AUDIOLOGY JAPAN
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中途失聴成人の人工内耳装用効果の質的検討
日常生活における装用意義の視点から
黒田 生子別府 玲子服部 琢瀧本 勲
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2004 年 47 巻 4 号 p. 241-250

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抄録

聴覚障害発症年齢の異なる (幼年期・青年期) 中途失聴者2例の人工内耳装用効果について, 述後2年半までの臨床場面の対話 (narrative) 分析により質的検討を加えた。特に日常生活場面で装用者自身に主観的に感じられる人工内耳装用の効果を中心に検討を行った。その結果, 以下の点が明らかとなった。
1. 中途失聴成人の人工内耳装用においては, 音声コミュニケーションにおける音韻の聴取改善に留まらず発話者の「情動」の伝播, 理解とそれに伴う「メタコミュニケーション (発話における真の命題)」理解に改善効果が認められた。またそれには, 発話の超分節的要素 [リズム, アクセント, 間 (ま), 有声休止など] の理解改善が大きく貢献していることが示唆された。
2. 自然環境音の聴取改善により,「生命の躍動感」や「情緒性」とも結びついた社会文化的な聴覚経験 (「うぐいすの声」で春の訪れを感じるなど) の回復を招き, 装用者のQOLの向上に役立つことが示唆された。
3. 難聴発症年齢の差異が過去の聴覚概念の形成に影響し, 人工内耳装用後の聴取回復過程に質的影響を及ぼす可能性が示唆された。

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