本稿では、今日寺院のひとつの形態として理解されている「観光寺院」という用語それ自体を対象として、新聞記事の分析を通してその発生・波及・転換・再構築の過程を追うことで、観光という事象が現代日本の仏教寺院に近接してきた背景を明らかにすることを試みた。
「観光寺院」は1960年代の初出以来、当初の“京都”や“古都税”と結びつくローカルな用語から、全国的な現象を指す用語として波及していった。またその過程では、ネガティブなイメージを伴う「観光寺院」に対して、仏教寺院が自らを「観光寺院ではない」寺院として規定し、その聖性や真正性を強調することで、むしろその魅力や価値が観光の文脈に回収されていくという逆説的な現象も見られた。
つまり、今日の「観光寺院」が単に京都の有名観光寺院の性格を示すのみならず、寺院のひとつの運営形態として理解されるようになった背景には、寺院自らが「観光寺院」のネガティブイメージを転換し、時には巧みに利用しつつも訪れるべき寺院の価値を再構築していく過程が存在していたのである。