石川県農業短期大学農業資源研究所報告
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Print ISSN : 0915-3268
<ミニレビュー>日本における穀類形質転換に関する最近の研究
島田 多喜子
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1999 年 6 巻 p. 1-8

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抄録

最近の10年の間に重要な穀類の形質転換植物体の育成に成功した。現在のところ,植物の形質転換には組織培養技術が必須である。ここでは,穀類,特にイネにおける組織培養技術と,形質転換技術の発展に対する日本の研究者の貢献と,最近の研究の進展について概観する。日本ではイネが最も重要な穀物であり,その研究の歴史は長く,蓄積も大きい。イネの組織培養も日本の研究者が取り組み,カルスからの再分化の系が確立した。その後,プロトプラストからの植物体の再生,プロトプラストを用いた形質転換イネの作出,そしてアグロバクテリウムを使った形質転換系の確立と着実な進展は,日本の研究者によるものである。現在,種々の環境ストレスに耐性を待ったイネ,病害虫に抵抗性のイネ,飛躍的な収量増となるイネ,新たな機能を待ったイネ等を目指して多くの研究グループが形質転換イネの育成と解析に取り組んでいる。また,実用化のための試験として,ウイルス抵抗性,および低アレルゲンの形質転換イネが環境にたいする安全性のテストを終丁している。イネに比べると,他の穀類のこの分野の日本における研究は少ない。しかし,コムギのカルス誘導,カルスからの再分化系の確立は,我々が世界に先駆けて成功した。さらに,1995年には,パーテイクルガンを用いて形質転換コムギを作出した。オオムギについても,日本の研究者のレベルは高い。 トウモロコシでは,アグロバクテリウムを使って形質転換に成功している。実用的な遺伝子組換え穀物を育成するには,形質転換系の確立と共に,農業上有用な遺伝子の単離が鍵である。日本では,イネゲノムの解明に大きなエネルギーが注がれ,近い将来には多くの有用な遺伝子が単離されると期待される。それらの遺伝子は,他の植物と多くの共通点をもつに違いないため,他の穀類の遺伝子組換えにも利用できるだろう。

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© 1999 石川県公立大学法人石川県立大学
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