Anthropological Science (Japanese Series)
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原著論文
縄文時代人骨における人為損傷の新報告と既存3例の再検討
平野 力也海部 陽介
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2024 年 132 巻 1 号 p. 1-16

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抄録

羽島貝塚は岡山県倉敷市に所在する縄文時代前期の貝塚である。当遺跡から1920年に発掘された頭骨1点には左前頭部に楕円形の孔があるが,それは先行研究で非人為的と報告されていた。この損傷について,肉眼およびCT画像を用いて法医人類学的観点から検討したところ,それは典型的な人為損傷の特徴を示し,形態的に「刺器損傷」に分類すべきものであることがわかった。さらに東京大学総合研究博物館所蔵資料の中で,人為損傷が報告されている頭骨3例に対しても同様に再検討を行い,法医人類学で用いられる鈍器損傷,刺器損傷,鋭器損傷の3つに分類した。そのうち2例のいくつかの孔は刺器損傷に相当すると判断された。このような損傷を生じた利器としては,これまで論じられてきた槍や矢だけでなく,近接武器としての鹿角や骨角器の可能性を検討すべきであろう。これらの損傷の性状を吟味しながら,意図的暴力や儀礼的遺体損壊を含む,損傷の背景について考察した。

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© 2024 一般社団法人日本人類学会
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