武道学研究
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原著
柔道「慰心法」の導入と嘉納治五郎の思想
桐生 習作
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2010 年 43 巻 1 号 p. 1_27-1_38

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抄録

本研究は嘉納治五郎が柔道の目的の 1つとして慰心法(心を慰めるための方法)を導入した際の背景と彼の趣旨を明らかにすることを目的とした。嘉納は最初に柔道の目的として体育(体育),勝負(武術),そして修心(自己の精神を抑えること)を述べた。その後,嘉納は追加の目的として慰心法を加えたが,彼がそうした理由については未だ知られていない。嘉納の著述のこの時期における柔道の普及状況を調査し,筆者は以下のことを明らかにした。
a. 1883 年以降,柔道は課外活動として学校に浸透した。多くの部が設立された後,それらは対校試合を始めた。
b. 嘉納は柔道修行者に柔道から得られる利益(体育,勝負,修心)を示した。
c. 1911年,柔道は日本の中学校における正科になった。その後,嘉納は柔道の目的として慰心法を含めて発表し,さらに新しい要素(運動の楽しさ,乱取,試合,そして形を見る楽しみ,芸術形式としての形を含む)を柔道に付け加えた。
嘉納は普通体操の面白さが無く学校卒業後に長く続けられないことに関する不満と柔道の様々な利益,逆に競技運動は面白く長く続けられるという社会的背景から慰心法の新しい発想を生み出した。しかしながら対校試合の増加に伴い,慰心法は嘉納の言説から消失し,学生達は多くの不祥事を巻き起こす。慰心法に代わり,嘉納は柔道の修行を行っているかどうかにかかわらず,全ての人々にこの状況の改善を呼びかけたのである。

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© 2010 日本武道学会
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