2014 年 63 巻 6 号 p. 455-465
温度はあらゆる化学反応を支配する物理量であり,細胞内温度は細胞内分子の動態や機能に強く影響している.またがん細胞などの病態細胞では亢進した熱発生があることが報告されている1).このことから,細胞内の温度計測により,細胞機能に関する理解が深まるとともに,新規診断,治療法の開発にも貢献すると期待されている.著者は,光を用いた高感度検出を可能とする光学顕微鏡を用いて細胞内温度を高感度かつ定量的に捉える方法を開発してきた.温度変化に鋭敏な応答を示す蛍光性ポリマー温度センサーを高感度イメージング法により検出することで,これまでにいずれも初となる単一生細胞の温度変化の追跡法や,生細胞内の温度分布を可視化する方法を開発した.これらを用いた細胞内温度計測は,従来明らかにされてこなかった細胞内温度に関する興味深い知見をもらしつつあり,生命科学にあまねく貢献できると期待される.