2010 年 59 巻 12 号 p. 1097-1104
本研究では,イオン対形成メンブランフィルター捕集濃縮法を併用したモリブデンブルー法により沖縄島内3か所の沿岸海水中のリン化合物を2007年~2008年にかけて2か月に一度測定を行い,「溶存態リン」,「粒子吸着態リン」,「酸難溶粒子態リン」,「全リン」の存在形態別濃度分布から沖縄沿岸の海域別の水質の特徴を考察した.その結果,人口密集地から離れた郊外域に位置する瀬底島試料と那覇市市街域に位置する泊港試料では異なる特徴が明らかになった.瀬底島試料では全リンは平均14.0 μg L−1であり,溶存態リンの平均割合が16%,酸難溶粒子態リンの平均割合は65% であった.これに対して,泊港試料では全リンは平均62.6 μg L−1であり,溶存態リンの平均割合は64% であった.両者の相違は,サンゴ礁が生息し人為影響が少ない海域と,市街域に位置し人為影響を受けやすい海域の特徴の違いを反映したものと考えられる.また,溶存リン酸イオンと栄養塩型微量金属元素との関連性を検討した結果,瀬底島沿岸海水中の〔Cd〕/〔PO43−〕比は1.46~3.7×10−3となり,測定した他の沖縄沿岸海域及び北太平洋の外洋表層海水の文献値より特異的に高いことが明らかになった.この理由は明らかではないが,Cdが瀬底島沿岸域に何らかの要因で流入している可能性,あるいはサンゴ礁海域の植物プランクトンの溶存リン酸イオンの取り込み速度の違いによる可能性が考えられる.