2004 年 55 巻 5-6 号 p. 153-169
日本の沿岸海域堆積物における生物・海水起源物質に伴う元素の地球化学的挙動を解明するため,堆積環境の異なる海域で採取された約200試料について通常の主成分のほか生物源シリカ(Bio.SiO2), 二酸化炭素(CO2), 水溶性塩素(Cl)等を分析した.Bio.SiO2は,微細な堆積粒子と行動をともにし,水深の大きい海域の細粒堆積物で高濃度を示す.海域別では,北海道南東部沿岸の親潮海域が最も高く,ついでオホーツク海がやや高い.能登半島-新潟沖は中間的で,黒潮の影響下にある東海沖では低い.石灰質堆積物に由来するCO2は,Bio.SiO2とは逆に浅海の粗粒堆積物中で高濃度を示す.海塩に由来するClは,いずれの海域においても砂,シルト,粘土の順に高濃度になる.Bio.SiO2に伴って濃縮される主な成分はSiで,石灰質堆積物にはCa, Mg, Sr, CO2が,海塩にはCl, Na, SO42-, Mg,Ca, K等が濃縮される.しかし,Fe, Mnをはじめとする重金属類は生物・海水起源物質によっては濃縮されないと考えられた.重金属類は,一般に粗粒堆積物よりも細粒堆積物中で高濃度を示し,元素によっては続成作用に伴って濃縮される.沿岸海域の堆積物の化学組成の特徴から後背地の地質特性を推定するためには生物・海水起源物質の影響を補正し,珪酸塩起源物質の化学組成を求める必要がある.