電子スピン共鳴(ESR)法を熱・熱水の影響評価に適用する目的で,低温熱水活動史解析への適用可能性,ESR信号の温度特性を利用した詳細な温度推定の可能性,熱の影響範囲評価の可能性について,これまでの研究例を総括し今後の課題を抽出した.ESR法では鉱物の結晶格子欠陥を利用するため,加熱時点だけでなく結晶晶出時も出発点となり,低温熱水活動にも適用できる.測定例としては温泉沈殿物や地下水温で晶出した鍾乳石がある.ESR信号の種類によっては熱水温度程度に加熱すると増大するものがあり,これを利用して考古遺物の加熱温度を詳細に推定した例がある.また熱水の通路が断裂であれば,断裂から離れる方向に見かけ年代値が古くなるはずであり,これを利用して熱の影響範囲や程度を推定することが可能である.しかし ESR信号の温度特性について系統的な長時間加熱や冷却過程の実験を行った例はなく,今後の研究が必要である.