地質調査研究報告
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論文
逐次溶解法を用いた元素存在形態別地球化学図作成のための予察的研究
太田 充恒今井 登寺島 滋立花 好子
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2007 年 58 巻 7-8 号 p. 201-237

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抄録

有害元素の潜在的危険性や堆積物中の金属元素の存在形態・移動性などを評価するにあたり,逐次溶解法は有効で ある.本研究では,The Community Bureau of Reference(BCR)によって開発された抽出手順(手順 1 ~ 4)を,主として全国地球化学図作成用に採取された日本の河川堆積物へ適用することを試みた. BCR 法を 30 河川堆積物中の 51 元素の抽出に適用したところ,良好な結果を得たので報告する.BCR 法は対象とした相(物質)に含まれる元素を,酢酸(手順1),塩酸ヒドロキシルアミン(手順2),過酸化水素・酢酸アンモニウム(手順3),フッ酸・過塩素酸・硝酸(手順 4)を用いて抽出する事を目的としている.BCR 法を用いた繰り返し測定の再現性については,3 種類の地球化学標準物質(JSd-1,-2,-3)を用いて検討を行った.その結果,各抽出段階における元素濃度の分析誤差はおおむね 10 ~ 25 %以下で,回収量(各手順で抽出された元素濃度の合計)は,ほとんどの場合 80 ~ 130 %であった.各元素の逐次溶解法の結果は,河川堆積物の供給源である地質・岩相が様々に異なっていても違いはほとんど見られなかった.この結果は,地質の違いが河川堆積物中の元素存在形態に与える影響は少ないことを示している.これに対し,都市域で採取された河川堆積物は,堆積岩が背景地質として分布する地域で採取された試料であるが,他の試料とは明らかに異なる抽出結果を示した.都市域で採取された試料は,コバルト,ニッケル,亜鉛,カドミウムが非常に高い割合で手順 1 において抽出され,クロム,銅,鉛が手順 3 で抽出されるなどの特徴を示し,金属元素汚染の結果を反映していると考えられる.鉱山の近くで採取された河川堆積物もまた,特徴的な抽出結果を示した.本研究の結果より,BCR 法を用いた逐次溶解法は,クロム,ニッケル,銅,亜鉛,カドミウム,鉛汚染の見極めや,亜鉛,カドミウム,鉛を産出する鉱床探査に大変有効であることが明らかとなった.

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© 2007 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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