2019 年 70 巻 1-2 号 p. 249-260
日本の中・古生代放散虫化石の研究は,20世紀後半に急速に進展した.筆者の研究の経過に基づけば,その進展過程は,(1) 1968年以前:中・古生代放散虫化石に生層序学的有効性が認められていなかった時期,(2) 1969年–1978年:非石灰岩相“古生界”から中生代型放散虫化石が発見されだした時期,(3) 1979年–1988年:中・古生代放散虫生層序学が急速に進展し,それに基づく検討によって“中・古生界”の堆積岩コンプレックスとしての実態が解明された時期,(4) 1989年以降:放散虫化石の群集解析に基づく古環境復元へのアプローチが始まった時期,の4時期に区分される.放散虫化石研究の急速な進展の背景には,(1) 放散虫化石の特性(種の多様性と変異性の高さ,産出個体数の多さ,比較的安定な殻成分,層序学的に連続した産出など),(2) 研究手法の近代化(フッ化水素酸HF)法,走査型電子顕微鏡(SEM),コンピュータの普及),(3) 研究体制の組織化(科学研究費補助金総合研究(A),国際協力研究事業,国際共同研究など),及び,(4) 情報交換の組織化と国際化(放散虫研究集会,国際研究集会など)という要素があった.