Anthropological Science (Japanese Series)
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遺伝因子と環境因子との相互作用
GSTM1, ALDH2 および CCK 遺伝的多型を例にして
原田 勝二
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1999 年 107 巻 2 号 p. 129-143

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抄録

Glutathione S-transferase (GST) は多くの分子種からなり, 各遺伝子のいくつかは遺伝的多型を示し, 民族•人種により遺伝子頻度が異なるデータが報告されている。GST 分子種のうびGSTM1 は2種の対立遺伝子 (A, B) のほか, gene deletion (O) が多型として, どの人種からも検出される。GSTM1 は発癌性の強いベンツピレンのエポキシド化合物などをグルタチオン抱合により解毒する機能を持つ酵素である。大気汚染物質, タバコ, 工業廃棄物の中には発癌性物質が含まれる。これまでの研究でび GSTM1 gene deletion は肺癌の遺伝的ハイリスク因子となっている。
北海道から沖縄まで, 各県ごとに合計5,000名以上の日本人を対象にALDH2*2遺伝子頻度を調査した。秋田, 山形, 青森の東北地方, 鹿児島, 沖縄の南九州地方や四国南部ではALDH2*2遺伝子頻度が他県に比べ低く, そのためアルコール消費量は高くなっている。逆に, 中部地方, 近畿地方ではALDH2*2遺伝子頻度が高く, アルコール消費量は低い。しかもALDH2*2遺伝子は中部地方を最高に東西に向かうにつれて低くなっている。別な表現をすれば, び紀質のあるALDH2*1遺伝子頻度は中部地方が最も低く, そこから距離的に遠ざかるにつれて高くなっているのである。ALDH2 からみても日本人の2重構造の一端がうかがえる。
Cholecystokinin (CCK) gene の遺伝子型は, 男性についてび CC 型びTridimentional Personality Questionnaire (TPQ) のうち, Noverty Seeking (NS) の無秩序の項目で高得点を示し, 特びHarm Avoidance (HA) の不確実性および易疲労性の項目びCC 型びCT, TT 型より低い得点を示した。また, 男性び CCK genotype と末梢血中びCCK ペプチド濃度は相関し, CC 型びCT, TT 型より有意に高い値を示しび(p<0.001)。女性に関しては有意差が見られなかった。CCK promoter 領域びSp1 cis-element の変異びCCK濃度に男性では影響を与えるらしい。中枢神経系におけるこの濃度差び椀Dopamine との相互作用の違いを反映し, TPQ びの得点差と関連する可能性を示唆する。

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