2009 年 59 巻 7-8 号 p. 397-413
東北日本太平洋側に位置する常磐および相馬地域において,主として海岸低地の植生を代表すると考えられる5つの大型植物化石群集を検討し,前期中新世の植生と陸上気候の変化を明らかにした.
最初期中新世には温帯性の落葉広葉樹と針葉樹からなる植生が広がったが,前期中新世を通じて,温暖な気候に生育する常緑・落葉広葉樹の出現と種数の増加傾向が認められる一方,寒冷な気候に生育する種類が減少する傾向が明らかとなった.現在の東アジアの森林植生区分との比較から,この変化は年平均気温の上昇と年較差の減少によるものと解釈され,後者はとくに前期中新世後半に冬季の気温が上昇したことが原因と考えられる.葉相観に基づく年平均気温の定量的な推定から,最初期中新世からおよそ20 Ma にかけて気温の著しい上昇が認められたほか,およそ17 Maから16 Maにかけて,さらに温暖な気候が示唆された.これらの温暖期は海棲生物から推測される海洋気候の温暖期に一致する.海成層から報告された花粉などのデータとあわせて考えると,前期中新世の陸上気候と海洋気候は同様な変化傾向を示す.