Seibutsu Butsuri
Online ISSN : 1347-4219
Print ISSN : 0582-4052
ISSN-L : 0582-4052
Topics
Spatial and Temporal Resolution Improvements on 2-Photon Microscopy
Kohei OTOMOKazushi YAMAGUCHIHirokazu ISHIITomomi NEMOTO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 62 Issue 2 Pages 131-133

Details
Abstract

多様な蛍光顕微鏡法のうち,特に生体深部の微小構造を対象とした可視化手法として提案されたのが二光子顕微鏡法である.我々は,本法の特徴をできる限り維持したままに機能向上を図る技術開発研究を行ってきた.本稿では,特に高解像化・高速化に関する取り組みについて紹介したい.

1.  二光子顕微鏡法

対象を蛍光標識し,顕微可視化する蛍光顕微鏡法は近年の生命科学研究における重要なツールの一つとなっている.多様な蛍光顕微鏡法のうち,特に生体深部の微小構造を対象とした可視化手法として提案されたのが多光子励起過程を利用したレーザー走査型蛍光顕微鏡(多光子顕微鏡)法である.本法は超短光パルスを試料に照射し,二光子,三光子励起による蛍光を取得する.本過程を誘起するためには高い光子密度が必要とされるため,蛍光が発生する領域は対物レンズ焦点にほぼ限局される.つまり,焦点外蛍光がそもそも生じないため,光学断層像の取得が容易である.また,蛍光顕微鏡用途の発色団の大半は可視域に電子吸収特性を有することから,励起には近赤外域のレーザー光が用いられる.およそ650-1,350 nmの本波長域は,生体分子の電子吸収帯と水分子の振動吸収帯の狭間に位置していることに加え,可視域に比べて光散乱が起こりづらいため,『生体の窓』と呼ばれている.このことは本法に高い深部可視化能の特徴を与える.さらに本法は,焦点外吸収が起こりづらいことも手伝い,観測による侵襲性が低いという特徴も有している.また一般に,二光子吸収スペクトルは一光子のものよりも広くなるため,単一のレーザー波長により同時励起可能な色素の組み合わせが増える.このことは原理的に視差,色収差を抑えた多色イメージングを可能とする.我々は,本法の特徴をできる限り維持したままに機能向上を図る技術開発を行ってきた.本稿では,特に高解像化・高速化に関する研究について紹介する.

2.  高解像化

近赤外励起光を用いた二光子顕微鏡法は,様々な厚組織切片や麻酔下の動物等に適用され,細胞レベルの可視化解析に汎用されている.しかしながら当然,可視化限界は存在する.一般に,複雑な構造を持つ対象であるほど深部可視化は困難となる.組織,臓器は固有の構造,組成に基づいた屈折率,散乱特性,表面形状を有し,これらは光線の進行に大きく影響する.さらに,不均質かつ不透明な生体の内部における集光スポットは,光学収差,光散乱等の影響により理想通りとはならない.これらの影響を如何に排除するかは生体蛍光イメージングにおける命題の一つであり,これに対する補償光学アプローチは,近年発展が著しい.ごく最近,我々の研究グループでも,生体脳表面における屈折率界面に着目した二種の方法論を提案した.一つ目は,市販の二光子顕微鏡の構成を殆ど改変しない方法である.まず,水浸対物レンズの浸液の屈折率値を生体組織の平均屈折率に一致させる.さらに,励起光路にレンズペアを挿入することで7割程度まで励起レーザー光のビーム径を小さくし,対物レンズの瞳の中央の低NA領域にレーザーパワーを集中させる.これにより,我々は通常の市販のシステムでは困難であったマウス脳海馬領域の観察を実現した1).2つ目は,脳組織の表面形状の三次元座標情報を基に光線追跡を行い,焦平面におけるレーザー光波面の位相のズレの空間分布を算出し,空間光変調器にて予め励起光波面に逆位相を与える方法である2).これにより,曲率を持った脳表面形状の影響により生じる光学収差のため,可視化が適わなかったマウス脳第二次運動野第V層の神経細胞の樹状突起棘構造といったサブμmサイズの微細形態の可視化を達成した(図1).

図1

表面形状に由来する光学収差の補正によるマウス脳第二次運動野新皮質第V層(脳表より500 μm深部)樹状突起棘構造の可視化.

上述の補償光学技術は,種々光学条件により劣化した空間解像度を理想集光時に戻そうとするアプローチである.この一方で,超解像顕微鏡法の応用により,二光子顕微鏡の空間分解能を向上させる試みも,この10年で行われるようになった.我々もまた,超解像顕微鏡法の一つである誘導放出制御(STED; stimulated emission depletion)法に着目し,二光子顕微鏡の空間分解能の向上研究に取り組んできた3)-5).我々の構築したシステムにおける特徴は,半導体レーザー光源による二光子励起光とSTED光生成4),5),透過型液晶素子(tLCD; transmissive liquid crystal devise)を用いたSTED光変調3),4)にある.前者については,両光パルス発生の相対的な時間遅延を電気制御できる仕様とし,試料位置においてピコ秒精度のパルス同期を達成した.tLCDは先述の空間光変調器の一種であるが,透過型なので光路に挿入するのみで光変調が可能である.我々はSTED光を円偏光の光渦に変換し,さらに光軸方向の焦点位置を調整する用途でtLCDを用いた.微小蛍光ビーズのイメージングにより点像分布関数を評価した結果,通常の二光子顕微鏡と比べておよそ5倍の空間分解能を有しており,微小管を標識した哺乳類細胞の観察においても,100 nm以下の空間分解能を実現した(図2).さらに,近年では脳スライス標本等の厚切片の内部微細形態の超解像観察にも成功しているのでいずれ報告したい.

図2

STED法の応用による空間分解能の向上.左:20 nm径蛍光ビーズ.右:微小管標識COS-7細胞.

3.  高速化

二光子顕微鏡の多くは励起レーザー光の走査に2枚の可動式ミラーを用いている.この動作速度が装置の時間分解能を決定するが,高速動作するミラー位置の安定性は,画質に大きく影響する.一方,励起レーザー光を分割し,多点並列走査することでレーザー走査型顕微鏡の時間分解能を向上させる試みは,一光子励起をベースとした共焦点顕微鏡法で多く報告されている.その中でも,スピニングディスクを用いたレーザー走査ユニットは生物学研究者から広く用いられている.しかしながら本方式は,励起レーザー光を数百本に分割する必要があるため,二光子顕微鏡に一般的に用いられるモード同期チタンサファイヤレーザー等では強度が不足しており,実装は報告されていたものの,実用化に至っているとは言い難い状況であった.

我々は,近赤外域に高い透過率を有するスピニングディスクと低繰り返し周波数,高ピークパワーを有するレーザー光源をベースとした多点走査方式二光子顕微鏡を構築し,カメラ素子全域を活用した広視野イメージングを実現した6),7).さらに,構築したシステムの性能を精査し,その結果,構築したシステムは一光子励起共焦点顕微鏡よりも優れた深部可視化能と低い侵襲性能を有すること,ピンホールアレイディスクが共焦点効果を生み,通常の二光子顕微鏡よりも高い空間分解能を有していることが示された.本顕微鏡システムによる可視化例として,マウス血管のin vivoイメージング結果を図3aに示す.麻酔下のマウスの腹部にスキンフラップ処置を施し,尾静脈注射した蛍光色素に由来する二光子蛍光信号を,108-Hzの高速で取得した.血漿成分に由来する蛍光信号の影となっている血球がマウス皮膚血管中を高速で移動する様子を捉えることに成功した.また最近我々は,偏光分離光学系の導入による高速分子配向イメージングにも取り組んでいる8).FM1-43色素にて形質膜を標識したマウス膵臓外分泌腺の急性単離標本の二光子蛍光信号,マウス真皮コラーゲン線維の第二次高調波発生信号についての可視化例を図3bに示す.偏光分離観察により,細胞塊中の形質膜構造や生体コラーゲン線維の密なネットワークを高精細に可視化できていることがわかる.

図3

二光子スピニングディスク顕微鏡法.(a)マウス血管in vivoイメージング.染色した血漿成分の影となっている血球成分(矢印)の画像左上方向への移動を108-Hzの高速で捉えている.(b)マウス膵臓外分泌腺急性単離標本中の形質膜(左),真皮コラーゲン線維ネットワーク(右)の偏光分解イメージング.標的分子の面内配向について,x方向を緑,y方向をマゼンタで表示.

4.  結言

多光子顕微鏡の技術開発は,国内外において目覚ましい勢いで進んでいる.特に,三光子励起過程の適用による深部イメージング,種々の光学技術の活用による高速ボリュームイメージングはホットトピックであり9),我々も一部開発に着手している.一方で,生命科学研究を志向した技術開発である以上,イメージングとしてのパフォーマンスを求めるあまり,観察のための処置や介入が本来観察したい生理現象を妨げるという本末転倒は回避しなくてはならない.生体内のありのままを細胞小器官分解能かつ実時間で記述できるという多光子顕微鏡本来の実用性を常に留意することは,今後の更なる展開において極めて重要である.

謝辞

本研究は,文科省科研費補助金(JP18K06591, JP20H05669, JP21K19346, 15H05953 “Resonance Bio”, 16H06280 “ABiS”),AMED革新脳プロジェクト(JP21dm0207078),JST CREST(JPMJCR20E),コニカミノルタ科学技術振興財団,光科学技術研究振興財団の支援を受けて実施された.本研究遂行に当たり,東北大学の横山弘之教授からは,半導体レーザー光源に関する技術提供を,同 佐藤俊一教授,小澤祐市准教授からは光増幅器,光波面操作に係る多岐に渡る助言と技術提供をいただいた.本研究で用いた透過型液晶素子はシチズン時計株式会社の橋本信幸博士,栗原誠様,田辺綾乃博士からご提供いただいた.

文献
Biographies

大友康平(おおとも こうへい)

順天堂大学大学院医学研究科准教授

山口和志(やまぐち かずし)

北海道大学大学院情報科学研究科博士課程大学院生(当時)

石井宏和(いしい ひろかず)

生命創成探究センター特任助教

根本知己(ねもと ともみ)

生命創成探究センター教授

 
© 2022 by THE BIOPHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
feedback
Top