AUDIOLOGY JAPAN
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原著
中耳腔と顎関節の交通に起因した他覚的耳鳴
丹羽 正樹高橋 真理子村上 信五
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2019 年 62 巻 1 号 p. 88-93

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抄録

要旨: 他覚的耳鳴は患者が感じている耳鳴をオトスコープなどで他者が聴取できるものと定義される。その原因は筋性や血管性が多いが, 顎関節に起因することも知られている。顎関節由来の原因の多くは顎関節症であるが, 今回我々は中耳腔から顎関節への空気の流入による開閉口時の他覚的耳鳴を認めた 1例を経験したので報告する。

 症例は64歳女性で顎関節の可動に伴い右顎関節周囲からクリック音とは異なる音が聴取され, 同時に鼓膜が変化する所見 (閉口時に膨隆, 開口時に陥凹) を認めた。中耳 CT (矢状断) で中耳腔から錐体鼓室裂を通り顎関節包周囲まで連続する低吸収域 (空気) を認めた為, 中耳腔と顎関節の交通が疑われた。鼓膜切開にて中耳圧を開放した結果, 顎関節内の空気も消失し, 症状も消失した。鼓膜穿孔が閉鎖しても症状が再燃することはなかった。

 顎関節の可動に伴う他覚的耳鳴を認めた場合は中耳 CT (矢状断) や鼓膜の診察が必要である。また, 中耳腔と顎関節の交通を認めた場合は鼓膜切開や鼓膜換気チューブ留置術が治療の一助となる。

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© 2019 日本聴覚医学会
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