1997 年 40 巻 3 号 p. 183-188
レチノイン酸 (RA) は, 内耳性難聴の治療によく用いられるステロイドと生化学的構造上類似しており, 核内受容体を介してある種の遺伝子発現の制御に関与しており, 近年注目を集めている物質である。 今回我々は白色モルモットを用いて強大音負荷後毎日RAを腹腔内投与し, 1週間後に蝸牛神経複合活動電位閾値を測定し閾値上昇を比較し, RAの音響外傷に対する治療効果を検討した。 強大音として2kHz純音, 110dB及び115dB SPLを10分間負荷した。 RA投与量として200mg/kgとし, 対照群ではメタノールを投与した。 115dBの場合にはRAの効果はなかったが, 110dB負荷の場合には明らかにRA投与群の方が対照群に比べて閾値上昇は軽度であった。 これらの結果より, RAは比較的軽度の強大音負荷の場合に, 効果的な薬剤であると考えられた。