた。こうした状況は,与野党や社会が政権批判を強める原因となったが,それ以上に政権を追い詰めたのは,憲法や議会を重んじるアブドゥラ国王であった。非常事態宣言の解除やその後招集された議会での展開に,国王の動きや発言は幾度も影響を与えた。

6月に入ると,議会の再開および非常事態宣言の解除に関して,与党内や野党だけでなく,国王も政権へ圧力を加えるようになった。国王は与野党各党の党首を順に招集して意見聴取を行い,各州スルタンとの統治者会議も踏まえ,議会はできるだけ早く開会されるべきであり,非常事態の延長は不要であるという声明を6月16日に発表した。首相や政権幹部は当初,非常事態宣言を延長する意向だった。国王声明前日の会見で首相は,1日当たりの新規感染者数が2000人を下回れば,9月か10月に議会を再開できるという見解を述べていた。その後,議会招集に向けた政権の動きがみられないことを受け,国王はさらに上下院の議長および副議長と面談し,早期に議会を再開すべきだと畳みかけた。国王の意向を無視できなくなったムヒディン首相は,予定どおり非常事態宣言を8月1日で解除し,7月末に連邦議会を招集するという決断に至った。

ムヒディン政権存続の分岐点となったのは,非常事態宣言下での勅令の取り扱いに関する失策であった。7月26日から再開した下院での審議において,タキユディン首相府相(法務担当)は,議会招集前の21日に政府がすべての非常事態勅令を廃止したと答弁した。しかし,本来,国王は勅令の取り扱いを議会での審議に付すことを望んでいた。国王はタキユディンの発言後に声明を出し,そこで明らかにしたのは,勅令の廃止は議会で審議すると,議会開会前の24日の会談でタキユディンらと国王で合意していたということであった。答弁のとおり,すでに21日時点で廃止済みであったならば,政権幹部は24日の会談で国王を欺いていたことを意味する。国王は上述の声明で,「深く失望した」と異例の表現を用いて,初めてムヒディン政権に対する批判を明確に示した。ムヒディン政権は,すでに下院過半数割れの可能性があったため,勅令廃止に関する投票が,実質的に信任投票として対抗勢力に利用されるのを避けたかったとみられる。

非常事態勅令の廃止は官報上で記載されていなかったため,与野党からはその真偽に疑問の声が上がっていたうえ,さらに国王に対する一連の対応が明らかになると,政府への批判は過熱した。そこで,政府は議会内の職員や関係者に新型コロナ感染者が多発したため,8月2日の下院日程最終日を休会,延期とすると発表した。野党議員は憤り,PHの政治家やマハティールなどが揃って議会外で抗議集会を開催し,さらに与党UMNOでは下院議員計14人が政権への支持撤回を表明した。国王が再三ムヒディン首相に議会での信任投票の早期実施を要求した結果,首相は過半数割れをようやく認め,テレビ演説を通じて政治制度改革を条件に野党へ共闘を求めた。しかし,野党は協力を拒み,打つ手立てがなくなったムヒディン首相は8月16日,辞任を表明するに至った。

イスマイル・サブリ新政権の成立と継続するUMNOとBersatuの不和

新たに首相に就任したのは,UMNOのイスマイル・サブリである。新政権の成立によって,ムヒディン政権期のような情勢の不透明さは改善されたものの,UMNOとBersatuの対立は解消されていない。なぜなら,イスマイル・サブリ首相個人は,Bersatuへの妥協や共闘に党全体を導くほどの力をUMNO内で現状持っていないためである。イスマイル・サブリはムヒディン政権下で国防相兼上級大臣,7月からは副首相を務めており,ザヒド総裁らUMNO幹部からの政権批判のなかでも,大半のUMNO所属閣僚と同様に政権を支持し続けた。新政権では,構成政党や閣僚の顔ぶれ,さらに政策もムヒディン前政権から大きく変わらず踏襲されている。他方,UMNO内は新首相候補擁立にあたってイスマイル・サブリでまとまったものの,彼自身は党ナンバー3である副総裁補にすぎない。

UMNOとBersatuの対立が再び表面化したのが,11月のマラッカ州議会選挙であった。マラッカ州では,2020年3月にPH州政権が崩壊し,連邦レベルと同じくUMNOとBersatuの共闘に基づき,国民戦線(Barisan Nasional: BN)率いる連立政権へ交代していた。しかし,今回,前マラッカ州首相を中心とするUMNO所属の州議会議員間での権力闘争から州政権が崩壊し,解散総選挙となった。国政および党内の勢力の多元化は,地方レベルでの闘争を惹起していると考えられる。

この州議会選挙において,UMNO率いるBNとBersatu率いるPNは各選挙区での候補者の一本化に至らなかった。両陣営は,連邦レベルでは同じ与党に属しながらも,全28選挙区にそれぞれ候補者を擁立し,直接対決することになったのである。結果は,表1に示したとおりBNの圧倒的な勝利に終わった。BNは,UMNO18議席を含め21議席を確保し,PNはBersatuの2議席を維持,PHは5議席と大幅に減らした。元々,選挙前の時点でBN/UMNOが12議席を有しており,今回PHが失ったほとんどの議席をBNが獲得したため,州政権を担っていたBNの地滑り的勝利といえる。Bersatuは,PHの一員として6選挙区に候補者を立てた前回2018年の選挙とは異なり,今回はPASとマレーシア人民運動党(Gerakan)の協力のもと15選挙区で候補者を擁立したが,2議席の現状維持に留まった。

さらに,この選挙を通じて明らかになったのは,UMNOとPASによるイスラーム政党連合・国民合意(Muafakat Nasional: MN)は現状形骸化しているということである。PAS幹部陣はUMNOとBersatu,3党での協力が重要だとたびたび言及してきた一方で,UMNOのザヒド総裁は,マラッカ州議会解散後早々に,UMNOはBersatuと選挙協力を行わないと明言した。さらに,UMNOはPASに対しては協力を呼び掛け交渉を続けていたが,その際,選挙キャンペーンにおいてPASがPNではなくPAS自身の党旗を用いること,すなわちPN/Bersatuとの協力関係断絶を自らとの協力の条件とした。PASはこれを拒み,Bersatu率いるPNへの協力を優先したかたちとなった。UMNOからの批判が集中したムヒディン政権期中もPASは政権を支え続け,連立政権の重要な守護者となっており,マラッカ州議会選挙後もPASとBersatuの協力は続いている。

与党内の関係が流動的であった一方,イスマイル・サブリ新政権下の与野党間関係は,ムヒディン政権期と比して安定した状況にある。とくに,9月に政府と野党連合PHとの間で「変革と政治的安定に関する覚書」が結ばれた結果,与党の一部と協力し,政権の下院過半数を打ち崩そうとするような多数派工作の動きは取られなくなった。上の覚書では,政府による政治改革への取り組みと引き換えに,PHが政府の予算案の採決を妨害しないことが合意されている。政府側の取り組み事項には,議会特別委員会メンバーを与野党同数とするなどの議会改革,党籍変更禁止法の制定や首相任期を10年に制限する憲法改正,新型コロナ対策の強化などが具体的に含まれた。また,2022年7月31日まで議会を解散しないことにも政府は合意している。他方,PHは,2022年度予算関連法案の起草段階で政府がPHとの交渉の場を用意するかぎり,法案の採決において支持ないし棄権することを承諾した。

PHの政治家たちは,この覚書が,現政権の存立を支持し保証する,いわゆる少数与党下での閣外協力(Confidence and Supply Agreement)ではないこと,引き続き野党としてチェックアンドバランスの役割を担うことを強調した。とはいえ,実際,政治状況の安定には寄与している。10月末から行われた2022年度予算案の審議は,与野党間での多数派工作が続いた前年の審議と比べ,円滑に議論と採決が行われ,可決された。また,政府の取り組み内容に含まれていた,サバ州とサラワク州の地位に関する憲法改正案も12月末に可決された。

ただし,この覚書はあくまで政府と野党連合PHに属する4党,すなわちPKR,民主行動党(DAP),国家信託党(Amanah),統一進歩キナバル組織(UPKO)の間で結ばれており,他の野党は参加していない。締結段階でPHに招待を受けたサバ伝統党は,内容の交渉に参加する機会がPH以外の野党に開かれなかったことを批判した。また祖国戦士党(Pejuang)のマハティール会長もこの覚書は「賄賂だ」と述べ,野党勢力の足並みは揃っていない。さらにPH内でも,12月のサラワク州議会選挙(表1)において,連合の統一旗ではなく各党独自の党旗を使用するなど,政権再奪還の可能性が遠のくにつれて連携に綻びがみられるようになっている。

表1 2021年に実施された州議会選挙の結果

(注)1)解散前時点で2議席が空席。

(出所)Star Online, Malaysiakini,マレーシア選挙管理委員会ウェブサイト。

経 済

新型コロナの影響からはいまだ脱せられず

年初に6.0~7.5%(中央銀行推計)と予測されていた2021年の実質GDP成長率は,予想を下回る3.1%に留まった。前年の-5.6%よりは回復したものの,1月半ば以降と6月以降のMCO/ロックダウンによる2度の経済活動の制限が影響した。各四半期(前年同期比)では,第1四半期の-0.5%から第2四半期は16.1%と回復した。この回復は内需や輸出の改善に支えられているが,前年同期のGDPが史上最大の下落率であったことも背景にある。第3四半期はMCOの影響で-4.5%に再び落ち込んだものの,行動制限が緩和された第4四半期は3.6%に回復した。

需要項目別でみると,経済成長の源泉である民間消費支出は,やはりMCO下での移動制限に大きく影響を受けた。前年同期比で第1四半期には1.5%減,第2四半期は11.7%増,第3四半期4.2%減,第4四半期3.7%増で推移した。前年のMCOと比べ企業の操業制限が緩和されたため,総じて改善したものの,第1および第3四半期は,移動制限やそれに伴う所得や雇用状況の悪化により,家計支出が圧迫された。対して,第2四半期では,前半の4~5月の移動制限がそれほど厳格ではなかったために,家計支出の拡大につながった。同様に,第3四半期は移動制限の強化が,第4四半期は緩和が如実に影響した。

政府消費は,第1四半期から5.9%増,9.0%増,8.1%増,4.3%増と,新型コロナワクチンの調達や輸送などの支出にも支えられ,前年同様緩やかに拡大した。

粗固定資本形成は,第2四半期に一時的に改善し拡大したものの,その他の時期では縮小傾向であった。民間投資は輸出企業を中心に設備投資に改善の兆しがみえ,通年で前年比2.6%増となった。政府投資は通年で11.4%減であったが,第2四半期では12四半期連続の縮小から18.6%増に一旦拡大に転じた。財・サービス貿易では,輸出および輸入は通年でそれぞれ15.9%増,18.5%増となり,内外の需要は新型コロナによる前年の縮小から回復がみられた。相対的には輸入の拡大が輸出を上回り,純輸出では5.8%減となった。

産業別では,通年で製造業(9.5%増),サービス業(1.9%増),鉱業(0.7%増)が拡大し,建設業(5.2%減)と農業(0.2%減)が減少した。サービス業では,小売業など消費関連産業が移動制限の緩和時期に回復し,また情報通信業では電子商取引や電子決済の需要が拡大した。製造業では従来に引き続き,輸出向けの電子電機部品・製品産業が成長に寄与した。両産業が今後の景気回復を支えるとみられる。

通関ベースの輸出入額では,輸出が1兆2398億200万リンギと前年比26%増,輸入が9872億4400万リンギと前年比23.3%増となり,ともにマイナス成長となった前年に比べ大きく拡大した。貿易収支は前年比37.7%増で2525億5700万リンギとなり,過去最高額の貿易黒字となった。消費者物価指数(CPI)の変化率は,第1四半期から順に0.5%,4.1%,2.2%,3.2%と推移した。原油高の影響によってガソリン価格が高騰したことなどにより,プラスが続いた。第3四半期にCPIを下押ししたのは,新型コロナ対応の景気刺激策による電気料金の割引である。この施策は前年3月から12月まで実施された後一旦終了したが,2021年7月から3カ月間再実施されていた。マレーシアリンギの為替レートについては,2021年を通じて,1ドル4.0~4.2リンギの間で安定的に推移した。

マレーシアは,マハティール(BN)政権下の1991年に策定された30年間の長期開発構想「ビジョン2020」に基づき,2020年までに先進国となることを目標としていた。さらに,2010年にナジブ政権下で,2020年までに「高所得国」(1人当たり国民総所得[GNI]を用いた世界銀行による分類)となることが再び目標とされた。この目標は,2016~2020年を対象とした5カ年開発計画「第11次マレーシア計画」の中間報告(2018年)において達成困難だと言及されており,実際に2020年には高所得国入りを達成できなかった。その結果,後述する第12次マレーシア計画においても,高所得国入りが目標として再度掲げられることとなった。世界銀行は,高所得国入りが遅れている理由として,中所得者層の所得向上を見込める雇用機会の不足があると指摘し,そして長期的な経済発展には改革を行い,製造業を中心に高技能/知識集約的で,かつ輸出を拡大させる産業の競争性向上が不可欠だと分析している。また世界銀行によると,マレーシアは早ければ2024年に高所得国入りを達成するが,新型コロナの流行による経済への悪影響が長引く場合,その実現が2028年まで持ち越されることもあるという。

第12次マレーシア計画の発表

9月末,政府は2021年から2025年の5年間における開発計画「第12次マレーシア計画」を発表した。この開発計画は,2019年にPH政権下で発表された2030年までの10年を射程とする長期開発計画「繁栄の共有ビジョン」の下に策定され,その前半期を担うものである。第12次マレーシア計画では,「繁栄し,包摂的で,持続可能なマレーシア」(a Prosperous, Inclusive, Sustainable Malaysia)という3つのキーワードを掲げ,それぞれに対応する「経済の再構築」「安全,幸福,包摂性の強化」「持続可能性の推進」という目標が定められた。経済成長に並び立つ目標として,包摂性,すなわち所得階層や地域間の格差の是正を強調する姿勢は,近年の各政権に共通している。とりわけ,所得階層下位40%世帯の所得向上が,2010年の第10次計画から目標に据えられてきた。また,第12次計画では,第11次計画よりも54%多い,約4000億リンギの開発予算が割り当てられる予定となっている。

今期のマクロ経済戦略としては,前期にも挙げられていた生産性の向上や経済成長をもたらす投資の促進,財政管理の強化に加え,経済成長を拡大するための産業構造の改革,地域的な発展格差の是正,労働分配率(GDPに占める雇用者報酬の割合)の向上,グローバル・バリュー・チェーンへの参加と活用,グリーン成長の推進という8つが挙げられた。

こうした戦略のもとで,社会経済指標に関する具体的な目標値が設定された。年平均GDP成長率,1人当たりGNI,労働生産性,労働分配率,平均世帯収入,統計局が算出する幸福度指数の6点であり,これらの目標は前期から引き継がれている。第11次マレーシア計画期の実績を振り返ると,達成できたのは労働生産性ひとつのみであり,その他は目標値の達成に至らなかった。年平均GDP成長率については,2016年から2019年までは平均4.9%であり,平時であれば目標値の4.5~5.5%(中間報告での修正目標値であり,計画当初は5~6%とされていた)を達成できる見込みであった。しかし,新型コロナ流行の影響により,2020年のGDP成長率がマイナスに落ち込み,期間全体で年平均2.7%となった。さらに,こうした景気の後退は雇用状況の悪化ももたらしたため,その他の目標にも悪影響を与えたと政府は分析している。

今期については,年平均GDP成長率は再び4.5~5.5%を目標に設定された。その結果,1人当たりGNIは第11次計画終了時点での4万2503リンギ(約1万111米ドル)から,第12次計画終了時点の2025年には5万7882リンギ(約1万4842米ドル)に至り,高所得国入りを果たすと見込んでいる(2021年現在の高所得国の分類基準は,1人当たりGNI[2020年]1万2696米ドル以上である)。マクロ経済指標に関しても,前期同様に民間/政府消費や投資,失業率,財政状況など12の目標値が設定された。具体的には,民間消費を年平均5.8%,総輸出を年平均5%拡大することや,失業率を4%に,財政赤字を対GDP比で3.5~3.0%にそれぞれ抑えることなどが挙げられている。

ただし,これらの目標は,あくまでコロナ禍による影響からの早期回復が前提にあるため,その達成には新型コロナの感染状況のコントロールとその経済への影響軽減が急務である。とはいえ前述のとおり,輸出向けの製造業が,国内需要向けのサービス業とともに成長をけん引しているため,目標達成は世界的な感染状況や経済環境にも大きく影響を受けるだろう。

対外関係

対立と接近が入り交じる中国との関係

中国とは,南シナ海海域の領有権をめぐって2021年も対立が生じた。その一方,2018年の政権交代後にPH政権が中止した大規模インフラ計画を復活させるなど,政府は争点に応じて,中国への対応を柔軟に変化させている。

南シナ海海域に関しては,以前よりボルネオ島沖で中国との衝突が幾度も発生している。2021年は大きな対立が2度生じた。まず,5月末に中国の軍用機16機がボルネオ島沖の領空に侵入を図り,マレーシア空軍は緊急発進を行った。次いで9月末には,中国の調査船が海警局の警備艇とともに同じくボルネオ島沖の排他的経済水域内に侵入し,国営石油会社ペトロナスの調査船に接近した。外務省はどちらの件についても駐マレーシア中国大使を召喚し,抗議した。政府は南シナ海問題に関して,外交交渉を通じて解決するという方針を維持しているが,中国政府との対立は続いている。

他方,経済面ではいくつかの変化があった。2020年にPH政権からPN政権に交代して以降,PH政権下で見直された大規模開発計画が徐々に再開されている。これらのインフラ計画には,主に中国企業が関与しており,中国との経済関係の再強化につながるとみられる。まず,クアラルンプールからマレー半島北東部を結ぶ東海岸鉄道(ECRL)については,中国国営企業である中国交通建設(CCCC)がBN政権期に着工しており,PH政権下で総距離の短縮およびルートの変更に伴う総工費の削減が行われていた。しかし,2021年4月にPN政権は首都周辺のルートをBN政権期の計画当初の案に戻し,総距離が再延長された。総工費は約60億リンギ上乗せされ,約500億リンギとなるという。また,PH政権下で中止が決定された2つのパイプライン建設計画のうち,サバ州のガスパイプライン計画(Trans-Sabah Gas Pipeline)を再開することが10月に明らかとなった。もう一方のマラッカ州からクダ州までを結ぶ石油パイプライン計画(Multi-Product Pipeline)についても現在交渉中であるという。いずれも中国の国営企業・中国石油天然気管道局(CPPB)が建設を請け負っている。

しかし,インフラ開発計画などにおいて,必ずしも中国企業が優遇されているわけではない。第5世代移動通信システム(5G)の国内ネットワーク体系の整備を担うパートナー企業として,マレーシア政府は7月,スウェーデンの通信機器大手エリクソンを選定したと発表した。安全保障上の懸念から中国の通信機器大手,華為技術(ファーウェイ)の関与を排除する国が多いなか,マレーシアはファーウェイの参入を歓迎してきた。5Gサービスの展開では,国内通信会社数社がファーウェイとの協力をすでに締結している。今回,ファーウェイも入札に参加しており最有力候補といわれていたが,エリクソンの計画は総額110億リンギで当初の予算の3割近く安いうえ,マレーシア国内の企業に基地局やケーブルのリースの大半を委託し,技術提供も行う点などが評価されたとみられる。

この選定は,マレーシアの国益に基づいて判断した結果と考えられる。2018年当時,PH政権で首相であったマハティールは,中国企業との事業の問題点は,雇用や調達などの面で国内に恩恵をもたらさないことだと述べていた。政権は交代したものの,上述の選定の経緯はマハティールのこの発言と整合しており,経済開発において政府は必ずしも中国との関係強化を優先している訳ではないといえるだろう。

ASEAN諸国との関係

2021年2月に起きたミャンマーのクーデタは,マレーシアとの関係にも影響した。マレーシアは,インドネシアなどASEAN各国とともに,首脳会談に軍事政権からの参加を認めないなどミャンマーに圧力をかけてきた。サイフディン外相は,ASEANは長年維持してきた内政不干渉政策を再考すべきだと10月に発言しており,ミャンマー情勢への積極的な関与を志向するインドネシアなどと同調している(ロイター,2021年10月21日)。

他方で,政府は2月末にミャンマー出身の不法滞在者約1200人を軍事政権となったミャンマーへ強制送還し,国内外から批判を浴びた。国際人権団体は,国連に登録された難民や難民希望者,軍事政権に弾圧されるロヒンギャや少数民族,子どもなどが送還者に含まれているとして異議申し立てを行い,クアラルンプール高等裁判所は司法審査が終了するまでの滞在延長を認めた。しかし,その決定の数時間後に政府は送還を実行した。政府は上記の人々は送還者に含まれていないと主張したが,国連難民高等弁務官事務所も政府の対応を非難した。

また,9月に発足したオーストラリア,イギリス,アメリカの三国間の新たな安全保障枠組み(AUKUS)は,マレーシアを含めたASEAN各国に動揺をもたらした。イスマイル・サブリ首相はAUKUS発足直後に行われたオーストラリアのモリソン首相との電話会談において,ASEAN地域や南シナ海海域での外部勢力同士の対立や挑発,軍拡競争を引き起こさないようすべての国に求めると伝えた。また,10月にサイフディン外相がインドネシアを訪問し,ルトノ外相と会談した際も,ともにAUKUSがASEAN地域への大国の関与を引き起こし,緊張をもたらしうると懸念を表明している。だがその一方で,9月末の連邦議会の審議においてAUKUSに関する政府の立場を尋ねられたヒシャムディン国防相が,中国政府の見解を確認する必要があると答弁し,野党から批判を浴びた。批判に対し国防相は,アメリカや中国といった超大国との良好な関係はマレーシアの中立性とは矛盾しないと反論した。先述のとおり,南シナ海問題に関しては国防上の明らかな脅威であるために中国との対立も辞さないものの,マレーシアは小国であるため,大国同士の対立に巻き込まれることや,必要以上に大国に接近したり対立したりすることを基本的に望んでいない。そうした小国としての外交戦略が一連の対応となって現れたといえる。

新型コロナウイルスに関連する諸外国との関係

マレーシア政府の新型コロナ情報ウェブサイト「COVIDNOW」によれば,政府が実施している新型コロナのワクチン接種プログラムでは,ファイザー・バイオエヌテック(米/独:58.6%),シノバック(中:32.5%),アストラゼネカ(英:8.5%),カンシノ(中:0.3%)製のワクチンが用いられた(2022年2月時点)。マレーシアは2021年12月までにアメリカ,日本,中国,イギリスの4カ国から合計約290万回分以上のワクチンの提供を受け,同月には,マレーシアからバングラデシュへ約56万回分,ラオスへ約29万回分のアストラゼネカ製ワクチンを提供した。

また,近隣のシンガポールおよびインドネシアとの間では,新型コロナの新規感染者数が減少傾向となった10月以降,ワクチン接種完了者を対象にビジネス目的などの往来を再開する取り組みが行われた。シンガポールとは,2回のワクチン接種を完了した人々を対象に,入国時にPCR検査を受けることを条件に隔離期間を免除し,両国間の往来を可能とする「ワクチン接種済みトラベルレーン」(VTL)を11月29日から開始した。それにより,クアラルンプール国際空港とシンガポールのチャンギ空港間の空路と,ジョホールバル=シンガポール間の陸路が開かれた。またインドネシアとも,10月の外相会談および11月の首脳会談において,VTLの開始に合意している。

2022年の課題

2021年後半からマレーシアの新型コロナの感染者数は減少傾向が続いていたが,2022年に入ってオミクロン変異株の流入により再び感染が拡大している。そうした最中,2021年のマラッカ州議会選挙でのBNの大勝が後押しとなり,ジョホール州議会でも,野党を1議席上回る勢力しか維持していないという理由で州首相が州議会の解散をスルタンに要請し,3月に選挙が実施されることになった。ジョホール州議会では,UMNO率いるBNとBersatu率いるPNの議席数が現状拮抗に近く,選挙結果は国政に影響を与える可能性がある。政府は,野党連合PHとの協定において,2022年7月末まで連邦議会下院を解散しないと約束しているが,その後の見通しはつかない。2023年7月の任期満了を待たずに,早期に解散総選挙となる可能性もある。

経済面では,新型コロナの感染防止対策と経済活動を両立させることが課題である。石油・資源価格の世界的な高騰は国内の物価を押し上げ,景気に悪影響を与える一方,ペトロナスの収益増加に寄与するため,政府財政は改善すると考えられる。

対外関係では,ミャンマー問題に関して,ブルネイから軍事政権寄りの姿勢をとるカンボジアにASEAN議長国が交代したことで,ASEAN全体の動きに変化があるのか,それに対しマレーシアがどのような姿勢をとっていくのかに注目する必要がある。また,新型コロナの感染状況に応じて,VTLの適用国を拡大していけるかは,観光業をはじめ経済の回復にも影響するため重要となる。

(地域研究センター)

重要日誌 マレーシア 2021年

1月
1日 ムヒディン首相とシンガポールのリー・シェンロン首相,クアラルンプール=シンガポール間の高速鉄道(HSR)計画に関して両国で合意に至らず,前年12月31日をもって計画を終了するとの共同声明を発表。
5日 BN幹事長のアヌアル・ムサ(UMNO)が解任。
6日 結社登録局(RoS)が,祖国戦士党(Pejuang)とマレーシア統一民主連合(MUDA)の政党登録申請を却下。
11日 首相は,新型コロナウイルス感染症の再拡大に伴い,13日から8州・地域で活動制限令(MCO)を施行すると発表。
12日 新型コロナ感染拡大の抑制を目的とする全土への非常事態宣言の発出に国王が同意。11日に首相が要請。期限は8月1日あるいは陽性者数が減少するまで。
15日 EUによるパーム油由来のバイオ燃料の使用制限措置に関し,政府は世界貿易機関(WTO)へ提訴。
18日 政府は,2度目の活動制限令実施にあたり新たな経済支援策「PERMAI」を発表。
2月
4日 首相,インドネシアを訪問(~5日)。ジョコ・ウィドド大統領と会談。ともにミャンマー情勢への懸念を表明。
9日 政府は,非常事態宣言の運用・解除などについて議論する独立特別委員会のメンバーを発表。アリフィン・ザカリア元最高裁判所長官を委員長に,元政府高官,専門家,与野党政治家ら19人で構成。
24日 政府は,新型コロナのワクチン接種プログラムを開始。第1段階で医療従事者など,第2段階で高リスクの個人,第3段階で18歳以上の成人を対象に実施される。
26日 感染症予防および管理法(1988年)が国王の承認に基づき改正(非常事態勅令)。罰金額の引き上げなど同法の違反を厳罰化。
3月
6日 首相,サウジアラビアとアラブ首長国連邦を訪問(~11日)。
11日 政府は,新型コロナウイルスや非常事態宣言に関する「フェイクニュース」を広めた場合,罰金または懲役,あるいはその両方を科すと定めた非常事態勅令第2号を制定。
16日 ゴム手袋メーカーのトップグローブが労働局の認定を受けていない滞在施設を労働者に提供していたとして起訴。
19日 北朝鮮がマレーシアとの国交断絶を表明。同月9日,最高裁判所が,アメリカでのマネー・ローンダリングなどの容疑があるマレーシア在住の北朝鮮国籍男性の身柄をアメリカへ引き渡すことを認める判決を出したことに起因。
29日 マレーシア政府は,HSR計画中止への補償として3億2027万リンギをシンガポール政府に支払ったと両国共同声明で発表。
31日 政府は,非常事態宣言下,連邦・州政府が当初予算を超えて支出をする場合に,下院・州議会の承認を経ず,財務省の承認で公債基金からの支出や補正予算の成立を可能とする臨時財政条項を非常事態勅令に追加。
4月
5日 内国歳入庁は所得税不払いによりナジブ元首相に破産宣告。同月30日には息子にも同様の通知。
21日 政府は,国家信託基金法の改正条項を非常事態勅令に追加。ワクチン購入資金を国家信託基金から賄うことが可能に。同内容の本法改正案は10月11日に下院で可決。
24日 ムヒディン首相,インドネシアを訪問。ヒシャムディン・フセイン外相とともに,ミャンマー問題を議論するASEAN特別首脳会議へ出席。
25日 UMNO最高評議会会合。公式声明で下院や各州議会の早期開会を要求。
26日 ザフルル・アジズ財相は,新型コロナウイルス対策のワクチン接種プログラムに,国家信託基金から50億リンギを充当すると発表。基金総額195億リンギの25.6%に相当。
28日 ラッジ・ジディン教育相は初等学校統一試験(UPSR)を2021年から完全に廃止すると発表。また,中等学校統一試験(PT3)は前年に引き続き今年も中止。
28日 政府は,インドからの旅行者の入国禁止を決定。翌月5日にはバングラデシュ,パキスタン,ネパール,スリランカにも拡大。
5月
5日 政府は,翌6日からスランゴール州一部地域,7日からジョホール,ペラ,トレンガヌ各州の一部地域とクアラルンプール全域に活動制限令(MCO)を発出。
5日 警察当局は,フェイクニュース防止に関する非常事態勅令に基づき,インドから到着した飛行機に関してフェイスブックに投稿した男性を逮捕したと発表。
6日 政府は,新型コロナの影響を受け,財政赤字に陥る州政府の支援のため,州準備基金への4億4000万リンギの配分を承認。
10日 政府は,マレーシア全域で同月12日からMCOを施行すると発表。全土へのMCOは3回目だが,過去2回とは異なり全経済部門の操業を許可。
16日 首相は,インドネシアのジョコ・ウィドド大統領,ブルネイのハサナル・ボルキア国王とともに,イスラエルによるパレスチナ自治区への攻撃を非難する共同声明を発表。
24日 クアラルンプールのLRTクラナジャヤ線KLCC駅=カンポンバル駅間で走行中の列車と無人の列車が正面衝突し,200人以上が負傷。26日,事故後の不適切発言等で非難を浴びた運営会社プラサラナのタジュディン会長を財務省が解任。
28日 政府は,6月1日より全面的な都市封鎖(ロックダウン)を実施すると発表。17の必要不可欠な業種を除くすべての社会経済活動を禁止。
31日 首相は,経済援助パッケージ「Pemerkasa Plus」を発表。総額約400億リンギ規模。「率直に言って,現在投入できる政府財政は限られている」と演説で発言。また,全閣僚が6月から3カ月,給与を新型コロナ関連支出を賄う災害信託基金に充当,返上すると発表。前年3月に続き2度目。
6月
1日 空軍は,ボルネオ島沖合の領空へ侵入を図った中国の軍用機16機に対し,緊急発進を行ったと発表。外務省は抗議のため中国大使を召喚。
9日 国王,新型コロナの状況と緊急事態宣言の解除に関して,与野党党首と順に宮殿で面会(~14日)。統治者会議を開催し,非常事態宣言は当初の予定である8月1日以降延長せず,議会はできるだけ早く召集されるべきという声明を発表(16日)。
15日 首相は新型コロナパンデミックからの出口戦略として「国家回復計画」を発表。4段階から成り,移行にあたっては新規感染者数,集中治療室病床使用率,ワクチン接種2回完了人口の割合から判断。
28日 首相は,経済援助パッケージ「PEMULIH」を発表。総額1500億リンギ規模。中・低所得者への現金配布など。
29日 国王,上下院議長および副議長と会談。議会の早期再開に再度言及。
29日 UMNO最高評議会は6月30日で任期満了となる最高評議会・支部・部門レベルでの役職選挙を18カ月延期すると発表。ザヒド総裁の任期も2022年12月まで延長。
30日 首相が入院。消化器系感染症と発表。
7月
1日 全国の5Gインフラ・ネットワーク展開を担う国営特別目的事業体のデジタル・ナショナルが,パートナー企業にスウェーデン通信機器大手のエリクソンを選定したと発表。
5日 政府は,7月26日から連邦議会を特別開会すると発表。下院を7月26~29日,8月2日,上院を8月3~8日で開会し,議員への国家回復計画の説明とハイブリッド型本会議実施のための法令改正を実施予定。
7日 首相は,イスマイル・サブリ・ヤーコブ国防相(上級大臣)を副首相に任命。ヒシャムディン外相が上級大臣へ昇格。
7日 UMNO最高評議会は,ムヒディン首相に対する党の支持を撤回すると発表。
7日 格安航空会社エアアジアは,インドネシアの配車・決済サービス会社ゴジェックからタイを拠点とする2事業を買収。
8日 Pejuangが結社登録局に正式に政党登録されたと,会長のマハティールが発表。
9日 政府は,国家回復計画の調整大臣にザフルル財相を任命。
14日 UMNO所属の全閣僚がムヒディン首相への支持を継続すると表明。
16日 控訴裁判所は,アドナン・マンソール元連邦領大臣の収賄容疑を無罪とし,起訴取下げを決定。
22日 MUDAのサイード・サディク元青年・スポーツ大臣が背任と不正流用の疑いで起訴。Bersatuから最高評議会の承認なしに小切手で100万リンギを引き出した容疑と前回総選挙時に集めた寄付金12万リンギを不正流用した容疑。
26日 連邦議会下院,特別会議を招集。昨年12月末以来の開会。
26日 全国の公立病院で有期雇用の医師らがストライキを実施。雇用の安定などを要求。
31日 連邦議会事務局は,職員や関係者の新型コロナ感染が相次いだことから,翌週8月2日の下院特別会議を延期すると発表。
8月
2日 野党議員100人以上が特別会議の延期に抗議し,独立広場から連邦議会へ行進。警察の連邦警備隊が議会への道路を封鎖。
3日 首相は,国王の提案に従い,9月の連邦議会で非常事態勅令の撤回を議論すると表明。
3日 UMNO所属の下院議員11人が政権不支持を発表。9日時点では14人に。またUMNO所属のエネルギー天然資源大臣(3日),高等教育大臣(6日)が辞任。
8日 新型コロナ予防接種完了者に対する行動制限の緩和策を発表。配偶者・子との面会のための州間移動などを全州で許可。
13日 首相がテレビ演説で,政治改革と引き換えに野党へ共闘を呼びかけ。
16日 ムヒディン首相が辞任を表明,内閣総辞職。国王は辞任を承諾し,次期首相が決まるまでの暫定首相にムヒディンを任命。
17日 UMNO最高評議会は,イスマイル・サブリ副総裁補を次期首相として支持することを全会一致で決定。
17日 国王は,主要政党の首脳を王宮に集め,上下院議長とともに会談。全下院議員に首相候補として誰を推挙するか書簡で提出するよう命じる。また,新首相には就任後早期に連邦議会で信任投票を実施せよと声明(18日)。
19日 新型コロナによる死者を弔うキャンドル集会を実施・参加し,パンデミック下での集会規制に違反したとして,活動家31人が逮捕。各人に2000リンギの罰金。
20日 国王は,UMNOのイスマイル・サブリ・ヤーコブを新首相に任命。
25日 首相と野党連合PH首脳陣が会談。
26日 サバ州の地域政党UPKOが野党連合PHに加入。以前はBN所属政党。
27日 首相,新内閣を発表。
9月
9日 国外で出生し,マレーシア人女性と外国人の配偶者を親に持つ子が,自動的に市民権を取得できる権利があることをクアラルンプール高等裁判所が認める評決。連邦憲法上,市民権の授与に関して親の性別に基づく差別は禁止されていると判断。
13日 連邦議会下院開会。
13日 政府と野党連合PHは「変革と政治的安定に関する覚書」に署名。政府による政治改革と引き換えに,野党は2022年度予算関連法案の成立を妨げないという協定。
25日 中国政府の調査船がボルネオ島沖のマレーシアの排他的経済水域内に侵入。
27日 第12次マレーシア計画発表。
10月
3日 国家回復計画でフェーズ2以上の各州,小中高校での対面授業が半年ぶりに再開。試験年度などの学生を中心に分散登校。
4日 国際調査報道ジャーナリスト連合が公開した「パンドラ文書」にダイム元財相,ザフルル財相,ザヒドUMNO総裁などの名前が掲載。
4日 外務省は駐マレーシア中国大使を召喚し,中国政府の船舶によるマレーシアの排他的経済水域への度重なる侵入を抗議。
5日 マラッカ州議会解散。与党議員4人がスレイマン州首相への支持を撤回し,BN-PN勢力が過半数を割ったため。
11日 全国の成人人口の90%が2回の新型コロナワクチン接種を終えたことを受け,接種済みの市民の州間および海外旅行を許可。
18日 控訴裁は,ナジブ元首相への旅券の一時的な返還を許可。シンガポールで出産予定の娘を訪問する目的。妻ロスマへも同様の措置(15日)。
25日 8月までの非常事態宣言下で施行されたすべての非常事態勅令の廃止が下院で承認。
29日 政府,2022年度予算案を発表。
11月
8日 首相,シンガポールのリー首相と電話会談。共同声明で,空路でのワクチン接種済みトラベルレーン(VTL)開始を発表。
8日 クアラルンプール高等裁判所は,政府に対し,ナジブ元首相やその家族から押収した資産を直ちに返還するよう命令。
9日 首相,インドネシアを訪問(~11日)。ジョコ・ウィドド大統領と会談。
20日 マラッカ州議会選挙投票日。BNとPNは選挙協力をせず,全28議席中21議席をBNが獲得。PHは5議席,PNは2議席。
29日 首相,シンガポールを訪問。リー首相と会談し,陸路でのVTL開始に立会い。またイスマイル・サブリ首相からリー首相へHSR計画の復活を提案。
12月
4日 農業・食品産業省は,今月から来年2月まで企業による冷凍鶏肉の輸入を許可したと発表。供給不足を補うための一時措置。
8日 控訴裁は,SRCインターナショナルをめぐる汚職や権力乱用など7件の罪で,ナジブ元首相に有罪判決を下した高裁判決を支持,控訴を棄却。ナジブは連邦裁へ上告。
8日 政府は,新型コロナ変異株(オミクロン)の世界的な感染拡大に伴い,入国規制を強化。
13日 2022年度予算案が下院で可決。
14日 ブリンケン米国務長官が来訪。サイフディン・アブドゥラ外相と会談後,首相とも面談。
14日 連邦憲法の改正案が下院で可決。憲法上のサバ州とサラワク州の地位に関する修正。
17日 半島部8州で豪雨が続き,洪水が発生。過去数十年で最大規模の深刻な被害。
18日 サラワク州議会選挙投票日。サラワク政党連合(GPS)が全82議席中75議席を獲得する地滑り的勝利。

参考資料 マレーシア 2021年

① 国家機構図(2021年12月末現在)

(注)*連邦元首,州元首に関わる訴訟を取り扱う。

② イスマイル・サブリ内閣名簿(2021年12月末現在)
② イスマイル・サブリ内閣名簿(2021年12月末現在)(続き)

(注) [ ]内は所属政党.略称は以下のとおり。

Bersatu(Parti Pribumi Bersatu Malaysia):マレーシア統一プリブミ党,DAP(Democratic Action Party):民主行動党,MCA(Malaysian Chinese Association):マレーシア華人協会,MIC(Malaysian Indian Congress):マレーシア・インド人会議,PAS(Parti Islam Se-Malaysia):汎マレーシア・イスラーム党,PBB(Parti Pesaka Bumiputra Bersatu):統一ブミプトラ伝統党,PBRS(Parti Bersatu Rakyat Sabah):サバ人民統一党,PBS(Parti Bersatu Sabah):サバ統一党,PKR(Parti Keadilan Rakyat):人民公正党,UMNO(United Malays National Organization):統一マレー人国民組織,PRS(Parti Rakyat Sarawak):サラワク人民党。1)上級大臣。

③ 州首相名簿

(注)②に同じ。

主要統計 マレーシア 2021年

1 基礎統計

(注)1)推計値。2)2021年第4四半期の値。3)年平均値。

(出所)人口:Department of Statistics Malaysia, Current Population Estimates, Malaysia, 2021。労働力人口,失業率,消費者物価上昇率,為替レート:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2022年1月号。

2 連邦政府財政

(注)1)修正推計値。2)+は資産の取り崩しを意味する。

(出所)2021年:Ministry of Finance, Fiscal Outlook and Federal Government Revenue Estimates 2022。2020年以前:Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics,2022年1月号。

3 支出別国民総所得(名目価格)

(出所)Bank Negara Malaysia, Monthly Highlights and Statistics, 2022年1月号。

4 産業別国内総生産(実質:2015年価格)

(注)1)購入者価格表示。

(出所)表3に同じ。

5 国際収支

(注)IMF国際収支マニュアル第6版に基づく。ただし,金融収支の符号については,(-)は資本流出,(+)は資本流入を意味する。1)特別引出権,IMFポジション,金および外貨。

(出所)表3に同じ。

6 国・地域別貿易

(注)1)EUという項目に含まれている国は,イギリス,ドイツ,オランダ,フランス,イタリア,ベルギー,ルクセンブルグ,デンマーク,アイルランド,ギリシャ,スペイン,ポルトガル,オーストリア,フィンランド,スウェーデン,その他(詳細なし)。

(出所)表3に同じ。

 
© 2022 Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization
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