地質調査研究報告
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論文
関東地域の土壌中微量セレンの地球化学的研究
寺島 滋今井 登太田 充恒岡井貴司御子柴(氏家) 真澄
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2005 年 56 巻 1-2 号 p. 9-23

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抄録

土壌におけるSe の地球化学的挙動を解明するため,関東地域で採取した20本の柱状試料から得られた247 試料を連続水素化物生成‐原子吸光法で分析した.Se 濃度の平均値は,火山灰質土0.65 ppm (n=176),褐色森林土0.47 ppm (n=31),沖積土0.54 ppm (n=40) であり, 全体の平均値0.62 ppmは火成岩平均値の約15倍に相当する.土壌,岩石,植物中のSe 濃度,土壌柱状試料におけるSe と有機炭素等濃度の鉛直分布を研究した結果,土壌中のSeは主として生物濃縮で濃集したと考えられた.Seに富む火山灰質土は,最終氷期極相期以降に堆積したもので,気候の温暖化に伴う植生の活性化と堆積後の経過時間が短く腐植の分解やそれに伴うSeの移動・流失が少ないためであろう.沖積土中のSe濃度は細粒の粘土質土壌で高く,粗粒の砂質土壌で低い.海水に由来する高濃度の硫黄が含有されてもSe 濃度は特に高くないが,これはSe(VI) が硫化水素によって沈殿しないためと考えられた.土壌中Seの地球化学的挙動を支配する要因としては,土壌の産状とその母材, 生物濃縮,土層の酸化‐還元状態,続成作用に伴う濃集と移動・流失・逸散等が重要と考えられた.

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© 2005 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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