2023 年 74 巻 2 号 p. 87-105
北上山地南東部,大船渡地区の中生代層は,北北西–南南東方向の主断層により西列・中列・東列の3列に分かれて分布する.西列には三畳紀層とそれを不整合に覆う前期白亜紀層がある.今回,西列の三畳紀層(明神前層)の砂岩,前期白亜紀層(小細浦層)の溶結凝灰岩,中列の未区分前期白亜紀層の珪長質凝灰岩に含まれるジルコンU–Pb年代を測定した.明神前層は,陸成の礫岩や赤紫色砂岩で特徴づけられる.砂岩の砕屑性ジルコンU–Pb年代は219.2 ± 4.1 Maの最若クラスター年代を示す.二枚貝Monotis化石の産出を加味すると,明神前層はノーリアン期の堆積物である.前期白亜紀層(大船渡層群)は下位より,陸成層(箱根山層),海成層(船河原層と飛定地層),海成~陸成層(小細浦層)に細分される.小細浦層上部の溶結凝灰岩のジルコンU–Pb年代は124.7 ± 0.6 Ma(アプチアン期前期)の加重平均年代値を示す.東列は火山岩類主体の地層(綾里層)とそれを覆う海成~陸成層(合足層)に区分される.中列は陸成火山砕屑岩主体の未区分層であり,その中の珪長質凝灰岩のジルコンU–Pb年代は121.9 ± 0.6 Ma(アプチアン期前期)の加重平均年代値を示す. これまでの年代論を合わせると,大船渡地区の前期白亜紀層は全体として,オーテリビアン期~バレミアン期の海進と安山岩主体の火山活動,その後のバレミアン期~アプチアン期前期の海退と珪長質火山活動によって形成された.アプチアン期前期には,脈岩類や花崗岩類をもたらしたマグマの上昇・貫入による火成活動とともに,地表部では噴出物を含む陸源性砕屑物が一部同時的に堆積していたと考えられる.