地質調査研究報告
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論文
滋賀県田上花崗岩体ペグマタイト中のジルコン:産状・形態・組織・化学組成
角谷 安華河野 俊夫中野 聰志西村 彰子星野 美保子
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2012 年 63 巻 7-8 号 p. 203-226

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抄録

 滋賀県南部田上花崗岩体を構成する中粒斑状黒雲母花崗岩中の岩脈状ペグマタイトから採集したジルコン粒子について,産状・形態・組織・化学組成の特徴を解析した.これらのジルコンは,肉眼的な大きさと肉眼及び顕微鏡観察による形態の違いに基づいて長柱状のType Iジルコン (幅0.05-1 mm,長さ3 mm-1 cm) と放射状や樹枝状で産するひも状 (幅0.01-0.05 mm,長さ1-3 mm) の Type IIジルコンに分けられる.両者は,ともに文象帯・巨晶帯を通して共存している.Type Iジルコンは,鏡下でのc軸に垂直な断面において矩形,L字型,コの字型の多様な形態変化を示す.全体がclear (清澄) な粒子もあるが,内部のclearな部分と周辺部のマイクロポアの多いturbid (汚濁) 部分 (spongy部分) からなる粒子が多い.Type IIジルコンは,基本的に鏡下ではturbidに見えるspongy部分から構成される.EMPAによる反射電子線像及び元素マッピングにより,Type I ジルコンのclear部分には化学組成の違いによるゾーニング (帯状) 組織が,turbidなspongy部分には組成変化によるまだら状組織がそれぞれ観察される.ゾーニング組織やまだら状組織は,Zr及びHfの分布と放射性元素 (U+Th),REE (Yb,Y,Dy) 及びPの含有量の違いに対応している.マイクロポアを伴いspongyである Type IIジルコンは,Type I spongyジルコンと同じく化学組成変化による細かいまだら状組織を示す.EMPAによる定量分析の結果,Type Iのclear部分のジルコンの分析値合計は100 wt.%前後であるが,Type I・Type IIのspongyジルコンは合計が95 wt.%より低い場合が多く,特にType IIジルコンは80 wt.%台の場合も多い.ただし,今回の化学分析値による構造式計算においては,いずれのタイプのジルコンも化学量論をほぼ満たしている.今回の組織と化学組成のデータからは,Type I clearジルコンはもとの組成を保持しており,Type I・Type II spongyジルコンは熱水反応を受けた二次的なものである可能性がある.Type IIジルコンと比べてUの量が多いType Iジルコンは,日本のペグマタイト中のジルコンの中でもUの量が多い部類に入る.

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© 2012 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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