2009 年 60 巻 11-12 号 p. 511-525
産業技術総合研究所(以下,産総研と呼ぶ)は来るべき東南海・南海地震の短期予知を目指し,大地震発生前に発生するかが論争となっている,プレスリップ(沈み込むプレート上の前駆的なすべり)の検出を一つの目的として,2006年度より四国・紀伊半島~愛知県にかけて12点の新規観測点を設置した.本研究では,プレスリップによる地殻変動が弾性体の食い違い理論に従うことを仮定した場合,この観測網がどの程度の大きさのプレスリップを検出できる能力があるのかを計算した.その結果,プレスリップが1 日程度の時定数,12 km × 10 kmの空間的な広がりを有し,観測点での線歪のノイズレベルが,これまで産総研観測点で得られた多成分ボアホール歪計のノイズレベルの中でも比較的低い値(2 × 10-8)である条件を満たせば,本観測網内の広範な領域で,モーメントマグニチュード6.5程度までのプレスリップを検出できることが分かった.但し,プレスリップの時空間スケールが大きくなると検出能力は低下する.