植物分類,地理
Online ISSN : 2189-7050
Print ISSN : 0001-6799
東亜羊歯植物考察IX
田川 基二
著者情報
ジャーナル フリー

1935 年 4 巻 4 号 p. 202-206

詳細
抄録

オホバノヒノキシダ,オホバノカウザキシダ Asplenium trigonopterum Kunze は今日まで不明の種類であつたが,これは Asplenium Mertensianum Kunze の裸葉に附けた學名である.全面に嚢堆を附けた實葉と嚢堆を全く附けぬ裸葉とを比較すれば大變に異るもののやうであるが中間型を示すものもあり,又嚢堆を附けた上半は A. Mertensianum Kunze の記載に,嚢堆を附けぬ下半は A. trigonopterum Kunze の記載に一致するやうなものもある.ところが裸葉のほうが實葉よりも1頁さきに記載せられてゐるから好ましいことではないが本種の學名は Asplenium trigonopterum Kunze を採用することにしやう.小笠原島及び八丈島の特産である. 110. ホソバクロガネシダ(新稱) 臺灣の東岸,景勝の地として有名なタロコ峽の奥,セラオカとタビトの間の石灰岩の絶壁上に發見した一小羊齒,クロガネシダ Asplenium Toramanum Makino によく似てゐるが葉は更に細く切れて3回乃至4回羽状に分裂して末次裂片には一脈あるのみ,嚢堆を附けぬ裂片は線形で幅0.5粍,嚢堆を附けた裂片は卵形で幅1粍ばかり,包膜は比較的幅廣く時に2/3粍以上もあるのでその端は裂片の外に出てゐることもある.今一つの大きな差は葉肉の細胞中葉緑粒を有するものの排列の模樣である,即ちクロガネシダは葉緑粒を有する細胞は網状にならび,その直上の表皮細胞中には葉緑粒を有するものがあるので葉の表面を低度のレンズで見ると灰白の地に緑色の細點が澤山あるやうに見へる.これに反しホソバクロガネシダでは葉肉の細胞は一樣に葉緑粒を持てゐるから全體一樣に緑色に見へる.學名は Asplenium calcicola Tagawa と云ふ. 111. ホソバヰノモトサウ(新稱) テガタワラビ Pteris dactylina Hooker に比するに根莖の鱗片が長く,實葉は3乃至5個の狹長な羽片を有し,3個のときは掌状になつてゐる.臺灣臺中州の高地八通關と東埔との間の石灰岩の絶壁で發見した新種.學名を Pteris angustipinna Tagawa と云ふ.又大和の山上嶽から柏木に至る間の石灰岩上で小泉博士の發見せられたものはホソバヰノモトサウによく似てゐるが裸葉の羽片の鋸齒が形を異にし,低平でもなければ内曲もしてゐないから變種として Pteris angustipinna Tagawa var. yamatensis Tagawa ヒメヰノモトサウと命名した. 112. リウキウヰノモトサウ(新稱) ヰノモトサウ Pteris multifida Poir. に比し實葉の中軸は無翼,裸葉は掌状に3乃至5個の羽状に羽裂してゐる.沖縄や徳之島にある.學名を Pteris ryukyuensis Tagawa と云ふ. 113. ミツバヰノモトサウ(新稱) オホバノヰノモトサウ Pteris cretica L. に比し羽片は少数で通常3個,鋸齒の形も異り,側脈も疎である.雲南,四川,貴州,廣東にあり又沖縄の伊江島にある.學名を Pteris deltdon Baker と云ふ.

著者関連情報
© 1935 日本植物分類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top