植物分類,地理
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東亞産キンポウゲ科についての新知見
田村 道夫
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1956 年 16 巻 4 号 p. 110-112

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抄録

1)タイワンシュウメイギクは最初早田博士によって,フィリピンのものと同じであると考えられAnemone luzonensis ROLFEという未發表の名に当てられた.その後MERRILL及びROLFE両氏はKew博物館に行ってフィリピンのものをヒマラヤのA. vitifolia HAM.と比較して,両者を區別することは出来ぬと考えその旨を早田博士に報告した.これに従って早田博士は直ちに臺灣にものをA. vitifolia HAM.と訂正した.しかしこれは全くの誤りであって,臺灣のものは葉は三出複葉で下面にあまり毛が多くないが,A. vitifoliaは単葉であって,普通は下面に白絨毛を密生する.この事は中尾佐助氏がネパールより採集して来られた標本についても確認した.山本氏によって發表されたコタイワンシュウメイギクA. vitifolia var. Matsudaiというのは,タイワンシウメイギクに比してやや小形であるというだけで,何等の差異はないものであるから,タイワンシュウメイギクの學名としては,この變種名を起用してA. Matsudai (YAMAMOTO) TAMURAとする.これによく似たものとしては,A. tomentosa (MAXIM.) PEIとA. hupehensis LEMOINEがある.前者は葉の裏に白絨毛を密生するので一見して區別出来る.後者は,湖北省から来たといわれる栽培植物につけられた名で,その本體はどうもはっきりしないが,一般にはキブネギクの一重品であるといわれている.もしそれが本当であるとすると,キブネギクは葉の厚さ,鋸歯の状態,葉柄の長さ等がまるで違うから問題でない.もしそうでなかったとしても,花が深紅色であるというので,花が白又は僅かに紫がかるタイワンシウメイギクとは別なものであろう.2)ハクサンイチゲの仲間で花序が複繖形となるものは,ヒマラヤ,中國:山東省,北鮮,四國などの山地より知られているが,この中,山東省のものと北鮮のものは,葉の形で差をつける事は困難である.ただ朝鮮のものは閉果,子房に毛があるが,山東省のものには毛がない.しかし朝鮮のものの發毛の程度には相当な變化があるようなので,両者は變種関係とみなすのが妥当かも知れぬ.尚,シコクイチゲはしばしばハクサンイチゲの變種と見なされるが,これは正しくないと思う.この複繖形花序をもったものは,それ自體まとまった一群をなすもので,大井先生が指摘されたように,もし種を大きく見るならば,ヒマラヤのA. polyanthes DONに含まれるべきものである.尚,この群はハクサンイチゲの如く極地,高山性のものではなく,可成り低い所にまで生育しているようである.3)ヒメキンボウゲ 東北地方の海岸に生じ,イトキンボウゲの如く地上匐枝を出して繁殖する小草で,閉果に側脈があり,果皮は薄い.この果皮の薄いことにより,しばしばOxygraphisに入れられるが,正しくない.この屬のTypusえあるO. gracilis BGE.は花被宿存し,閉果側脈はあまり明かではなく,匐枝を出さない.Ranunculusを細分するなら,これはHalerpestesに入れるべきもので,學名はH. Kawakamii (MAKINO) TAMURAとなる.4)Ranunculus petiolatus LEV. et VNT.というのはFAURIEの採集品について記載されたものであるが,産地も標本も挙げていない.京大にあるFAURIE氏の標本の中に,LEVEILLE氏によりそのように同定されたものがあり,Isotypeと思われる.それは1905年7月本州の駒ヶ岳で採集されたNo. 6950で,オトコゼリに他ならぬ.記載にも,ケキツネノボタンに比して閉果の嘴が眞直である等と記してあり,よくオトコゼリと一致する.5)北欧のRanunculus acris L.に厳密に一致するものは東亜にはないが,その變種とみなされるような型は所々にあるようである.本州高山のミヤマキンポウゲも,普通これの變種として扱われているが,妥当であると思う.又,カムチャッカから記載され,樺太や北海道高山のものにしばしば当てられるR. subcorymbosus KOMAROVは莖の毛が大變少いのが特徴であるが,これもR. acris L.の一變種と考へR. acris var. subcorymbosus (KOM.) TATEWAKIとするのがよかろう.この他,北朝鮮高山帯のR. paishanensis KITAGAWAもR. acrisに含まれるべきものと思う.これはミヤマキンポウゲに比して,莖葉はより巾狭く,鋸歯に乏しいので,北欧のものに一層よく似ている.

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© 1956 日本植物分類学会
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