地質調査研究報告
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論文
日本海東部の海底堆積物中の微量セレンの地球化学的研究
寺島 滋今井 登池原 研片山 肇岡井 貴司御子柴(氏家) 真澄太田 充恒
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2005 年 56 巻 9-10 号 p. 325-340

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抄録

海底堆積物中セレン (Se) の地球化学的挙動を解明するため, 日本海東部で採取した表層試料と柱状試料を分割して得た合計215試料中のSeを連続水素化物生成原子吸光法で分析した.表層試料中Se濃度の平均値は, 0.60 ± 0.45 ppm (n=81) で, 粗粒堆積物よりも細粒堆積物で高く, 概括的には採泥点の水深の増加に伴って高濃度になり,有機炭素 (Org.C) , 全硫黄 (T.S) 濃度との間に強い正相関がある.Se は, 亜セレン酸塩態, セレン酸塩態, 元素態, 硫化鉄態, 有機物態等の形態で存在するが, 表層試料では元素態と有機物態が卓越し, 柱状試料では有機物態の割合が多いと考えられた.今回分析した試料に関しては, 人為的汚染によるSe濃度の増加はないと考えられた.柱状試料中Se濃度の平均値は1.88±2.19 ppm (n=134) で表層試料よりも約3倍高いが, これは日本海が還元的環境下にあった時代の堆積物に高濃度のSe (最高11.93 ppm) が含有されるためである.日本海深部の柱状試料中Se, Org.C, T.S 等の濃度は, 海洋の酸化- 還元環境, 外洋水の流入の有無,気候変化に伴う生物生産量やガス状Se化合物発生量の増減等の影響で変動する.柱状試料中のSe 濃度はOrg.C やT.S 濃度と同様に古堆積環境を解明するための指標として有用であろう.

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© 2005 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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