抄録
ニトロフェノール類(NPs)は健康リスクのある化合物として知られており,また,大気中で様々な経路により生成するが,その実態はあまり知られていない.本研究では,シリカゲル充填チューブに2時間ごとに捕集したNPsを高速液体クロマトグラフィー/質量分析法(HPLC/MS)にて分析を行い,日内変動の解析を試みた.捕集法の検討やHPLCへの大容量注入濃縮の自動化をはかり,各種NPの分析が可能になった.検出には大気圧イオン化質量分析を用いた.2時間捕集による大気中各種NPの定量下限は0.08~0.67 ng m-3の範囲であった.本法により日内変動を調べたところ,夏は日中に濃度が高くなり,また冬は夜半前に高濃度になり,季節で異なった日内変動パターンが得られた.これは,季節により,支配的となる二次的生成機構が異なったためと考えられる.すなわち,夏季はOHラジカル,冬季はNO3ラジカルに起因する反応に依存していると考えられる.また,冬季のNP総濃度は夏より高濃度となり,特に2-nitorophenolが約半分を占めた.逆に夏はモノニトロフェノールのジニトロ化の進行が示唆された.雨水に含まれるNPsやフィルターに捕集されたNPsについても分析を行ったところ,大気中NO2の増減と同じような季節変動を示した.一連の分析結果から,各種NPの存在状態は極性や反応性によってそれぞれ異なっており,また大気中で二次的な生成や消失を繰り返しながら大きく濃度変動していることが示された.