地質調査研究報告
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論文
足摺岬の付加体に貫入するジルコンと希土類元素に富むアルカリ深成岩類
石原 舜三星野 美保子
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2013 年 64 巻 1-2 号 p. 1-24

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抄録

 西南日本外帯の足摺岬火成岩体は露出面積12 km2 の小岩体であるが,その南部は斑レイ岩および狭義の閃長岩・石英閃長岩から閃長花崗岩に至る幅広いアルカリ花崗岩類,その北部は四万十帯に接する石英に富む黒雲母モンゾ花崗岩で構成される複合岩体である.化学分析値をハーカー図上で検討すると,黒雲母モンゾ花崗岩の3 個を除きA/CNK<1.0,即ちメタアルミナスの領域に,またK2O-SiO2 図上ではショショナイト-高カリウム系列上にプロットされる.Na2O やRb にも富んでいる.ガリウム量は斑れい岩を除き18 ppm Ga 以上と多く,A タイプ的な傾向を持つ.足摺岬花崗岩類の最大の特徴はHFSE (high-field strength elements)に富むことにある.Zrは最大で1,220 ppm含まれ,Hf (<25.6 ppm),Nb (<202 ppm),Ta (<14 ppm),LREE (<1,002 ppm), HREE (<50.5 ppm),Y (<74 ppm),Th (<74.2 ppm)にも富んでいる.またフッ素(<0.43 wt.% F) が多く含まれる.
 これらの微量成分は多数の副成分鉱物に含まれるが,一般的な鉱物はジルコン,チタン鉄鉱,褐廉石,チタン石などである.ジルコンはもっとも普遍的にみられ,まれに肉眼で識別できることもある.ジルコニウムの最大含有量を持つ58A142 試料中のジルコンは,2.4 wt.% 以下のHfO2,1.0 wt.% 以下のY2O3 を含む.58A142 試料のチタン鉄鉱は4.3-5.7 wt.% MnO を含むが,その他の石英閃長岩のチタン鉄鉱は低い値(1.7-1.8 wt.% MnO) を持つにすぎない.チタン鉄鉱中のニオブは3.8 wt.% Nb2O5 以下であり,チタン鉄鉱の縁に濃集するので,マグマ期最末期に熱水から添加されたものと考えられる.褐廉石は他形結晶として見られ,磁鉄鉱系花崗岩類に特徴的なマンガンに乏しい特徴 (0.44 wt.% MnO) を持つ.また,褐廉石は軽希土類元素に富み,24.6-25.8 wt.% LREE の範囲で比較的一定であるが,トリウム (0.05-3.7 wt.% ThO2) は変化に富む.
 足摺岬岩体の斑れい岩は最も苦鉄質な岩相で47.0 wt.% SiO2,12.5 wt.% MgO であり,上部マントルにその起源をもつものと思われる.閃長岩類は55-60 wt.% SiO2 で低いSr 初生値 (0.7035) を持つことから,大陸地殻下部の苦鉄質岩を出発物質としているが,マグマの発生量が小規模であった為に,結果的にアルカリやHFSE に富んだと考えられる.北部の黒雲母花崗岩はこのマグマが四万十層群の堆積岩類を深所で同化して生成したと考えられる.足摺岬岩体の石英閃長岩類と関連岩脈類は異常なZr, REE, Y を含むので,関連する熱水性鉱床を発見することは,REE 含有鉱床探査上のために重要である.

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© 2013 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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