1991 年 34 巻 6 号 p. 779-785
日本語加工単音節/ki//sa//te//ha/及び/ri/を用いて難聴者と健聴者の異聴について検討した。 各単音について, 被験者群ごとの, 各刺激に対する正答率を求めた。 子音及びVOT (Voice Onset Time) を増幅加工した音声に対する正答率は原音声の場合より大きく, 伸展加工では小さかった。 /te/及び/ri/では, 伸展による正答率の低下が大きかった。 さらに, 得られた異聴に関して因子分析をしたところ, /ki/及び/sa/では, 求められた因子のいくつかは, 健聴者と難聴者で共通の解釈がなされた。 刺激の音声学的分類による特定の傾向は見いだせなかった。
これらの結果から, 1) 後続母音による子音への逆行性maskingの影響, 2) 単音節の知覚には, 一定の時間範囲内に十分な情報が取り込まれる必要があること, 3) 音声学的分類に基づいた音声の加工は, 難聴者の異聴の改善には有効ではないことが示唆された。