地質調査研究報告
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論文
イタリア・ブルカノ-リパリ火山地域高分解能空中磁気異常図
大熊 茂雄中塚 正Robert Supper駒澤 正夫
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2006 年 57 巻 5-6 号 p. 177-190

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抄録

産業技術総合研究所では,1999 年以来,オーストリア地質調査所(GBA)と,イタリア・エオリア諸島の火山災害軽減のため,物理探査による詳細な地下構造調査と同調査の繰り返し実施による火山活動のモニタリングに係わる研究を実施している(大熊ほか,2001).2000 年からは当該地域で重力探査を開始し,広域の調査を行うとともに,ブルカノ火山のフォッサ火砕丘では測線上で高密度重力探査を実施し,重力異常の特徴を明らかにしている(駒澤ほか,2002;Sugihara et al., 2002). 2001 年には,GBA と産業技術総合研究所地球科学情報研究部門(現地質情報研究部門)との間で研究協力協定を結び,翌 2002 年には,ブルカノ火山‐リパリ火山南部で高分解能空中磁気探査を実施している.今回 2002 年の調査の結果得られた空中磁気データに加え,1999 年に GBA が測定したデータを取り込んで,当該地域の高分解能空中磁気異常図を編集した. 2002 年に行った高分解能空中磁気探査の観測データから,等価異常を仮定した処理法(Nakatsuka and Okuma,2006)により,平滑化した地形及び海水面から高度 150 m の滑らかな曲面上での磁気異常分布を求めた.当該地域では,1999 年にほぼ同一の測線上で GBA が高分解能空中磁気探査を実施しており,3 年間の地磁気変化を検出するため,同一の高度面上での磁気値を比較検討した.その結果,地磁気変化は認められるものの,その原因として,観測点高度の決定法が二調査間で異なることと,地形及び地磁気変化が大きな地域で比較的顕著な相違が認められエリアシングの影響が疑われることから,現状では変化の有無の本質的な議論には至らないと判断された.そこで, 2002 年の測線データを基本として,周辺部に位置する 1999 年の一部の測線データを利用して,可能な限り広域をカバーする磁気異常図を編集した.その結果,リパリ火山南部からブルカノ火山全域を含む地域の詳細な磁気異常分布が明らかとなった.これによると,流紋岩質火山岩を主体とするリパリ火山南部は顕著な磁気異常は少なく,代わってブルカノ火山では,各所に顕著な高磁気異常が分布する. ついで,磁気異常分布と地表地質分布との関係を詳細に検討するため,磁化強度マッピング(Nakatsuka, 1995)を行い,磁化強度分布図と極磁力異常図を作成した.この際,相関法により求めた当該地域全域の平均磁化(2.0 A/m)による地形補正量を計算し,観測磁気異常から除いた値を解析対象とした.得られた極磁力異常図によれば,特にブルカノ火山の磁気異常の詳細が明らかとなった.地質図との比較により,南部の古期楯状火山(南ブルカノ)の山腹やピアノカルデラに分布する粗面玄武岩や粗面安山岩溶岩に対応して,高磁気異常が認められる.また,北部のフォッサカルデラでは,フォッサ火砕丘から噴出したトラカイト‐テフライト溶岩に対応して高磁気異常が認められる一方,流紋岩質黒曜岩溶岩の分布に対応しては磁気異常は認められない.フォッサ火砕丘の北側斜面(Forgia Vecchia)及び東側斜面においては,地表兆候はないものの局所的な高磁気異常が分布し,その他の地球科学的情報を考慮した磁気異常の解析・解釈から,フォサ火口に加え,多量の溶岩を噴出しフォッサカルデラを埋積したかつての噴火中心が複数伏在する可能性が示唆されている(Okuma et al., 2006).

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© 2006 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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